春の日差しが暖かい午後。今日も街は平和だ。見廻りから帰って来ると、どたどたどた、と足音が聞こえてきた。


「おかあさーーん!おとうさーーん!おかえりいい!」


リボンで髪を結んだ4歳ばかりの我が子が、愛くるしい満面の笑みで走ってきて、トシの脚に抱きついた。


「おう、ただいま」
「ただいま、いい子にしてた?おちびちゃん」
「うん!」


慣れた手つきで抱き上げたトシを見て、慣れたものだなあと思う。私がトシと結婚して間も無くこの子を産んだが、しばらくは抱き上げるのにも一苦労で落とさないか心配していたくらいだったのに。慣れない子どもの扱いに四苦八苦していたのが、今ではこんなにも父親の顔つきになっている。


「あのね、きょうはね!そうごがあそんでくれたの!」
「総悟が?珍しいね」
「…嫌な予感しかしねェんだが」
「何して遊んだの?」
「えーっとね!てじょうあそび!」
「……手錠?」


トシがひくりと引きつった。ちょうどその時、総悟が手錠を指で回しながら歩いてきた。


「何ですかィその顔。せっかく遊んでやったってのによ。なあ?ちび」
「うん!たのしかったよ?おにごっこして、がっちゃんがっちゃん!」


ひったくるようにトシからおちびちゃんを取り上げると、器用に抱っこしておちびちゃんの手に手錠を持たせた。


「遊び相手になってくれたのはそりゃありがたいが、遊び方がおかしいだろ!」
「ただ鬼ごっこしてただけでさァ。おかしいねェお父さんは」
「おかしいねーおとうさんはー!」


手錠を振り回しながらけらけらと笑うおちびちゃん。手錠は遊び道具じゃないということを後で念入りに教えてあげなくちゃ。トシが総悟におちびちゃんを奪い取られて見るからに不機嫌になる。


「ったく…てめェが遊び相手だとろくな大人にならねェ。返せ」
「ちびは俺と遊びたいんでさァ、だろィ?」
「そうごとあそぶもーん!おとうさんはあとでね!」


ざまみろとでも言いたげにおちびちゃんを揺らしてみせる。トシは煙草を噛み潰した。あーあ、怒るぞ。怒るぞ。
すると、総悟がおちびちゃんに何かを耳打ちしたかと思うと、あっさりおちびちゃんを降ろした。おちびちゃんは総悟から降ろされて、トシの方へ駆け寄ってくる。


「やっぱりおとうさんとあそぶ!」
「お、おお。よしよしいい子だ」


トシが抱き上げようと手を出したとき、ガチャンと音がした。まさか。


「ひっかかったー!だいせいこーう!」
「トシ!」
「……!!」


トシの両手に見事に手錠をかけることができて、ぴょんぴょんと飛んで喜ぶおちびちゃん。一目散に総悟のもとへ走って行き、総悟とハイタッチした。


「よくやった、ちび!任務成功でィ!」
「にんむせいこー!!」
「…てめェ…総悟ォオ!!」


我慢ならずに両手に手錠をかけられたまま走り出したトシから逃げるべく、総悟がおちびちゃんを抱き上げて逃げて行く。おちびちゃんは総悟に抱えられて楽しそうに悲鳴をあげる。


「きゃーこわーい!!そうご、にげろー!!」
「おい皆ァァ!!鬼の副長がついに我が子に暴力をォォォ!」
「うるせェデマ流すんじゃねェエ!」
「なんだとォトシ!!頭を冷やせ!!」
「だからちげェ!!」


近藤さんまで混ざって、途端に賑やかな鬼ごっこが始まった。私はそれを眺めながらくすくすと笑う。すると、ひょこりとどこからかバドミントンのラケットを持ったザキが現れる。


「にぎやかですね、今日も」
「うん。いつか近いうちに廊下の床が抜けるんじゃないかとひやひやしてるの」
「はは!おちびちゃん、たくましい子に育ちますね」
「ふふ、そうね!」


どんな子に育つんだろうか。トシと私の子どもだ、きっとたくましくてやんちゃな女の子になるんだろう。楽しみだなあ。


「私も混ざってこようかな!じゃあねザキ!」
「いってらっしゃい!」


ザキに手を振って駆け出して、逃げる総悟に近づいた。


「総悟、パス!」
「お、おかーさんも参加ですかィ。よし、ちび、交代でィ!」
「おかーさんー!いけー!」
「よーし、お父さんから逃げろー!」
「お前もそっちかよ!」


おちびちゃんを落とさないように抱き上げて、このありふれた日常の幸せに笑みをこぼしながら走るのだった。






とある親子の愉快な日常
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