ある朝。
理御が食堂にやって来た。俺は朝の一服を楽しんでいるところだった。
「お、理御。朝っぱらから悪いが今日の仕事の件で用があるから、後で副長室来てくれ」
煙草の煙をふうっと吐きながら理御に声をかけると、理御はやけにゆっくりとした歩みを止めて立ち止まった。顔はずっと俯いている。何かあったのか…?
「おい、理御?」
理御の肩を叩くと、理御はぐらりと傾いた。
「お…!?」
とっさに体を支えると、理御は体をあずけて荒く息をつきぐったりとしている。まさかと思い額に手を当てると、尋常ではないほど熱くてさっと手を引っ込めた。
「なんだこりゃ!理御っ!おい、しっかりしろ!っくそ…!」
腕を掴むと、腕さえ熱くて驚く。そこに総悟があくびしながらやってきた。
「おはようごぜえやす土方さん。朝っぱらからなんですかィ、理御に何しやがった?」
「理御がぶっ倒れた!熱がやべぇ。こいつの部屋につれてくからタオルと氷、あと近藤さんに伝えてくれ!」
「っ…分かりやした。すぐ戻りやす!」
膝に手を入れ、抱きかかえて走り出す。総悟も理御がぶっ倒れたとなると珍しく素直に従った。
普段理御の部屋には許可なしでは入れないが、今回ばかりは許せよ、と心の中で思いながら理御の部屋にずかずかと入る。きちんとたたまれた布団を乱暴に広げ、とりあえずなんとか寝かせる。苦しそうに大量の汗をかき、顔は真っ赤。見ていられず、隊服の上着とスカーフをとってやり、一番上のボタンも外してやる。
と、そこに氷のたくさん入った袋と濡らしたタオルと水を持った総悟が近藤さんをつれて走って来た。
「持って来やした!」
「大丈夫か理御ちゃん!」
「大丈夫じゃねぇみてぇだ」
タオルを頭にのせてその上に氷をおく。あとは医者を呼ぶか…と考えていると、理御が小さく唸る。
「ぅ…うう……はぁ、はぁ…」
こんな理御ははじめてだ。風邪はあまりひかないタイプなのに、珍しいな。
「体温計も持って来やした。計らせよう」
脇に体温計をはさませると、しばらくのち、ありえない数字が出た。
「40.1!?見たことねぇぞこんな数字」
「す、すぐに医者を!」
近藤さんが慌てて立ち上がったそのとき、理御がうっすらと目を開けた。しかし、焦点が定まっておらず、うつろだ。そして、唇を動かし、かすかに声を出した。
「……さま、ぉか…さま…」
「…?」
「め…なさい……たす……て」
お父様、お母様。ごめんなさい、助けて_____
涙をボロボロと流しながら荒い息の中声を紡ぎ、震える手をゆっくりと伸ばす。近藤さんは理御の手を両手でがっしりと握り、包み込んだ。
「大丈夫だ、理御ちゃん。俺達がいる。大丈夫だから」
「ごめ……さい…ごめん……い…許し……て…」
しばらくそうしていると、ゆっくりと目を閉じて眠りに落ちていった。
「今のは…寝言か」
ぼそりとつぶやく。
熱のせいだろう。悪夢を見ているのか…?
「昔の記憶が熱で蘇って来たのかも知れんな。俺は医者を呼んで来る、後を頼んだぞ」
近藤さんはそう言い残して走って出て行った。…しかしそう言われても、こんなことはじめてだし、どうすりゃいいんだ?今まで隊士が風邪ひいたときは、とりあえず寝ときゃぁ治るって言って寝かせただけだし…その後は理御が看病してたからな…。でも今回は、そんな隊士の風邪とはワケが違うぞ。とても苦しそうだし熱だって高いし、何より女だし…どうすれば…?
一人もんもんと悩んでいると、総悟が立ち上がりどこかへ行こうとした。
「お、おい。どこに行くんだ?」
「理御と仲がいい女中がいただろィ。そいつに世話頼んで来まさァ。俺たちじゃ看病なんてロクに出来やしねーからな」
その手があったか!総悟と理御の部屋を出て女中を探していると、洗濯物を干している女中を見つけた。
「おい、お前。ちょっと来い。頼みたい事がある」
声をかけると、そいつは俺たちを見てぱちくりとした。
「副長と隊長が私に用があるなんて、珍しいですね。どうしたんですか?」
「理御がぶっ倒れたんでィ。看病してくだせェ。どうしていいかわかんねーんだ」
「理御がっ!?」
持っていた最後の洗濯物を落としてしまって、慌てて干し終えると血相変えて走り出した。
「いっ、行きましょう!早く!」
ダッシュで理御の部屋に入ると、寝ている理御にかけよる。
「ひどい熱…!汗拭かなきゃ!タオル持って来てください。あと、脱がせるんで出て行ってください!」
すごい剣幕に部屋を出て言われるままにタオルを取りに行く。
近藤さんが医者を連れてきたのはその少し後で、風邪をこじらせたのだろうということだった。薬をもらって、女中がほんの少しホッとしていた。
理御がいない俺一人の副長室は、なんだかやけに広く、物足りなく感じた。
風邪ってこじらせると酷い
(補佐のお見舞いに全隊士が来てますが)
(入れんな。静かにしてやれ)
(…早く良くなるといいですね)
(…そうだな)
理御が食堂にやって来た。俺は朝の一服を楽しんでいるところだった。
「お、理御。朝っぱらから悪いが今日の仕事の件で用があるから、後で副長室来てくれ」
煙草の煙をふうっと吐きながら理御に声をかけると、理御はやけにゆっくりとした歩みを止めて立ち止まった。顔はずっと俯いている。何かあったのか…?
