一ヤマ終わり、みんなの緊張感が解ける。パトカーにみんなが乗り込む際、近藤さんがトシに話しかけた。
「トシ、ホントにあいつらに浪士達を任せて大丈夫なのか」
「心配いらねーよ。投降してきた連中を斬り殺すようなマネは流石に奴等もしねーよ、処遇については松平のとっつぁんに言付けておくさ」
これが最善策。でもねー、なんか腑に落ちないのよねえ。だって…
「これで見廻組の評判はうなぎのぼり。あっちはおいしいとこどりじゃない」
「んなこたァねーさ。なんせこっちは」
トシがガチャッとパトカーのドアを開ける。その中には、手錠で手を縛られた銀さんが額に青筋立てて座っていた。
「超大物のホシあげたんだ…なぁ白夜叉殿」
「そうだった、銀さん!」
「だからモトだよモト!てめーら俺のおかげで助かったのに恩を仇で返すつもりか!!」
銀さんが桂達と並ぶ伝説の攘夷志士、白夜叉だったなんて、驚きだけどなぜか納得してしまう。ただものじゃないとは思ってたから。銀さんはあたしをすがるように見つめた。
「〜っ理御ちゃん助けて!お願い、300円あげるからァァ」
「やっす!!…あ〜…まあ…そうね…。…トシ、銀さんは確かに白夜叉だろうけど、助けてくれたんだし、今はとりあえず一般市民なんだし…放してあげようよ」
「きゃー理御ちゃん優しい!!」
「ァあ?理御は甘ェんだよ!!」
「ごめんトシの説得無理でした」
「諦め早っ!!」
トシの説得なんて高度な技、あたしには無理だ。銀さんはならばと隣に座っていた鉄の方を向いた。
「だったらこいつも元攘夷浪士だろうが!!パクんならこいつもパクれ!!」
鉄は泣きそうな顔をしていたが、ついに涙を溢れさせながら身をのりだした。
「その通りっス、責任をとらせてください!自分切腹するっス!」
「えええええいやちょっと待ってそーいう流れにしたいんじゃないんだけど!!」
銀さんに構わずさめざめと語り出す。
「自分…みんなに…元攘夷浪士である事が知れるのが恐くて…そのせいで…みんなにこんなに迷惑かけて…折角預かった手紙さえも、届ける事が出来なかった。副長の兄上にも…自分の兄貴にさえも」
ぐすんとすする。みんな、しんとなる。その中で、トシが口を開いた。
「届かなかったんならもう一度出せばいいさ。今度は自分自身の手で。今度はてめーの番だろーが。確かにてめーの兄貴には届かないかもしれねェ…だがな少なくとも…」
そしてトシはあたし達を見渡した。いつのまにか後ろには、隊士達が集まっていた。
「お前と同じこのロクでもねェ兄貴どもにはきっと届くさ」
みんなが鉄に優しい笑みを向ける。もちろんあたしも。
「…鉄、てめーの手紙…俺たちはいつでも待ってる事を…忘れん…な…」
トシはぐらりと傾くと、そのまま力尽きたように倒れた。
「「ふっ、副長!!」」
「オイトシ!?」
「トシ!…無理しすぎ。全く、こりないんだから」
駆け寄りながら、あたしも意識が朦朧として来たのを感じていた。脇腹が致命傷だったかな…。でも貫通しててここまで持ったなら、上出来かな。フッと笑ってトシの隣にあたしも倒れた。
「!?副長補佐ァァ!」
「理御ちゃん!!おい!トシと理御ちゃんを急いで運べェェェ!」
近藤さんの声を遠くなる意識の中うっすらと聞いて、眠りについたのだった。
*
目を覚ますと、目の前、鼻と鼻がくっつくほど近くに総悟がいた。
「っ!?」
「やっと起きやした。ったく、どんだけ寝たら気がすむんでィ」
総悟は顔を離すと後ろに下がる。ここは…病室か。痛む包帯だらけの脇腹をさすりながらゆっくり起き上がると、近藤さんと総悟がいて、隣のベッドにはトシが座っていた。
「理御、またてめー無理しやがって。腹貫通してたらしいな」
トシが呆れたように見てくるが、あたしはむうと膨れて言い返した。
「トシに言われたくないな。トシのほうがボロボロだし」
「どっちもどっちでさァ」
「無事で何よりじゃないか!」
そう、まあ無事で何より。あたし達もだけど、鉄も。そのとき、傍に置いてあった携帯が鳴った。
「あ、メールだ」
「誰からでィ」
「嫌な予感がする…」
「奇遇だなァ、俺もだ…」
ぱかっと開くと、そこにはサブちゃんと書かれていて、ピシッと固まった。
【やっほーりおんたん(^-^)/昨日は大変だったね(ーー;)メール待ってるお☆】
総悟と近藤さんが覗き込み、なんだこりゃ、と思い切りいやそうな顔をした。
「…あいつか」
「はぁ…なんなのあの人」
ため息をつきながらもピッピッ、とキーをうっていく。
