意識が朦朧とする。
だるくて熱くて苦しい。昨日から変だったんだ。何が原因だったのかな…積み重なって、疲れとかが一気に出たのかもしれない。朝、起きたらすでにこんな状態で、なんとか着替えて出て来たのは良かったけれど力尽きてしまった。
駄目だ、動けそうにない。今は眠って体を休ませよう…
____誰かが言ってた。
高熱のときに見る夢は、たいてい悪夢だと。あたしがそのとき見たその夢も、例外ではなかった。あたしが見た悪夢は、天海理御の過去だった。
あのころの記憶が、蘇る______
*
そのときあたしは、今よりずっと小さくて、大人ぶって頑張って背伸びをしていた、10代前半だった。お父様とお母様と三人で、仲良く楽しく暮らしていたんだ。
それまでは。
その日は珍しく、いつも忙しそうにしている両親がにこにこと遊びに誘ってくれた。
「理御、お父様とお母様とピクニックに行こうか」
「久しぶりにね」
あたしはピクニックなんて年ではなかったけど、久しぶりの家族みんなでの外出が嬉しくて、満面の笑みで頷いた。
「楽しみね」
「うん!でも、急になんで?」
「そういう気分だったのさ」
お弁当を作って、歩いて丘まで行こうということになり、うきうきと歩きながら、話に花を咲かせていた。
丘までの途中、小屋があった。小屋には毛布もなく、あるのは無造作におかれた椅子と机だけだった。そこでご飯を食べて。話して、過ごしていた。
…思えばおかしかったんだ。小屋には窓一つなくて、すごくせまくて、そんなところに入ろうだなんて。
外は暗くなりはじめて、帰ろうかとランタンを手に両親が立つ。先に両親が小屋から出て、あたしも出ようとした、そのとき。
扉がしまった。
「…え?」
開けようとしても、あかなくて。
「お母様?お父様?開けてよ」
すると、とても冷たい声が返って来た。
「誰が開けるものか」
「ずっとそこにいなさい」
それは、今の今まで楽しく過ごしていた両親とは思えないくらい、ドア越しの冷たい声。
「え?どういうこと?とにかく、開けてよ」
「もうお別れよ、理御。あなたなんていらないの」
あたしは何が起きたのかよくわからなかった。理解出来なくて、理解したくなくて、心の何処かでこれは嘘なんだと現実逃避してた。
「え…?」
「まだ理解しないのか?だから、お前を捨てるということだよ。いらないんだ、お前なんか」
「ここで死んで行きなさい。必要ないの、あんたなんか」
がつんと鈍器で頭を殴られたようだった。涙が溢れ出す。
あたしなんて、いらない…?嘘、だってあんなに楽しくしていたのに…
「全部演技に決まってるじゃない」
どこで歯車が狂いだしてしまった?どこで間違った?どうやったら出してくれる?何もわからない、だからあたしは謝るしかなかった。
「ごめんなさいっ、ごめんなさい!許してください、だから出して!こんなところに一人は嫌だ…お母様!お父様!」
「警察沙汰になったらまずい。出すわけにはいかない」
「もうお母様なんて呼ばないで頂戴」
ガタンと音がする。枷がはめられた音だろうか。ドンドンと叩くがビクともしない。
「お別れよ、理御」
「理御、さようなら」
血の気がなくなっていく。渾身の力で叫んだ。
「待って!行かないで!!お母様ぁぁぁあ!!お父様ぁぁあ!!」
足音が消えていく。最後の言葉が、頭の中で反響する。いらないという言葉が。死んで行けという言葉が、あたしの脳内にリフレインする。これが嘘だったらどんなにいいか。今にもお母様とお父様が扉を開けて嘘だよと笑ってくれたら、どんなに嬉しいか。
「…帰って来て…」
ずるずると扉に手をつきへたりこむ。____両親が帰って来ることはなかった。
「…ぁ…あああああああ!!」
今聞いたことを忘れてしまうくらい、頭を抱えて泣き叫ぶ。その声で誰か気づいて、扉を開けてくれないかという思いもあった。
今までの記憶が、走馬灯のように蘇る。
お母様と料理をした。お父様と遊んだ。三人で、笑って、過ごして来た日々を。____それも全部、嘘だった。違ったんだ。あたしだけが楽しくて、あたしだけが笑っていた。あたしは荷物だったんだ。今までの全てが嘘だったわけじゃないかもしれないけど。もしかして、この小屋さえあらかじめあたしを捨てるために用意していた小屋なのかもしれない。
泣き疲れて、声も掠れてきた頃、気づけば真っ暗だった。小窓さえないせまい小屋には、光はさしてこない。そうでなくても夜になっているであろうから、どっちにしろ暗い事にかわりはない。
暗くて、せまくて、寒くて、さみしくて、こわい。あたしは冷たい床に横になると、自分の体を抱きしめながらぎゅっと目を瞑った。
朝起きたら、自分の部屋でありますようにと、願いながら。
