脱出せよ
頼みの綱の携帯様がご臨終なされて、体育座りで落ち込んでいると、ドアらしき所から一人の天人が現れた。


「目が覚めたようだな」

「ァあ?誰ですかてめー」

「お前たちをここに連れて来た者だ」


この、狼の頭をした天人が犯人らしい。あたしと銀さんは立ち上がり、睨んだ。


「いろいろ説明してもらおうじゃない。どういう事なの?これは」

「こっから出せよ」

「俺はお前らに恨みがあるんだよ。ちょうど標的の二人が一緒にいたもんだから、まとめて監禁したってわけよ」


恨み、ですとな。あたしはじとりと銀さんを見た。


「銀さん、何やったのよ」

「理御こそ、何やったんだよ」

「あたしは…心当たりがありすぎて何のことかわかんない」

「同じく」

「おいっ!!」


天人は青筋を立てながら、嘲笑した。


「ハッ、まあいい。ここから出て見るがいい、ここの扉の鍵は俺が持ってるし、さらに鎖があるから届くまいがな」


そいつはそう言い残して扉から出て行こうとする。ぽかんとしていると、ガチャリと鍵のかかった音が聞こえてハッとした。


「はァァァ!?い、意味わかんない!出しなさいよちょっとオォォ!」

「出れねえじゃん、やばいってコレ!!おいてめえええ!」


必死の叫びは狭い部屋に反響してぐわわわ…と響いた。しいんと静まり返る部屋の中。冷や汗が伝った。


「…とにかく、なんとかして出なきゃ…」

「…刀でなんとか鎖を斬ろう」

「っ刀!?」


慌てて腰を探ると、いつものあたしの愛刀がない。サーッと血が引いていくのがわかった。


「な、い…」

「…オイオイマジかよ」


銀さんの木刀もなくなっていた。ふと見ると、部屋の角に立てかけて置いてあった。もちろん、届かない。


「…銀さん」

「…何、理御ちゃん」

「どうしよう」

「…俺に聞くな」


引きつった笑いを漏らした。


*


「これより、脱出作戦を開始する!」

「おー!」


あたしと銀さんはがっしと手を握り合い、ここを脱出する事を誓った。こんなとこで野垂れ死ぬなんて、嫌だし。ここは協力しあうんだ!
まず、鎖をどうにかしなければ。かなり頑丈な鎖だけど。


「今手元にある武器は、あたしが隠し持ってたスタンガンだけ」

「スタンガンって、なんてモノ持ってんの理御ちゃん」

「副長補佐なんだからいいの!」

「いいのー?つか、スタンガンで鎖切れるっけ」

「無理でしょ」

「ですよねー!」


じゃら、と鎖を握りしめ、ちぎろうと引っ張ってもやっぱり無理。じゃあ、あれしかない。根元から断つしかない!


「柱を折ろう銀さん!」

「どうやって!?」

「人間、やれば出来るのよ!」

「ってちょっと待ってェェ!?」


柱にむかって思いっきり回し蹴り____しようとしたけど銀さんに全力で止められた。


「折れる!折れるから!」

「だから折ろうって!」

「足の骨が折れるからァァァ!」


*


その後、あらゆる事をやってみたが、全てうまくいかず。気がつけば、日が暮れていた。


「かなり…暗くなってきたね」

「だな。夜、どうすんだ?寒いだろ?」

「くっついて寝たらなんとか…」

「く、くっついて?」

「それしかないでしょ?」

「お、おう…」


部屋に一つしかない唯一光が差し込む窓の外は、もう真っ暗になりつつあった。だから、中も暗い。あたしは、ごくりと唾を飲み込んだ。
狭い、部屋。暗い。寒い。閉じ込められた。____出れない。
…体が震えそうだ。


「にしても、こう暗くなると、お互いの顔まで見えなくなりそう……理御?どうした?」

「…」


急に黙りこくったあたしを心配し、手を伸ばす銀さん。体に手が触れて、ビクッと肩が跳ねた。


「…おい?」

「……ッ…」


息をひっ、と吸い込む音が口から出る。お、落ち着け、落ち着けあたし。大丈夫だ、一人じゃないから。明日になれば出れるから。"あのとき"とは、違うから…そう思うけど、心臓がどくどくと早く打つ。


「や…やだ…」

「理御?」

「やだ、助けて…ここから出して…」


ぼろぼろと涙があふれる。


「一人は嫌だ、誰か、お、お母様、お父様…っ」


狭い、苦しい、暗い、さみしい…そのとき、肩をがしっと掴まれて抱き寄せられた。


「なんか、知らねーけど…大丈夫だから。俺がなんとかしてやる」


銀さん…。
震える手で、銀さんにしがみついた。







脱出せよ

(銀ちゃん、遅いアルな…)
(銀さんのことだから大丈夫だとは思うけど…)
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