【こんにちは。昨日はどうも。携帯いじりすぎると壊れますよ、あの戦乱の中壊れてないのが不思議ですけど。てか壊れろ! 】
少しばかり、いやかなりの嫌味をこめた文を入力し、送信ボタンを押した。
「あんな奴なんかとメールするなんていい根性してやすね」
「まあね。あんな奴でも無視っていうのは、なんか…落ち着かないっていうか、嫌なのよね。あたし的には」
「優しいっつーか、お人よしだねィ」
一応、返事だけは、ね。トシがベッドから身をのりだしてビシッと指さした。
「理御!今すぐそいつのアドレス消せェェェ!そんな奴とメールすんじゃねェェェ」
「どんだけ嫌ってんのよ」
苦笑いをこぼすと、携帯が早くもメールの着信を告げた。その早さに顔がひきつる。
「…前言撤回、やっぱ無視もするべきね」
あたしは携帯をベッドの脇にぽいっと放った。
トントンと音がして扉を見ると、入った来たのは鉄。
「あ、鉄!」
「副長補佐…副長」
ぺこっと頭を下げる鉄。あたし達のぐるぐるに分厚く巻かれた包帯を見るなり、俯いてしまった。
「すみません…自分のせいで」
「もう、それはナシってば。こんなの慣れっこだし!ね、トシ」
「そうだ。気にすんな」
「…はい、ありがとうございます」
顔をあげた鉄は、少し顔が赤かった。なんでか不思議に思ったが、その理由をすぐに知ることになる。
「あの、補佐っ、あの…」
「ん?」
「上から見てて、思いました。補佐は、女なのにすごい強いし、優しいし、綺麗だし…」
ん?言ってる意味がわからなくなってきたぞ?鉄?おーい?
「自分、補佐に惚れたっス!!」
…ん?は?えええ!?笑みのまま固まる。
「大怪我させた責任とるんで、自分の彼女に_____ブフぅっ」
キラキラした目であたしを見つめていた鉄の顔面に総悟の鉄拳が入り、お見舞い品であろうバナナをトシが投げて鉄の腹に食い込んだ。
「てめーどのツラ下げてそんなこと言ってんだ?あァ?」
「理御にんなこと言うなんて良い根性してるじゃねーかィ。てめーちょっとツラかせや」
「理御ちゃんはまだ嫁にはやらァァァん!!」
総悟に首を腕で固定されて引きずられて行く鉄の悲痛な叫びは乱暴に閉めた扉の音でかき消されたのだった。
終わった喧嘩の後日談
(理御ちゃんはずっと俺の愛娘だからね!)
(ったく…!)
(何だったの…)
「トシ、ホントにあいつらに浪士達を任せて大丈夫なのか」
「心配いらねーよ。投降してきた連中を斬り殺すようなマネは流石に奴等もしねーよ、処遇については松平のとっつぁんに言付けておくさ」
これが最善策。でもねー、なんか腑に落ちないのよねえ。だって…
「これで見廻組の評判はうなぎのぼり。あっちはおいしいとこどりじゃない」
「んなこたァねーさ。なんせこっちは」
トシがガチャッとパトカーのドアを開ける。その中には、手錠で手を縛られた銀さんが額に青筋立てて座っていた。
「超大物のホシあげたんだ…なぁ白夜叉殿」
「そうだった、銀さん!」
「だからモトだよモト!てめーら俺のおかげで助かったのに恩を仇で返すつもりか!!」
銀さんが桂達と並ぶ伝説の攘夷志士、白夜叉だったなんて、驚きだけどなぜか納得してしまう。ただものじゃないとは思ってたから。銀さんはあたしをすがるように見つめた。
「〜っ理御ちゃん助けて!お願い、300円あげるからァァ」
「やっす!!…あ〜…まあ…そうね…。…トシ、銀さんは確かに白夜叉だろうけど、助けてくれたんだし、今はとりあえず一般市民なんだし…放してあげようよ」
「きゃー理御ちゃん優しい!!」
「ァあ?理御は甘ェんだよ!!」
「ごめんトシの説得無理でした」
「諦め早っ!!」
トシの説得なんて高度な技、あたしには無理だ。銀さんはならばと隣に座っていた鉄の方を向いた。
「だったらこいつも元攘夷浪士だろうが!!パクんならこいつもパクれ!!」
鉄は泣きそうな顔をしていたが、ついに涙を溢れさせながら身をのりだした。
「その通りっス、責任をとらせてください!自分切腹するっス!」
「えええええいやちょっと待ってそーいう流れにしたいんじゃないんだけど!!」
銀さんに構わずさめざめと語り出す。
「自分…みんなに…元攘夷浪士である事が知れるのが恐くて…そのせいで…みんなにこんなに迷惑かけて…折角預かった手紙さえも、届ける事が出来なかった。副長の兄上にも…自分の兄貴にさえも」
ぐすんとすする。みんな、しんとなる。その中で、トシが口を開いた。
「届かなかったんならもう一度出せばいいさ。今度は自分自身の手で。今度はてめーの番だろーが。確かにてめーの兄貴には届かないかもしれねェ…だがな少なくとも…」
