一筋の光
寒さに目がさめると、そこは眠る前と同じ暗い小屋の風景があった。


「………」


昨日の事を思い出してしまう。
だめだ、楽しい事を考えよう。ここから出たら…出たとしても、あたしには身よりもなくなったんだ。じゃあ、もう出ても出なくてもいいじゃないか?
そう思いつつも、誰か扉を開けてくれるのを待った。ドンドンと扉を叩く。


「助け…て…」


枯れた声で叩いていたが、諦めて椅子に座る。はぁ、とため息をついた。食べ物もなく、この暗くせまい中で何日持つのか。

そうして二日たった。もう精神的にも身体的にも限界だった。
助けて、誰か…。ごめんなさい、お父様、ごめんなさい、お母様、助けて、出して、許して、ここから出して…
床に倒れこんで涙を流しながらぶつぶつとつぶやいていた。
そのときだった。ガタガタと久しぶりに音がして、男の声も聞こえた。そして、一筋の光が______


「おい、誰かいるぞ」

「女でさァ」

「大丈夫か!?こんなところで…おい!しっかりしろ!!」


ああ、光だ…。
つうっと涙がつたった。心の底から安心して、ふっと意識を手放した。


*


目がさめると、そこは知らないところで、布団に寝かされていた。目がさめてそこが小屋じゃないのが嬉しくて、それだけで泣きそうだった。


「気がついたのね!」


綺麗な女の人が嬉しそうにする。傍には男が二人いる。あたしは…どうなったんだ…


「起きたか!大丈夫か?」


男の人が小さな器を持って歩いて来る。それをあたしに差し出した。


「腹減ってるだろ?おかゆだ。食うといい」


受け取ると、おそるおそる口に運ぶ。あったかくて、おいしくて、体に染み渡った。
涙があふれた。


「あら!近藤さん、泣いてますこの子」

「なーかした、なーかした」

「うわ!ほんとだ!どうしたんだ!?変なものはいれてないはずなんだがなあ」

「まずかったか?マヨかけるか?」

「いえいえ、タバスコかけたほうがいいですよ。それか七味唐辛子が足りないんですよ」

「姉上、それはさすがに…」


ぎゃあぎゃあとうるさく起こる光景も、とても暖かくて、温かくて、涙が止まらない。おかゆを食べきり、お水も飲ませてもらって、ほうっと息をついた。やっと涙も止まってきた。


「落ち着いた?」


こくんと頷くと、女の人はあたしの頭を撫でた。


「あなたのこと、教えてくれる?私は沖田ミツバ」

「俺は近藤勲だ!」

「俺ァ沖田総悟」

「土方十四郎だ」

「…天海、理御」


理御ちゃんね、とにっこりと笑うミツバさん。近藤と名乗った男がおかゆの入っていた器を下げながら、あたしにゆっくり問いかける。


「理御ちゃんは、なぜあんなところにいたんだ?」


唇を噛んで俯くと、近藤さんは嫌なら言わなくていいんだ、と慌ててつけたした。助けてくれたのだから、説明するべきだと思いつつも、声が震えた。


「…あたしは…両親から捨てられたの」

「何?」


土方と名乗った男が眉を寄せる。やっと止まった涙がまた溢れ出す。堰を切ったように話し始める。


「前まで仲良く暮らしてたはずだったのに、小屋から出るなって…いらないって…出してくれなくて、怖くて、せまくて、暗くて、二日間あのままで…嫌だ、もうあんなのは嫌だ…っ」


ガタガタと震え、泣いていると、ミツバさんがあたしをぎゅっと抱きしめた。


「辛かったのね…。もう大丈夫だからね。…ここにいたらいいわ。ねえ、いいでしょう近藤さん?」


ミツバさんのぬくもりが嬉しくて、ミツバさんの着物に涙のしみを作っていると、近藤さんが力強く頷いた。


「もちろんだ!居場所がないなら作っちまえばいい。案ずることはない!俺達がいるからな。またにぎやかになるぞ!」

「…ふん」

「しかたねェな」


嬉しすぎる言葉に、ミツバさんから離れて近藤さんを見つめた。初対面なのに、なんでそこまでしてくれるの?そう思いながらも、今頼れるのはこの人達しかいない。


「…ありがとうございます。…この恩は忘れない…助けてくれて、光をくれて……ありがとう…」


涙ながらに頭を下げると、近藤さんは満足そうににっこりと笑ったのだった。







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