リトル・レクイエム

終焉に焦がれる


書類に今回焼き払った遺体の総数を書き込む。一般人から駐屯兵や訓練兵まで。私は小さく息を吐いた。

コンコンとノックが鳴り止まないうちにがちゃりとドアが開く。ユッタが大きなコンテナを荷台に乗せて運んで来たのだった。それを先頭に、残りの部下が入って来た。四人とも、感情のあまりこもっていない目で私を見た。私は立ち上がり、コンテナの中を覗いた。名前の書かれたたくさんの布袋が入っている。


「これで全部?」
「はい」
「そう。じゃあ…行きましょう」


遺体処理班の、毎回最後の重要な仕事。それは、亡くなった兵士の家族の元に、訃報を知らせに行くことだ。もし遺品が残っていればそれを一緒に持って。
生前、使っていた部屋に残っていた遺品として届けられそうなものは全て、布袋にひとまとめにしてある。ここまで終えて始めて、遺体処理班の仕事は終わるのだ。




「フラン・シュバルツ、死亡です」


そう言って、敬礼をして袋を渡す。死亡したフランというとある兵士の母親は、袋を受け取り、呆然とした。そうですか、死にましたかと呟いて、ぼろりと涙をこぼした。
突然、父親にガッと胸ぐらを掴まれた。


「っ息子はまだ!20でした!!」
「…存じています」
「調査兵団なんかにやるんじゃなかった…!息子を返してください!!フランを…!!」


泣きながら怒鳴る父親を、母親が制した。まだ言い足りなさそうな父親は、悔しそうに歯噛みする。返す言葉もない。目を伏せる。


「息子は、お役に立てましたか?」


涙でぐちゃぐちゃの顔で母親が聞いた。
視線をあげる。私の言葉は決まっていた。


「もちろんです。彼は心臓を捧げた人類のために、勇敢に戦ってくれました。彼の意志は調査兵団の彼らが受け継いでくれます。死んでなお、彼らの力となり支えてくれるのです」


何度となく残された家族に言ってきた言葉。一言一句違わずに、頭に叩き込まれている。
母親は少しだけ微笑み、頭を下げた。

こうして、何人の兵士の家族に辛い思いをさせてきただろうか。この父親のように、いやそれよりも、酷い言葉を投げつけられた時もある。
私はその度に、受け止めてきた。傷つかないわけがない。しかしそれよりも、最愛の家族を失った家族の方が何倍も傷ついているはずだ。


人間は脆い。もろくて弱い。五体不満足の遺体を扱ってきて、感じた。人間は、巨人に対してあまりにも劣っている。そのことに気づいた私は、いつしか諦めの感情を持つようになった。いつからだろう、こんなに虚しく感じるようになったのは。遺体処理班に配属されてすぐの頃からだったろうか。
恐ろしい数の人間が、あっという間に食われていく。すぐに死ぬ。無力で非力。それでも必死で戦い、抗う。どれだけ戦っても、いずれは死んでしまうのに。
兵団を壁外へ送り出すたび、胸がきりりと痛む。悔しい、悲しい、それらのどれとも違う感情に苛まれるのだ。
もういいだろう、やめてくれ。これ以上、絶望を見せつけないでくれ。もう疲弊しきっているのだ、私は。

毎晩、かつて葬った数多の兵士たちが夢に出てくる。私を蔑み、責める。戦うことも、信じることも出来ずにただ葬ることしか出来ない私を。







コンコン、とノックがひびく。どうぞと言うと、エルヴィンが顔を覗かせた。


「やあ、メリア。今から少しいいかな」
「エルヴィン…何の用?」
「審議所の地下牢に、ある少年がいる。メリアに会って欲しいんだよ。そして話した感想を聞きたい」


少年。まさか、話に聞いていた、あの。
巨人になって岩を持ち上げ、穴を塞いだという少年のことだろうか。
私はふっと目を細めた。


「…なんで私を?忙しいんだけど」
「君の意見が聞きたい。他でもない君は彼を見てどう思うか興味があるんだ」
「……よく理解出来ない」
「とにかく、行こう。手ぶらでいい」
「ちょっと、エルヴィン!」


エルヴィンに手を取られ、強く引かれる。あまり気が乗らないというのに、私の意思など関係ないようだった。

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