つまり世界はほろ苦い
まさかこんな所に…!!
あたしは腰に収めている刀に手をかけた。


「ずいぶんとやってくれたじゃねぇか」


ニヤリと口角を上げ、見下ろしてくる。


「あんたがいるってことは…もしかして、こいつら鬼兵隊…だったの!?」

「いや。鬼兵隊なら、もっと強ェさ。あんな数いたのに、あっという間にバタバタ倒れていきやがって…」

「なら、なんで…?」

「ちょっと様子見だ」


ふう、と煙を吐く。
攻撃はして来なさそうだけど、油断しちゃだめだ。
たらりと汗が流れた。

そんなあたしを見ていた高杉は、キセルをくわえた。


「捕まえねえのか?俺を」

「捕まえてほしいの?」

「ハッ。やれるもんならな」

「…ねえ、高杉」


嘲笑をたたえた高杉に、少しだけ姿勢を楽にして話し出した。


「あの、さ。なんで、攘夷テロなんかするの?もう抗えないわよ、天人の侵略からは。受け入れようとは思わないの…?」


なんでこんな事を言ったのだろうと、口に出してから後悔した。
なぜだろう、なんだか高杉が、悲しそうに見えたような気がして…


「俺は、大切な師を奴らに奪われた。…俺はなァ、俺から全てを、あの人を奪ったこの腐った世界をただ壊してェだけだ」


そう言ってニヤリと嗤う高杉。


「…あたしだって、同じだった」


俯き、ぽつりぽつりとかすかな声で話す。口から勝手に言葉が出て来る。


「あたしは、親から捨てられたの。暗くて狭い倉庫に捨てられて、ひとりぼっちで…。」


そう、あたしは捨てられた子なのだ。
あのときを思い出す。
怖かった。泣いても乞うても、親は来なくて。


「憎んだよ。あたしを捨てた親を、世界を。光の世界を恨んだ。目の前に広がるのは闇の世界で、憎かった。……でも、光の世界に連れて行ってくれたんだ。あたしを救ってくれたひと達の助けになりたい。支えたい。だからあたしはここに生きてる」


近藤さんと、トシと、総悟。扉が開かれて、手を伸ばされたとき。あのとき、どんなに救われただろう。


「壊すために生きるなんて、そんなの虚しいだけ。…世界は、思ってるより、案外優しいかもしれないよ…?」


再度高杉を見上げると、高杉はキセルを口から離してふぅっと煙を吐いた。


「俺を諭そうとするなんて、馬鹿な奴もいたもんだ」

「…そんな立派なもんじゃないわ」

「…気に入った。理御、だな。てめーに、世界はそう甘くはないって事を身体に刻んでやるよ」

「え?」


ひらりと塀から降りて、あたしに近づいて来る。慌てて刀に手をかけた。そのままどんどん距離は縮まる。刀を抜き、構えるも手をぐりんっとひねられた。苦痛に顔をゆがませると、顔が近づいて来た。


「な、なに…っ」


手を固定されて動けない状態。
頭がそのまま近づいて来て、思わず目をぎゅっと瞑った。
そして、首筋に痛みが走る。


「んッ!!」


するとすぐに頭が離れる。
しかし手は離されず、体の距離は近いままだ。
何か攻撃をされると思っていたのに、首を噛むだけで終わった…?


「…?」

「…てめえ、処女だろ」

「…………だったら何よ」


少しだけ呆れたような高杉に、顔を赤くし、睨む。なんで分かったのだろうか。


「…まあいい。俺はもう行くが、また会おうぜ。理御」

「きゃあッ!!あ、あぅ…ちょ、ちょっと!待ちなさいよっ!!高杉っ!」


固定した手をさらにゴキッとひねり、やっと手を離し去っていく。追おうとしたが、あまりの手の痛さに動けなかった。


「うううう…逃がしちゃったしやられるし…駄目じゃないあたし」


自分に文句をつけながら、重い足取りでみんなの所へ歩いて行った。





(世界は優しいかもしれないよ)
(世界はそう甘くねェ)

つまり世界はほろ苦い
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