夢から覚めて
意識が浮上する。
まだ火照る体にムチを打ち、なんとかまぶたを押し上げた。


「…う…」


喉がカラカラで、声も出ない。上半身だけ起き上がると、頭に乗っていた溶けた氷水の袋とぬるくなった濡れタオルが落ちた。


「理御っ!!」


総悟がぼんやりと見えて、目をこすった。


「ぞ…ご…みず」


水をくれと訴えると、すぐさまペットボトルを手渡された。正直、喉を何か通るだけでヒリヒリするが、そこはおさえてこくりと飲む。


「まだ寝てろ、全然回復してねぇだろィ」


珍しく心配そうな総悟。こくりと頷いた。しばらくボーッとしていると、総悟が口を開いた。


「理御が寝込んでる間、隊士達を静めるの大変だったんだからな。補佐のお見舞いだっつって、全員で押しかけてよ…まあ、寝させるために追い返しやしたけど」


ふふ、と苦笑い。みんな、心配してくれたのか。こんなにも寝込んだのは久しぶりだったし、まあ無理もないんだけど。美紀が看病してくれていたことも聞いた。後でお礼言わなくちゃ。
それにしても…


「………ずいぶん、懐かしい夢を見たわ…」


寝ている時に泣いていたのか、視界がぼやけていたのは涙のせいでもあるようで、目頭をぬぐった。


「夢?」


総悟は側に用意していた冷たい水の張った桶にタオルを浸しながら聞き返した。


「昔の…あたしが、助けてもらった、頃の…夢…」

「…だからあんな寝言言ってたのか」

「寝言…?」

「ああ。助けてーだの、ごめんなさいーだの。さっき言ってたのは、ありがとうとかも聞こえた」


…恥ずかしい。総悟はぎゅっとタオルを絞る。


「ったく、なんで眠りながら泣いてんだか。…もう俺達がいるから泣く必要なんてないんでィ」


ほら寝やがれ、と枕を叩かれる。あたしはいまだくらくらしながらもくすりと笑った。


「…ありがと、総悟」


またゆっくりと体を傾けたとき、総悟が急にそういえばと声をあげた。


「忘れてやした。まだ寝んな」


頭と枕の間に手を入れられ、無理矢理起こされる。頭痛いんですって。


「…何」

「医者から薬もらったんでさァ。飲みやがれ」


ペットボトルとカプセルを渡してくるが、受け取ろうとしない。薬、嫌。キライ。まずいし、苦いし、まずいし!!ということであたしは総悟の手を押しやった。


「嫌」

「飲め」

「嫌」

「飲め」

「嫌」


しばらくその攻防が続いていたが、あたしが頑なに受け取ろうとしない。総悟があたしをぎろりと睨む。


「口移しで飲ませるぞてめー」


口移し!?あたしは慌てて口を抑えた。


「うつっちゃうでしょ!?だめよ!」

「…少しくらい照れやがれ」

「は?」

「何もありやせん」


ちょっと総悟の言ってる意味がわかんなかったけど、とりあえず拒否していると、総悟が大きくため息をついた。


「…飲まなかったら、治ってから一週間、俺の奴隷でさァ」

「ぇ」

「首輪に鎖、這いつくばって俺と見廻り。俺のことはご主人様と呼んで、たくさんご奉仕____」

「ごめんなさい飲みますぜひ飲ませてください」

「それでいいんでィ」


そんな仕打ち、プライドが許さない。これでも副長補佐だ。手渡されたカプセルを睨んで、覚悟を決めるとぐいっと喉に押しやった。そしてすぐに水を流し込む。


「っは…」


苦い。あーやだやだ、もーまずい…こんな思いして飲んだんだから、良くならなかったら承知しないんだから。枕に頭を乗せると、総悟がタオルを頭に乗せた。


「よし、じゃあ寝ろ」

「…ん。ありがと総悟」

「この礼はいつかもらうぜィ」


そしてゆっくりまぶたを閉じた。







夢から覚めて

(すー…すー…)
(全く、世話のやける補佐様でィ)
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