リトル・レクイエム

ハッピーアローン


ふわりと紅茶の匂いが部屋に広がる。久しぶりのリヴァイとの茶会は、リヴァイが内地に行った際に手に入れたという高級茶葉の紅茶だった。

リヴァイの紅茶好きは有名だ。そして私も紅茶を好む。リヴァイの紅茶のチョイスは間違ったことがないので、誘われたときはいつも楽しみにして茶請けを持って行く。今日は茶請けがないのだが、紅茶単品でもシンプルで良い。つまりは紅茶が飲めればなんでもいいのだ。


「うん、美味しい。さすがリヴァイね」
「珍しい茶葉だと聞いて買ってきた。確かになかなか飲まねェ味だな」
「私、これ好き」


目を閉じて紅茶の匂いを胸いっぱいに吸い込む。久しぶりの紅茶は身に沁みる。いつも仕事の際はコーヒーを飲んでいるからだ。なぜならこのご時世、茶葉も手に入りにくい品物。たまの贅沢に飲む程度だ。


「やっぱりコーヒーより紅茶ね」
「わかってるじゃねえか」


そんなほっこりとした時間に、突然の来客が現れた。

唐突だが、私の嫌いな人は二人いる。一人はエルヴィン、もちろん私を意味のわからないままに遺体処理班に配属させたからだ。それともう一人。同じくらいに嫌いな人。それは。


「リヴァイ!聞いてよ、_____あれ」


私を見つけるなり、メリアもいたんだ、とほんの少し笑みを引きつらせるのは、分隊長ハンジ・ゾエだった。
私は表情こそ変えないが、内心せっかくの茶会を邪魔しないで欲しい一心だった。ハンジはうるさいし、それだけならまだしも、私の考えとは真逆の一面がある。理解できない、理解したくない考えを持っている人だから、嫌いだ。


「お茶会中だったかい?邪魔して悪いね、えーっと、また出直すよ」
「そうして。せっかくの茶会なんだから」
「要件は何だ。出直されるとめんどくせえ、さっさと済ませろ」


くるっと体の向きを変え、出て行こうとしたハンジを追い出そうとする私と引き止めたリヴァイ。目を見合わせる。仕方ない、と私が目を逸らすと、リヴァイはハンジに視線を移して話すように促した。


「今度の壁外調査でさ、また巨人の生け捕りの許可がおりたんだ。二体ほど連れて帰ってくるつもりなんだ!嬉しくて、報告をと思って!」


嬉しそうにハンジが身振り手振りで話す。ハンジはどういうわけか、巨人が大好きなのだ。私とは違って。
リヴァイは興味なさそうに相槌を打ったが、私が隣から言い返した。


「相変わらず意味わかんない。なんでそんなに巨人が好きなの?私にとっては憎しみの対象よ、巨人なんて」


吐き捨てるように言うと、ハンジは苦笑いしてから、真剣に話した。


「そりゃ私もだよ。でも、敵について知ることは何よりも必要だと思うんだ。人類はまだ、巨人について無知だ。だから、まずは知ること。そのためには巨人の捕獲だ」
「……」


正論だとは思う。間違ってはいないし、正しいことなのだろうけど、腑に落ちない。やはり考え方、気持ちの持ちようが違うのだ。


「やっぱりハンジとは相容れないな。まあ、せいぜい頑張って」
「…そんなに私のこと嫌いなのかい?」
「まあね」


即答すると、ハンジは見るからにしゅんと落ち込んだ。リヴァイは呆れた目で私を見る。素直に答えただけなんだけれど。


「落ち込まないでよ、ハンジみたいな考え方もあっていいと思う。いろんな方面から物事を見ないとわからないこともあるしね。ただ、私は、その考え方が性に合わないだけ。私と気が合わないってだけよ」
「…どうすれば、友達になってくれるんだい?私はメリアと仲良くしたいのに」
「さあね。私もわからない」


長くつまらないお喋りばかりしていると、紅茶はとっくに冷めていた。私は湯気の出ないカップをテーブルに置き、立ち上がる。


「…紅茶が冷めちゃった。ごめんリヴァイ、私はこれでお暇するわ。紅茶ありがと。壁外調査がんばって。無事で帰ってきてよね」
「…ああ。」


茶会を早くに切り上げることにほんの少し不機嫌そうなリヴァイだったが、今度上等の茶請けを持ってくることで許して欲しい。もう茶会の気分ではない。
去り際、ハンジが眉を下げて声をかけてきた。


「…メリア。またね」
「…健闘を祈るよ、特にハンジの遺体なんて見たくないから。それじゃ」


少しだけ。相変わらずハンジは嫌いだけど、こんな態度しか取れない自分を嫌いになった。
長らく、喋りも動きもしない遺体を相手にしていると、性格もひねくれてきたようだと自分のことながら客観的に考えた。

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