リトル・レクイエム

スケープゴート


調査兵団、遺体処理班。それが私の所属する組織で、私はその班の班長である。

遺体処理班とは、壁外で活動するのではない。壁内で活躍する仕事だ。
壁外調査では毎回のように大勢の兵士が死ぬ。その兵士の遺体を、識別・記録、そして処理するという重要な役割を持つ。
しかし、壁外調査で亡くなった兵士全員の遺体が回収出来るわけではない。亡くなった兵士のうち、回収できるのはたった何割かの少ない数だ。それでも、これまでにたくさんの数、腕だけ、足だけになったものも含めて遺体を処理してきた。
たくさんの見知った兵士たちの遺体を、私情に惑わされずに、何の感情も表に出さずに処理する。これは誰にでも出来る仕事ではない、限られた人間にしか出来ないことだ。

あまりにも残酷かつ非情な仕事柄、その役を負う遺体処理班は、兵士らからはあまり友好的に思われない。
私だってこんな仕事、好んで選んだわけではない。本当ならば、壁外で他の兵士と同じように、巨人相手に戦っていたはずなのだ。それならばどうして、調査兵団でありながら壁外に出ることさえないこの遺体処理班に配属されたのか。
それは全て、エルヴィンの仕業なのだ。





「エルヴィン、お願いがあるんだけど」
「聞こう。何かな、メリア」
「今度ある、シガンシナ区までのルート作りの壁外調査についての紙、見たわ。相変わらず、遺体処理班は本部で待機なのね。私も戦わせて」
「却下だ」


秒殺。一秒で却下された。エルヴィンは表情一つ変えずに私を見つめて来る。ばん、と机を叩いた。


「せめて即答じゃなくて考えるフリくらいしてよ!」
「考えるまでもないだろう。却下だ。他に言うことは?」
「エルヴィン!」


思わず声を荒げる。エルヴィンは私から視線を外さなかった。


「私だって戦える。すぐ近くで仲間が戦っているのに、壁内でじっとしておけって言うの?なかなか堪えるよ」
「メリア、君は遺体処理班班長だ。万が一君が死んでしまったら困る。巨人と戦うからには、なにが起きてもおかしくない。君が足手まといだと言うんじゃない。君だからこそ駄目なのだ。いつも通り、壁内で待機していてくれ」
「…………」


はあ、とため息をつく。エルヴィンはこの様子だと絶対に意見を変えない。


「分からずや。私の気持ちをわかってない」
「そのセリフそのままそっくり返すよ」


エルヴィンはギイと音を鳴らしてイスに体をもたれかける。私はスタスタと歩いて、ふかふかのソファにぼすんと座る。呆れるように目を閉じて言った。


「そもそもエルヴィンが私を遺体処理班に配属したのがおかしいのよ。わかってんの?」
「何回目だろうね、そのセリフは。まだ怒っているのかい?」
「もちろんよ!理由も話してくれないで、わざわざ名指しで引き抜いて有無を言わさず遺体処理班に配属なんて。私エルヴィン嫌いになったんだからね」
「私はメリアのことは好きだけどな」


ぱちりと目を開ける。エルヴィンを見ると、口元に軽く笑みをたたえて余裕を浮かべている。こっちは許していないというのに、謝るつもりが微塵もないうえに、なんとも思っていないようなことを軽く言ってしまうところが権力を持った大人の余裕か。


「はいはい、いらないわよそういう社交辞令。そういうのを飄々と言うところも嫌い」
「手厳しいな。嘘じゃないんだが_____じゃあ、遺体処理班から抜けるか?」
「は?」
「君は調査兵に戻りたいのか?」


エルヴィンが真面目な顔になる。思わず背筋を伸ばして目を見開いて見つめていたが、すぐにまたソファに沈んで言い返した。


「_______私はもう遺体処理班の班長だもの。今更やめたりなんかしない。私の代わりはいなさそうだし、私の役目はこれだからね。エルヴィンが団長であるように」
「そう言うと思ったよ。流石だ。私の判断は間違っていなかった」


私が君を遺体処理班に配属した本当の理由は、もっと別にあるんだが。エルヴィンはそう呟いたが、私は聞き返さなかった。聞いてもどうせ教えてくれない。いつだってそうだったからだ。

暫しの沈黙。私はぼんやりと天井を眺めていた。
トロスト区からシガンシナ区までのルート作りはだいぶ進んできたが、まだウォールマリア奪還の布石を打つ段階なのに大勢が死んでいる。次の壁外調査で、何人が死ぬのだろう。

眠気が襲ってきて、眠ろうかと目を閉じたとき、がちゃ、と扉があいた。


「メリアいるか」


入ってきたのはリヴァイだった。リヴァイはここにいたのかと言う。私を探していたようだ。


「メリア、この前良い紅茶が手に入ったんだが、飲むだろう?」
「飲む!」


即答してしまってから少し恥ずかしくなった。もう少し考えてから冷静に言うのだった。リヴァイはニヤリとしてから、行くぞと言ってスタスタと去っていく。


「じゃあ、エルヴィン。お邪魔しました」
「もう行くのか、メリア」
「うん。紅茶飲みたいから」
「ああ…」


エルヴィンは微妙な顔をしていたが、私の頭にはもう紅茶のことしか頭になかった。

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