ぽかぽかと春の日差しが甲板に寝転がる私を照らす。うとうととうたた寝をしていると、隣にエースが来た。
「エース、私今から寝るんだから邪魔しないでよー…」
「邪魔しねェよ!俺も一緒に寝る!」
エースも一緒になって昼寝の体制だ。ふわあと大きなあくびを一つすると、私にもうつってあくびをした。とろんと重い瞼を迎え入れ、私の意識は沈み始めた。
そのとき、ボオボオと焔の音がしてぱちっと目を覚ます。視界に飛び込んできたのは、見慣れた青い炎の美しい鳥だった。不機嫌そうなその鳥の表情にひくりと顔が引きつる。
「ほお、隊長がこんなに忙しく働いてるってのに今から昼寝とはいいご身分だねい。今から次着く島の偵察行くよい、起きろおなまえ」
「嫌!無理!今から寝るの!」
「つべこべ言うなよい!行くぞ!」
「いやァァァ誘拐されるうう!助けてエース、って寝てる!早っ!!」
「すかーっ」
私が副隊長を務める我が一番隊隊長のマルコに服の襟元を咥えられ、マルコは私をぶら下げたまま飛び立った。船があっという間に遠くなる。ぎゃあぎゃあと騒いでいると、いきなり空中に投げ出されてひっと息を飲む。そして次の瞬間には、マルコの背中に受け止められた。もう少し優しく背中に乗せる方法があっただろうに、荒いことだ。落ちないように座り直して、不満を漏らす。
「もー!せっかくの昼寝が!」
「副隊長なら副隊長らしく、偵察くらい付き合えよい」
「仕方ないなあ」
昼寝を邪魔されたのは気に食わないが、こうしてマルコの背中に乗って飛ぶのは嫌いじゃない。マルコの背中は私の特等席だ。ほんのりと熱を持つ背中は全く熱くはないし、後ろを振り向けば尾が揺らめいていて綺麗だ。そこから眺める波が立っている青い海は、とても美しくて気に入っている。
とても居心地がよくて、襲ってくる睡魔に逆らえずに今度こそゆっくりと意識を手放した。
「おい、おなまえ。島に着いたよい。…おなまえ?まさか寝てるんじゃねェよな?」
「すー…すー…」
「…ったく。落ちても知らねェよい」
全く起きる気配のないおなまえを落ちないように抱き上げ、甲板に静かに降り立つ。近くにいたサッチが寄ってきた。
「おかえり。おなまえ寝たのか?」
「ああ。落とさないようにするのが大変だったよい」
「そんなに寝心地よかったのかねえ」
「知らねェよい。こいつ部屋に届けてくる」
部屋に向かって歩き始めると、サッチに呼び止められた。
「マルコ。…まだ言わねェつもりか」
ぴたりと足を止める。振り向くと、サッチは真剣な目をしていた。
「…何の話だよい」
「しらばっくれてんじゃねェぞ。お前がおなまえを好きだってことだよ」
「……もしおなまえが起きてたらどうすんだよい」
まだ寝息を立てているおなまえを抱き上げる腕に力を込める。
俺はおなまえが好きだ。かなり昔から。でも伝える気はない。なぜなら俺は不死鳥だからだ。
不死鳥の呪いを受けた時から、決めていたことだ。俺は死なない、死ねないのだ。どうやったって。俺が死ぬのは、海楼石の手錠でもつけられるか海に沈むかしかないのだ。
もしおなまえと恋人関係になったとしても、おなまえの方が先に死ぬ。墓を並べることもできない。そんなの虚しいだけじゃないか。
俺は不死鳥であることに誇りを持っている。後悔なんて、哀しみなんて持ちたくない。だから。
「きっと、その言葉は何があっても言わねェだろう。わかったかよい、サッチ。お前も間違ってもおなまえには言うんじゃねェぞ」
「…そういう考え方、やめた方がいいんじゃねえの」
「お前が何を分かってるっていうんだよい」
「つまり、怖いからだろ。一人取り残されるのが。一人きりになるのが」
サッチはそう言って俺を射抜くように見つめる。
そうかもしれない。俺は自分が思うよりもずっと弱いようだ。
そのとき、抱えていたおなまえが突然俺の首に手を回して抱きついてきた。驚きのあまり瞬きも忘れる。
「…お前、まさか起きてたのかよい」
おなまえはこくんと頷いて、口を開いた。
「全部聞いてた」
その声は震えていて、肩に濡れた感触がする。まさか、泣いているのか。
「私はマルコのことが好きだよ」
それは俺が一番聞きたいようで、聞きたくなかった言葉。何よりも、恐れていた言葉。立ち尽くして動かない俺に、おなまえはゆっくりと続ける。
「マルコは、不死鳥であることに誇りだけ持っていればいい。私は不死鳥のマルコも、人間のマルコも愛してるから」
「………おなまえ」
「私は、哀しみよりもっと多くの幸せをあげるから。だから怖がらないでいいんだよ」
ゆっくりとおなまえに腕をまわした。
そしてきつく抱きしめる。頬を流れる涙だって、今だけは許して欲しい。
君を抱いて溺死
できたらどんなにいいか、