Oh, bother!2

麦わらの一味と隻眼の女





鐘を鳴らせ


ゴロゴロ!!ドドド…!!
蔓が傾いていくとともに、雷が集中的に遺跡に落ちてきた。いたるところの遺跡を破壊しながら、まるで雨のように降り注ぐ。慌ててゾロさんに向かって叫んだ。


「ゾロさん、なんとかこっちに…ワイパーさんの近くに来れますか!?」
「何する気だ!?」
「いいですから、早く!」


私に急かされ、ゾロさんが体を引きずるようにして歩いてくる。ワイパーさんは意識があるのかどうかさえ怪しい。ゾロさんとワイパーさんを、私が守らなければ。
大きく深呼吸をして、手を空に掲げる。うまくいくかわからないが、やるしかない。


「来るなッ!」


左眼さえ閉じなければ、恐怖は全て拒絶の力に変換される。左眼の視界に落ちる雷なら、全て防げるはずだ。
鋭く叫ぶと、私を中心にやや左に偏ってはいるが周辺の雷が全て何かに拒まれたように弾かれる。降り注ぐ稲妻が一斉に跳ね返るので、さながらドームのようにも見える。あまりに力を込めすぎて、汗ばんできた。一秒でも気を緩められない。


「おお、すげェ。良い眺めだなコリャ」
「のんきですね!こっちは必死なんですけど!」
「おう、踏ん張れ」
「ちょっと黙ってもらえますか!」


視線はそのままでゾロさんに言い返す。声からは緊張感のかけらも感じられない。にじむ汗を拭うこともせずに雷を防ぎ続ける。


「これ、…いつまで…!!」


雷は勢いを増し、崩れた遺跡までもが降って来る。一瞬でも気を抜けば、全てが頭上に落ちてくる。瞬きさえせず凝視していると、足元に倒れていたはずのワイパーさんがいつの間にか隣に立ち上がっていた。ギョッとしてワイパーさんに視線を移した瞬間、近くに雷が落ちる。しまった、と慌てて体制を立て直す。


「ムダだ……エネル…」


私は最小限の雷を防ぐのに必死で、ワイパーさんを見ることさえ出来ないが、息も絶え絶えに何かを訴えているようだった。
島へ集中砲火が続く。焦げ臭い臭いが鼻につく。森が燃えているのだ。これだけ雷を浴びれば、森が燃えるどころか、島自体地盤が砕けてしまうかもしれない。歯を食いしばったとき、ワイパーさんの叫びが聞こえた。


「お前には、落とせやしない……シャンドラの地に生きた、誇り高い…戦士たちの歴史を……この雄大な力を!!」


もう立てないはずのワイパーさんが、しっかりと大地を踏みしめて立ち、叫ぶ。


「お前がどれだけの森を燃やそうと!どれだけの遺跡を破壊しようと!!大地は、敗けない!!!」


轟音と共に一斉に雷が落とされた。眩く辺りが光り、一瞬視界が真っ白になった。それきり雷の音が消え、耐えきれず目をこする。私は無事に変わらず大地を踏みしめて立っている。つまり、あれだけの雷をくらっても、大地は沈むどころかビクともしないのだ。不動の大地はこんなにも偉大で、雄大。雷なんかに、決して屈しないのだ。
大地は、敗けない。
ワイパーさんの言葉を噛み締め、繰り返した。途端、くらりと目眩がして膝から崩れ落ちた。


「ユナ!ったく…無茶しやがって」
「このくらい、どうってこと、ありません」
「そうは見えねェけどな」
「まあ、それでも…なんとか乗り切りました」


寝転がってへにゃりと笑うと、私を見下ろすゾロさんがおでこを叩いた。結構容赦ない。


「安心すんのはまだ早ェよ」
「…そうですよね。まだ、終わってません」


メキメキと音を立てて大きく傾く巨大樹を見上げ、ワイパーさんが、行け麦わら、とかすれた声で呟いた。
”雷迎”が落とされる瞬間、かすかに小さく見える黄金をくっつけたルフィさんの姿が雷雲の中に消えるのが見えた。そして間も無く、幕放電を纏った雷雲の塊がついに弾け飛び、消滅した。一気に空が明るく晴れ渡る。どくんどくんと大きく鳴る心臓がうるさい。


「鳴らせェ麦わらァ!!!シャンドラの灯を!!!」


ワイパーさんの叫びは届いたのだろうか。エネルとルフィさんの最後の戦い、その壮絶な戦いの果てに待っているのは、長い長い戦争の終焉を告げる鐘の音。
美しい黄金の鐘の音が、余すところなく空へ響き渡った。

カラァーン…!カラァー…ン!!!


「…綺麗な音色…」


思わず一言漏れて、ほうとため息が出る。言いようのない幸福が胸を占めて、全てが報われた気がした。


「…ルフィさんが、勝ったんですよね」
「……あァ」


返事をしたゾロさんも、空を見上げて頬を緩めている。これで終わったんだ。鐘の音は、何度も何度も響いた。



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