そしてトシはあたし達を見渡した。いつのまにか後ろには、隊士達が集まっていた。
「お前と同じこのロクでもねェ兄貴どもにはきっと届くさ」
みんなが鉄に優しい笑みを向ける。もちろんあたしも。
「…鉄、てめーの手紙…俺たちはいつでも待ってる事を…忘れん…な…」
トシはぐらりと傾くと、そのまま力尽きたように倒れた。
「「ふっ、副長!!」」
「オイトシ!?」
「トシ!…無理しすぎ。全く、こりないんだから」
駆け寄りながら、あたしも意識が朦朧として来たのを感じていた。脇腹が致命傷だったかな…。でも貫通しててここまで持ったなら、上出来かな。フッと笑ってトシの隣にあたしも倒れた。
「!?副長補佐ァァ!」
「理御ちゃん!!おい!トシと理御ちゃんを急いで運べェェェ!」
近藤さんの声を遠くなる意識の中うっすらと聞いて、眠りについたのだった。
*
目を覚ますと、目の前、鼻と鼻がくっつくほど近くに総悟がいた。
「っ!?」
「やっと起きやした。ったく、どんだけ寝たら気がすむんでィ」
総悟は顔を離すと後ろに下がる。ここは…病室か。痛む包帯だらけの脇腹をさすりながらゆっくり起き上がると、近藤さんと総悟がいて、隣のベッドにはトシが座っていた。
「理御、またてめー無理しやがって。腹貫通してたらしいな」
トシが呆れたように見てくるが、あたしはむうと膨れて言い返した。
「トシに言われたくないな。トシのほうがボロボロだし」
「どっちもどっちでさァ」
「無事で何よりじゃないか!」
そう、まあ無事で何より。あたし達もだけど、鉄も。そのとき、傍に置いてあった携帯が鳴った。
「あ、メールだ」
「誰からでィ」
「嫌な予感がする…」
「奇遇だなァ、俺もだ…」
ぱかっと開くと、そこにはサブちゃんと書かれていて、ピシッと固まった。
【やっほーりおんたん(^-^)/昨日は大変だったね(ーー;)メール待ってるお☆】
総悟と近藤さんが覗き込み、なんだこりゃ、と思い切りいやそうな顔をした。
「…あいつか」
「はぁ…なんなのあの人」
ため息をつきながらもピッピッ、とキーをうっていく。
【こんにちは。昨日はどうも。携帯いじりすぎると壊れますよ、あの戦乱の中壊れてないのが不思議ですけど。てか壊れろ! 】
少しばかり、いやかなりの嫌味をこめた文を入力し、送信ボタンを押した。
「あんな奴なんかとメールするなんていい根性してやすね」
「まあね。あんな奴でも無視っていうのは、なんか…落ち着かないっていうか、嫌なのよね。あたし的には」
「優しいっつーか、お人よしだねィ」
一応、返事だけは、ね。トシがベッドから身をのりだしてビシッと指さした。
「理御!今すぐそいつのアドレス消せェェェ!そんな奴とメールすんじゃねェェェ」
「どんだけ嫌ってんのよ」
苦笑いをこぼすと、携帯が早くもメールの着信を告げた。その早さに顔がひきつる。
「…前言撤回、やっぱ無視もするべきね」
あたしは携帯をベッドの脇にぽいっと放った。
トントンと音がして扉を見ると、入った来たのは鉄。
「あ、鉄!」
「副長補佐…副長」
ぺこっと頭を下げる鉄。あたし達のぐるぐるに分厚く巻かれた包帯を見るなり、俯いてしまった。
「すみません…自分のせいで」
「もう、それはナシってば。こんなの慣れっこだし!ね、トシ」
「そうだ。気にすんな」
「…はい、ありがとうございます」
顔をあげた鉄は、少し顔が赤かった。なんでか不思議に思ったが、その理由をすぐに知ることになる。
「あの、補佐っ、あの…」
「ん?」
「上から見てて、思いました。補佐は、女なのにすごい強いし、優しいし、綺麗だし…」
ん?言ってる意味がわからなくなってきたぞ?鉄?おーい?
「自分、補佐に惚れたっス!!」
…ん?は?えええ!?笑みのまま固まる。
「大怪我させた責任とるんで、自分の彼女に_____ブフぅっ」
キラキラした目であたしを見つめていた鉄の顔面に総悟の鉄拳が入り、お見舞い品であろうバナナをトシが投げて鉄の腹に食い込んだ。
「てめーどのツラ下げてそんなこと言ってんだ?あァ?」
「理御にんなこと言うなんて良い根性してるじゃねーかィ。てめーちょっとツラかせや」
「理御ちゃんはまだ嫁にはやらァァァん!!」
総悟に首を腕で固定されて引きずられて行く鉄の悲痛な叫びは乱暴に閉めた扉の音でかき消されたのだった。
終わった喧嘩の後日談
(理御ちゃんはずっと俺の愛娘だからね!)
(ったく…!)
(何だったの…)