リトル・レクイエム

置いてきぼりの子守唄


あの後何回か、地下牢にいるエレンに会いに行った。
最初エレンと話しに行ってくるとエルヴィンに申し出ると、エルヴィンは驚きながらも少し嬉しそうに快く許可を出したから、私がエレンと打ち解けるということはたぶんエルヴィンの思惑通りだったんじゃないかと思う。
でも回数を重ねるごとにエルヴィンの機嫌が悪くなってきた。エレンと何を話しているんだとか、そこまでエレンを気に入ったのかと聞いてくる。面倒くさいので曖昧に答えていたが。私がエレンとすっかり打ち解け、良好な仲になってきていることはエルヴィンにとってもいいことだろうにどうして機嫌が悪いのか。エルヴィンの考えてることはあまりよくわからない。


「エレンのところに行ってくる」


何日かぶりにエルヴィンにそう申し出ると、エルヴィンはさらりと答えた。


「エレンならあそこにもういない」
「はあ?どういうこと、どこに行ったの?」
「この前裁判にかけられたよ」
「え、嘘!どうなったの!?っていうかなんで事後報告なのよ!」
「言うのを忘れていた。すまないな。まあ結果的に言うと、調査兵団が身柄を受け取った。一ヶ月後にある次の壁外調査でエレンが活躍することを条件にだ」
「………一ヶ月後…」


ぽかんとしながら話を聞く。いつのまにこんなに話が進んでいたんだ。いつもそうだ、エルヴィンは私に重要なことを話さない。
それよりも、一ヶ月後。一ヶ月後にまた、壁外調査があるのか…


「邪魔するぞ、エルヴィン。旧調査兵団本部の話だが」


そこへ、リヴァイが入って来た。リヴァイは私を見ると、ぱちくりと瞬きしてから近寄ってきた。


「メリア、珍しいな。仕事以外でエルヴィンの部屋にいるなんざ。何してたんだよ」
「エレンの話。身柄を受け取ったんだって?初耳なんだけど。教えてくれたってよかったじゃない。エルヴィンもだけど、リヴァイも」


じとりとリヴァイを見ると、リヴァイが答える前にエルヴィンが答えた。


「あまりにメリアがエレンにご執心だったから、少し妬けただけだ」


私はぽかんとした。エルヴィンはいたって真面目な顔をしている。リヴァイがチッと舌打ちをした。


「リヴァイも同じ理由のようだ」
「…うるせえ」
「エレンと打ち解けて話をするようになっただけなんだけど。それに、なんで妬けるわけ?意味がわからない」


小さく肩をすくめる。さておき、エレンはどうなったのだろう。身柄を受け取ったということは、調査兵団に入ったということで。どこにいるのか聞こうとしたら、リヴァイが話し始めた。


「旧調査兵団本部。そこで、俺が作った特別作戦班が壁外調査までの一ヶ月過ごすことになった」
「特別作戦班?」
「まあ、簡単に言えばエレンのお守りの班だ。エレンが暴走して巨人になったときにすぐ殺せるような面子が揃ってる、俺もだが」


そこにエレンがいるということか。リヴァイは物騒な言い方をするが、つまり、まだ巨人の力を制御しきれないエレンに何があってもいいように精鋭を集めた班を作ったということが言いたいのだろう。なるほど、確かにそれはリヴァイがいないといけない。


「そういうことね。じゃあ、これから一ヶ月、リヴァイ含むその特別作戦班はここから離れた古城で過ごすわけか」
「そういうことだ。お前も来るか?」


リヴァイは真面目な顔をして変なことを言い出した。どうしてそうなる。


「は?何言ってんの、何で急に私が出てくるのよ」
「…たまにはお前のマヌケなツラを見たくなるだろうが」
「鏡でも見れば?私よりずっとマヌケなツラが見れるよ」
「言うようになったじゃねえか…」


そんな愉快な言い合いをしていると、エルヴィンが口を挟む。


「そうだ、言い忘れていた。ペトラ・ラルが特別作戦班に指名された。君の友人じゃなかったか?」
「ペトラ!?」


素っ頓狂な声を上げる。エルヴィンはこくりと頷いた。
今朝も起こしに来てくれたあのペトラが、近々古城に行ってしまう。会うのはそう簡単ではなくなる。確かにペトラが選ばれたのは頷けるし適役だとも思う。しかし、あの笑顔が見れなくなるのかと思うとさみしい。しゅんと肩を落とした。


「…いつ古城に行くの?」
「明日だ。……時間があるときにでも、来ればいい。馬で来ればそんなに遠くはねえだろう」
「…そうしよう、かな。忙しいわけでもないし」


そう答えると、リヴァイは少しだけ満足そうに私の頭を乱暴に撫でた。
そういえば、ペトラを名指しで指名したのはリヴァイ本人。もしかしなくても、ペトラの健気な恋路も進展を見せたかと少しだけ口角を上げた。

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