兎が二匹、迷子のようで
いつものように、一人で江戸の見廻りをしていた。
今日も江戸は平和だ。


「おまわりさーん」


ひと気のない道に入った時、声がして、振り向くと、傘を持った男が二人。一人は三つ編みをしていて、にこにこと笑って手を振っている。もう一人はボリボリと頭をかきながら、やる気のない目をした人だ。


「どうかしましたー…?」

「お、かわいいネ。俺好みだ」

「は?」

「このすっとこどっこい。それどころじゃねーだろうが」

「そうだった。ここ、どこ?ターミナルまでの地図とかないかい?」


何この人たち。迷子?つまり迷子なの?少し引きながらも、地図を取り出す。


「地図ならあるわ」

「じゃあそれ頂戴。説明してよ」


ずいぶん上から目線だなあ…でも気にしたら負けだ。地図を広げて指差した。


「今いるのはここ。で、ターミナルはここ。方角だけで言うと、あっちの方に行けば着くわ」


アバウトすぎたかなと思ったけど、三つ編みおにーさんはにっこり笑って頷いた。


「うん、分かった。ありがと」

「え、今ので分かったの?」

「うん。大体の方角さえ分かれば着くからネ」


へー。じゃあもういいかな?ではお気をつけて、と立ち去ろうとした時、もう一人のおにーさんが口を開いた。


「嬢ちゃん、刀持ってるんだな」

「ああ、そうよ」


真選組だからね。あ、あたしが真選組って気づいてないのか。


「へえ、女なのに、戦えるの?もしかして君、"侍"?」


三つ編みのおにーさんの目の色が変わる。いや、侍って言うか、真選組なんだけど。


「まあ…」


あいまいに濁すと、ふうんと頷いてにこにこと笑った。


「じゃあ、俺と遊んでよ」

「え?…ッ!」


三つ編みが揺れたかと思えば、次の瞬間には目の前にいた。咄嗟に後ろにジャンプする。その判断は正解だったらしい。あたしが避けなかったら、繰り出された蹴りに吹っ飛んでいたことだろうから。


「反応はいいね」

「な、なにするのよっ!」

「君、強いんでしょ?俺と遊んでよ。大丈夫、加減はするからさ」

「今の絶対本気だった!」

「え?全然。本気の10分の1くらいだよ」

「ったく、こうなるだろうと思ったよ。おい団長、早いとこ終わらせてくれよ」

「分かってるよ阿伏兎」


今のが遊びの蹴りなの!?なんなのこいつら…!あたしはすらりと刀を抜いた。


「本気で行くわよ…じゃないとこっちが殺られそう!」

「そうそう、良い目だネ。じゃ、はじめようか」


にこにこと笑いながらも、目を鋭くするその人。青い目があたしを捉えた。

たん、と地面を蹴った。思い切り刀を振り下ろすが、かわされて空を斬る。振り向きざまに斬りつけると、傘で防がれた。
力では勝てない。それを分かっているから、防がれてすぐに押す事なく後方へジャンプして一度間合いをとる。
すぐに距離を詰められ、傘を剣のように振り下ろして来た。
えええあの傘って戦闘用なの!?
傘の猛攻を避ける。しかし、すごい速さでギリギリ避けられているくらい。何度もかすり、かすった所がジンと熱を持つ。


「傘ってこんなに強かったっけ!?うわっ」

「ほらほらちゃんと避けないとケガするよ」


次に来た傘の攻撃を刀で受け止めた。案の定、よろりとふらついたが足でくいとどまる。受け止めた傘をなんとか除けて、突く。


「おっと!」


すると、その場でバク転をして刀を蹴り上げ、回避しやがった。思わず舌打ち。
体制を整えるわずかな隙に、今だとばかりにあたしが刀を振り上げて高速で連続技を放つ。


「あ」

「…!」


そのうちの一つが浅くではあるが腕に赤い線を作り、血がにじむ。やっと傷が入ったと一瞬気が緩んだ瞬間。


「よ」

「ッ、きゃあッ!」

ドゴォン!!


避け遅れた蹴りがまともに腹に直撃し、壁に激突して崩壊した。


「がふっ、げほゴホッ。はあ、はあ…」


くそ…今のは、痛いぞ…


「ふう、楽しかったよ。俺が見て来た人間の女の中では一番強いかも」


傘をさしながら満足気に言う。


「…そりゃどうも。でも、あたしより強い女なんかたくさんいるわよ」

「そうでもないよ。ねえ阿伏兎、こいつ連れて帰ったらだめ?」

「言うと思ったぜこのすっとこどっこい!いいわけねーだろ。とりあえず時間が押してる、今日のところは行くぜ」

「はいはい、仕方ないな」


連れて帰るとかなんとか、耳を疑う単語が聞こえて来たけど、とにかくやっと帰るらしい。阿伏兎って人、ナイス。


「名前は?」

「…天海、理御」

「理御ね、俺は神威。気に入った。また会いに来るよ」


ばいばい、と手を振られて、阿伏兎と呼ばれていた人がすまねぇな、と一言声をかけて来て、それに答えると二人は高く飛び上がった。


「って、飛び上がったァ!?」


高く高く飛び上がり、屋根の上に一瞬でつくと、あたしが指差した方向に去って行った。
…だから大体の方角さえ分かれば着くって言ったのね…
某然とそれを見つめる。

で、結局何だったのかしら。最後まで何者かさえ分からずじまいだったな…。ていうか、この壁どうしたらいいの。総悟のバズーカ並みじゃん、この壊れ方。なんでただの蹴りでこんなことになるかな。
そのとき、携帯が鳴る。


「もしもし?」

「おう、理御か」

「トシ…」


少しぎくりとする。あーあ、絶対始末書書かされる、お怒りになるだろうなあ…


「どうしたの?」

「今、宇宙海賊春雨の船がターミナルの近くに来てるらしい。見廻り終えて帰って来い。奇襲は今日はしねェが、念のためだ」

「…はるさめ」


まさか、ねえ。
さっきの二人が脳内をよぎり、はは、と乾いた笑いをこぼしたのだった。







兎が二匹、迷子のようで

(おまっ、その傷どうした!)
(ちょっとね…)
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