あのときの記憶
だるくて熱くて苦しい。昨日から変だったんだ。何が原因だったのかな…積み重なって、疲れとかが一気に出たのかもしれない。朝、起きたらすでにこんな状態で、なんとか着替えて出て来たのは良かったけれど力尽きてしまった。
駄目だ、動けそうにない。今は眠って体を休ませよう…
____誰かが言ってた。
高熱のときに見る夢は、たいてい悪夢だと。あたしがそのとき見たその夢も、例外ではなかった。あたしが見た悪夢は、天海理御の過去だった。
あのころの記憶が、蘇る______
*
そのときあたしは、今よりずっと小さくて、大人ぶって頑張って背伸びをしていた、10代前半だった。お父様とお母様と三人で、仲良く楽しく暮らしていたんだ。
それまでは。
その日は珍しく、いつも忙しそうにしている両親がにこにこと遊びに誘ってくれた。
「理御、お父様とお母様とピクニックに行こうか」
「久しぶりにね」
あたしはピクニックなんて年ではなかったけど、久しぶりの家族みんなでの外出が嬉しくて、満面の笑みで頷いた。
「楽しみね」
「うん!でも、急になんで?」
「そういう気分だったのさ」
お弁当を作って、歩いて丘まで行こうということになり、うきうきと歩きながら、話に花を咲かせていた。
丘までの途中、小屋があった。小屋には毛布もなく、あるのは無造作におかれた椅子と机だけだった。そこでご飯を食べて。話して、過ごしていた。
…思えばおかしかったんだ。小屋には窓一つなくて、すごくせまくて、そんなところに入ろうだなんて。
外は暗くなりはじめて、帰ろうかとランタンを手に両親が立つ。先に両親が小屋から出て、あたしも出ようとした、そのとき。
扉がしまった。
「…え?」
開けようとしても、あかなくて。
「お母様?お父様?開けてよ」
すると、とても冷たい声が返って来た。
「誰が開けるものか」
「ずっとそこにいなさい」
それは、今の今まで楽しく過ごしていた両親とは思えないくらい、ドア越しの冷たい声。
「え?どういうこと?とにかく、開けてよ」
「もうお別れよ、理御。あなたなんていらないの」
あたしは何が起きたのかよくわからなかった。理解出来なくて、理解したくなくて、心の何処かでこれは嘘なんだと現実逃避してた。
「え…?」
「まだ理解しないのか?だから、お前を捨てるということだよ。いらないんだ、お前なんか」
「ここで死んで行きなさい。必要ないの、あんたなんか」
がつんと鈍器で頭を殴られたようだった。涙が溢れ出す。
あたしなんて、いらない…?嘘、だってあんなに楽しくしていたのに…
「全部演技に決まってるじゃない」
どこで歯車が狂いだしてしまった?どこで間違った?どうやったら出してくれる?何もわからない、だからあたしは謝るしかなかった。
「ごめんなさいっ、ごめんなさい!許してください、だから出して!こんなところに一人は嫌だ…お母様!お父様!」
「警察沙汰になったらまずい。出すわけにはいかない」
「もうお母様なんて呼ばないで頂戴」
ガタンと音がする。枷がはめられた音だろうか。ドンドンと叩くがビクともしない。
「お別れよ、理御」
「理御、さようなら」
血の気がなくなっていく。渾身の力で叫んだ。
「待って!行かないで!!お母様ぁぁぁあ!!お父様ぁぁあ!!」
足音が消えていく。最後の言葉が、頭の中で反響する。いらないという言葉が。死んで行けという言葉が、あたしの脳内にリフレインする。これが嘘だったらどんなにいいか。今にもお母様とお父様が扉を開けて嘘だよと笑ってくれたら、どんなに嬉しいか。
「…帰って来て…」
ずるずると扉に手をつきへたりこむ。____両親が帰って来ることはなかった。
「…ぁ…あああああああ!!」
今聞いたことを忘れてしまうくらい、頭を抱えて泣き叫ぶ。その声で誰か気づいて、扉を開けてくれないかという思いもあった。
今までの記憶が、走馬灯のように蘇る。
お母様と料理をした。お父様と遊んだ。三人で、笑って、過ごして来た日々を。____それも全部、嘘だった。違ったんだ。あたしだけが楽しくて、あたしだけが笑っていた。あたしは荷物だったんだ。今までの全てが嘘だったわけじゃないかもしれないけど。もしかして、この小屋さえあらかじめあたしを捨てるために用意していた小屋なのかもしれない。
泣き疲れて、声も掠れてきた頃、気づけば真っ暗だった。小窓さえないせまい小屋には、光はさしてこない。そうでなくても夜になっているであろうから、どっちにしろ暗い事にかわりはない。
暗くて、せまくて、寒くて、さみしくて、こわい。あたしは冷たい床に横になると、自分の体を抱きしめながらぎゅっと目を瞑った。
朝起きたら、自分の部屋でありますようにと、願いながら。
あのときの記憶