「おい、理御?」
理御の肩を叩くと、理御はぐらりと傾いた。
「お…!?」
とっさに体を支えると、理御は体をあずけて荒く息をつきぐったりとしている。まさかと思い額に手を当てると、尋常ではないほど熱くてさっと手を引っ込めた。
「なんだこりゃ!理御っ!おい、しっかりしろ!っくそ…!」
腕を掴むと、腕さえ熱くて驚く。そこに総悟があくびしながらやってきた。
「おはようごぜえやす土方さん。朝っぱらからなんですかィ、理御に何しやがった?」
「理御がぶっ倒れた!熱がやべぇ。こいつの部屋につれてくからタオルと氷、あと近藤さんに伝えてくれ!」
「っ…分かりやした。すぐ戻りやす!」
膝に手を入れ、抱きかかえて走り出す。総悟も理御がぶっ倒れたとなると珍しく素直に従った。
普段理御の部屋には許可なしでは入れないが、今回ばかりは許せよ、と心の中で思いながら理御の部屋にずかずかと入る。きちんとたたまれた布団を乱暴に広げ、とりあえずなんとか寝かせる。苦しそうに大量の汗をかき、顔は真っ赤。見ていられず、隊服の上着とスカーフをとってやり、一番上のボタンも外してやる。
と、そこに氷のたくさん入った袋と濡らしたタオルと水を持った総悟が近藤さんをつれて走って来た。
「持って来やした!」
「大丈夫か理御ちゃん!」
「大丈夫じゃねぇみてぇだ」
タオルを頭にのせてその上に氷をおく。あとは医者を呼ぶか…と考えていると、理御が小さく唸る。
「ぅ…うう……はぁ、はぁ…」
こんな理御ははじめてだ。風邪はあまりひかないタイプなのに、珍しいな。
「体温計も持って来やした。計らせよう」
脇に体温計をはさませると、しばらくのち、ありえない数字が出た。
「40.1!?見たことねぇぞこんな数字」
「す、すぐに医者を!」
近藤さんが慌てて立ち上がったそのとき、理御がうっすらと目を開けた。しかし、焦点が定まっておらず、うつろだ。そして、唇を動かし、かすかに声を出した。
「……さま、ぉか…さま…」
「…?」
「め…なさい……たす……て」
お父様、お母様。ごめんなさい、助けて_____
涙をボロボロと流しながら荒い息の中声を紡ぎ、震える手をゆっくりと伸ばす。近藤さんは理御の手を両手でがっしりと握り、包み込んだ。
「大丈夫だ、理御ちゃん。俺達がいる。大丈夫だから」
「ごめ……さい…ごめん……い…許し……て…」
しばらくそうしていると、ゆっくりと目を閉じて眠りに落ちていった。
「今のは…寝言か」
ぼそりとつぶやく。
熱のせいだろう。悪夢を見ているのか…?
「昔の記憶が熱で蘇って来たのかも知れんな。俺は医者を呼んで来る、後を頼んだぞ」
近藤さんはそう言い残して走って出て行った。…しかしそう言われても、こんなことはじめてだし、どうすりゃいいんだ?今まで隊士が風邪ひいたときは、とりあえず寝ときゃぁ治るって言って寝かせただけだし…その後は理御が看病してたからな…。でも今回は、そんな隊士の風邪とはワケが違うぞ。とても苦しそうだし熱だって高いし、何より女だし…どうすれば…?
一人もんもんと悩んでいると、総悟が立ち上がりどこかへ行こうとした。
「お、おい。どこに行くんだ?」
「理御と仲がいい女中がいただろィ。そいつに世話頼んで来まさァ。俺たちじゃ看病なんてロクに出来やしねーからな」
その手があったか!総悟と理御の部屋を出て女中を探していると、洗濯物を干している女中を見つけた。
「おい、お前。ちょっと来い。頼みたい事がある」
声をかけると、そいつは俺たちを見てぱちくりとした。
「副長と隊長が私に用があるなんて、珍しいですね。どうしたんですか?」
「理御がぶっ倒れたんでィ。看病してくだせェ。どうしていいかわかんねーんだ」
「理御がっ!?」
持っていた最後の洗濯物を落としてしまって、慌てて干し終えると血相変えて走り出した。
「いっ、行きましょう!早く!」
ダッシュで理御の部屋に入ると、寝ている理御にかけよる。
「ひどい熱…!汗拭かなきゃ!タオル持って来てください。あと、脱がせるんで出て行ってください!」
すごい剣幕に部屋を出て言われるままにタオルを取りに行く。
近藤さんが医者を連れてきたのはその少し後で、風邪をこじらせたのだろうということだった。薬をもらって、女中がほんの少しホッとしていた。
理御がいない俺一人の副長室は、なんだかやけに広く、物足りなく感じた。
風邪ってこじらせると酷い
(補佐のお見舞いに全隊士が来てますが)
(入れんな。静かにしてやれ)
(…早く良くなるといいですね)
(…そうだな)