どんぶりいっぱいの白い飯に、どっさりのった粒あん。よだれが出そうだ。


「「いっただっきまーす」」


声が重なった。隣を振り向くと、着流し姿の土方くんがマヨネーズが渦巻いたおどろおどろしいどんぶりを前に手を合わせているところだった。互いにいやな顔をする。


「うわっ最悪。なんで土方くんがこんなとこにいんの。ハモらないでくんない」
「お前がかぶせてきたんだろうが!チッ、せっかくいまから至福の時間だったってのに…消えてくれねえかなあこの天パ」
「そっくりそのまま返してやんよ!また犬のえさ食ってるし!」
「犬のえさ言うなてめェのこそ吐き気がすらァ!」


ぎゃあぎゃあと何度目かわからない言い合いをする。腹の虫が鳴いたので、ひとまず休戦して目の前のどんぶりを食べ進める。


「てめェ本当に見てて吐き気するほどの甘党だよな。そんなクソ甘ったるいやつ食うのお前しかいねェよ」


土方くんが喧嘩売ってきやがったのですぐさま言い返そうとしたが、ふと脳裏にあいつの姿がよぎった。ゆっくりと口を開く。


「もう一人いたんだぞ」
「あ?」
「これを食べるやつは」
「はああ?」


土方くんが心から理解できないというような声を出した。そこまで驚くことでもねェだろう。思い出さないようにしてたのに、よみがえるあの時の思い出。てめェのせいだぞ土方くんコノヤロー。


「こうなったら付き合ってもらいますからね土方くん」
「は?何にだよ」
「銀さんのコイバナ」
「はああ?」


さっきからはあはあうるさいが、俺は気にせず語り始めた。

かつて寺子屋時代に、おなまえという俺と同じくらいの甘党がいた。一口あげようか、と言って松陽先生にもらった団子やら饅頭やらを毎回俺にくれた。俺はあいつに感化されて甘党がエスカレートしていったから、俺の糖尿病の原因はあいつと言っても過言ではない。
先生が処刑されて戦争が始まるときに別れて以来、その後は全く会っていないが、今頃どこにいるんだか。


「で、お前はそいつが好きだったわけか」
「……まーな。片思いだったけどな」
「お前の口からそういう単語が出てくると気持ち悪いな」
「うるせーコノヤロー」


土方くんは煙草の煙をふうと吐いた。人に話すのは初めてだ。その相手が土方くんというのは気に食わないが。懐かしいもんだ。もうあいつは俺のことなんざとっくの昔に忘れてるだろうが、俺はずっと忘れないだろう。
いつかもう一度会えたなら、甘味処に一緒に行って、吐くほど甘いものを食べてから、遠い昔の初恋を話してやってもいい。

かなり長話になってしまった。手が止まってしまっていたが、やっとのことでどんぶりを食べ終わる。餡子の味が口の中に広がり甘ったるいその感じがとても懐かしく感じた。すると、俺たち二人しか客がいなかった店内に客が入って来た。そろそろお開きってことか。


「すいませーん。いつものよろしくっ」


俺と一つ席を開けてカウンターに座った女は、そう言ってオーダーした。いつものとは何だろう。気になってそれまで見てから帰ることにした。土方くんも同じことを思ったようで、新しい煙草に火をつけたのを視界の端にとらえた。


「はいよお、お待たせ」
「わ、ありがとう。おいしそー!」


甘ったるい匂いが店内に充満する。目の前を、ついさっきまで俺が食べていたものと同じどんぶりが通った。


「ね、銀時。一口あげようか」


聞き覚えのある懐かしいセリフを言って、どんぶりを前にした女が俺を見て微笑んだ。






胸焼けするほど甘ったるい
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