リトル・レクイエム

ワンダーボーイ


「はじめまして!エレン・イェーガー、104期訓練兵です」


射抜くような力強い眼差しのその少年は、審議所地下の牢屋の奥、ベッドに枷をつけられて座っていた。
檻越し、正面に椅子に座る私。彼の視線を受けた私はこの少年が苦手だと直感的に思った。


「…メリア・カストルよ。はじめまして」
「彼女は遺体処理班班長という重要な役割を担っている。エレンはずっと暇だったろう、彼女がしばらく話し相手になってくれる」


エルヴィンが私を示しながらエレンに言うと、エレンは驚きながらもほんの少し嬉しそうに聞き返した。しかし私は初耳だ。話し相手なんて。


「そうなんですか?」
「ちょっとエルヴィン、何勝手に!」
「じゃあ、メリア、あとは頼んだよ。私は仕事に戻るよ。面会時間は1時間だ。1時間経ったら監視が戻るからそれまでだ」
「エルヴィン!」


私の引き止める声を無視して、出て行ってしまった。追いかけようかとも思ったが、エレンをちらりと見ると期待するようにじっと私を見ていたので、仕方なくため息とともに座り直した。


「話し相手になってくれるんですか」
「…仕方ないから。話すことなんて何もないけど」
「……俺…バケモノ、だそうですけど……怖くないんですか」
「……!」


そう聞いたエレンの顔は引きつっていた。
そうか、と気づいた。人間なのに巨人になれるバケモノ。彼はそう扱われている。彼はこんなに大きくてもまだ15歳の子供なのに、辛い思いをしているのだ。自分の存在さえ自分で証明出来ない、自分でさえわからない。怖いだろう。少し、話してみる気になった。


「怖くない。私もバケモノだから。違う類の、バケモノ」
「え……」


目を見開くエレンを見ながら、ゆっくりと口を開いた。


「私は遺体処理班の班長。死んだ兵士らをひたすら処理するのが仕事。知らなかったと思うけど、私は仕事柄、兵団で恐れられていて、避けられている。冷酷で、残酷で、非情だと言われてるから。バケモノ扱いされてるようなもの」
「…そうだったんです、か」
「そう。私は、調査兵団の兵士だけど兵士じゃないの。戦うことを放棄して、ただ人類のために勇敢に戦った兵士たちの亡骸と未来への希望を捨てていくだけの、腐った兵士なのよ____ねえ、エレン。こんなバケモノの私がこわい?」


少しだけ首を傾げて尋ねる。エレンはどう答えるだろう。とても気になった。エレンは目を伏せてから、顔をあげてはっきりと言った。


「こわくないです。全然」
「……へえ、どうして?」
「だって、メリアさん、泣きそうじゃないですか」
「え?」
「今にも泣きそうな顔してます」


そんなことない、そう言いかけて、言葉につまった。


「もしかして、メリアさんが一番、自分のことをこわいと思ってるんじゃないですか?」
「…何それ、」
「俺は、俺のことは全然怖くないですよ。だって人間ですから。証明は出来ないけど、俺は俺を信じてます。目標があるんです」
「…目標……?」
「俺は、調査兵団に入って、巨人を一匹残らず駆逐するっていう目標を持ってます。人類はこのままじゃ終わりません。少なくとも俺は絶対諦めません」


意思が強すぎる目が眩しかった。射抜かれそうな眼差しは、私を刺すようだった。はたと彼が表情を変えて青ざめる。


「……って!何言ってんだ俺!よくわかんなくなってきた!なんか、偉そうなこと言ってすみません!!」
「…いいや」


声が震える。ぎゅっと目を閉じた。どくんと脈打つ心臓を右手で押さえる。
私はどうしてこんな風になってしまったんだろう。どうしてエレンのような兵士になれなかったんだろう。ここまで言われても、信じることが出来ないのはどうして。
巨人が嫌いだ。私を避ける皆が嫌いだ。エレンの眼差しが嫌いだ。でも何よりも、思い通りにならない自分が嫌いで、こわかった。


「エレン」
「はっ、はい!」
「改めて___私の話し相手になってくれない?」


顔を上げて少し微笑む。うまく笑えたかわからない。でも、エレンは嬉しそうに頷いたので、たぶん大丈夫だったと思う。
エレンとはうまくやっていけそうだと感じた。

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