リヴァイの執務室に提出の書類があって、リヴァイのいる部屋へ訪れた私は扉を開ける。すると、リヴァイが精一杯背伸びして本棚の本へ手を伸ばしていた。ぶふっ、と思い切り笑ってしまった。
「………てめェ…今笑ったか?」
「ご、ごめん!笑う気はなかった!」
必死に弁解するが、ぎろりと睨んでくる目は狂気じみている。禁句だった。まあリヴァイだしいっか。
笑いを堪えながら、手を伸ばして取ってやる。
「はい。これでしょ?」
「………ああ」
むすっとして不機嫌そうにしながら受け取り、お礼の代わりに盛大な舌打ちをされた。全く、兵士長殿はマナーがなっていない。
リヴァイは兵士長という地位でバカ強いくせに、160センチという小ささ。私は170センチなので10センチ高い。そのことがリヴァイにとってはとても不愉快らしく、私を見上げるときはいつも眉間にシワを寄せている。いい歳して小さなことにこだわるものだ。まあ、よくからかっている私も大概だが。
「本が取れるくらいにはもう少し身長伸ばさないとね、160センチの兵士長殿?」
うふふと笑ってその頭を書類でぽんぽんと叩くと、リヴァイの顔が険しくなった。お、これ以上はやばい。そろそろ書類を渡して退散しなければ、蹴りが飛んで来そうだと感じたそのとき。
「うわっ…」
リヴァイにぐい、とすごい力で襟元を引っ張られて前のめりになる。リヴァイの顔が急接近する。がちっ、と歯と歯が当たる音がした。ものすごい近距離にリヴァイの顔がある。
今、こいつ何を。
「あんまりナメた口きいてると、その口削ぐぞ」
「…!!!」
真っ赤になって何も言えない私の唇を、最後にぺろりと舌でほんの少し舐めてから、リヴァイはやっと襟元を離した。私の手にある書類をひったくって、すたすたとデスクに戻っていく。
私はというと、へなへなとその場に座り込んだ。心臓が破裂しそうに暴れている。
「……何してる?」
「何してるはこっちのセリフよ…!!り、リヴァイがいきなり変なことするから…腰抜かしちゃったの…!!」
リヴァイは呆れたように私を見てから、ふっと笑った。久しぶりに見た笑顔にどきりとする。
「…何だ、立たせてほしいのか?」
「っ!そ、そんなこと言ってない!」
弾かれたように立ち上がる。よろりとよろめいたが、本棚に掴まった。今日のリヴァイはおかしい。いつもと違う。これ以上ここにいると危険だ。
「じ、じゃあ私行くから…!」
「あァ。…覚えとけよてめェ」
「な、何を!?」
「今まで散々好き勝手俺を罵ってくれたな。もう我慢ならねェ、今日から俺も黙っちゃいねェからな」
にやりと不敵に笑ったその笑みにさえ心臓が高鳴って、もう耐えられないとその場を逃げ出した。
明日から私は生きていけないかもしれない。リヴァイにきっと心臓をやられる。
アンダーキス