リトル・レクイエム

ワールド・ラビリンス


このごろエレンの様子がおかしい。挙動不審というか、ぼーっとしているというか。心ここにあらずで何かを考え込んでいる時間が多くなったように見える。
そして、メリアに話しかける回数も増えた。格段に増えた。いつもメリアを見ている俺が断言するのだからそれは間違いない。俺が知らないところで何かあったのだろうか。


「おい、エルドよ。エレンとメリアは何かあったのか?」
「は?エレンとメリアさん…ですか?」
「ああ」


何か知っていそうなエルドに聞くと、エルドは眉を寄せて首を傾げた。


「この頃、エレンがあいつにべったりだろう」
「ああ…確かに」
「何かあったのかと思ってな。知ってるか?」
「そうですね…」


エルドは思い当たる節がないようで、しばらく考えていたが首を振った。そこへ、ペトラがやって来た。何故か少しだけ楽しそうに、くすくすと笑って、声を小さくして告げた。


「…エレンはメリアのことが好きになったみたいです」
「………それは、恋愛感情か?」
「そうだと思います」
「エレンが、メリアさんを?へえ、やるなあいつ」
「………」


予想外の事実を知った。エルドは微笑ましく感じたのか、笑みを浮かべているが、俺は笑顔の欠片もない。しばらく某然としてから、深くため息をついた。あいつのコミュニティ範囲はかなり狭いというのに、どうしてこうも虫が集るのか。不思議な魅力か何かを持っているのかもしれない。
エレンなんてクソガキにはメリアは釣り合わない。これは一喝しておかなければ、と決める。


「エレンは今どこだ?」
「庭にいます。……リヴァイ兵長、顔が凶悪です」
「…放っておけ」


ペトラから言われたが、嫉妬心に塗れた今の状態ではどうしようもないのだった。





エレンは庭をほうきで掃除していた。俺が近づくと足音に気づき、パッと振り向く。


「あ、リヴァイ兵長!仕事ご苦労様ですっ」
「ああ。…メリアのことで少し話がある」
「え、な…何でしょうか?」


エレンは思わぬ話題を振られたことに明らかに動揺している。俺は一応メリアが近くにいないことを確認してから口を開いた。そういやあいつは、今日は本部に戻る日で朝からいないのだった。


「メリアのことが好きだそうだな」
「え…ど、どうしてわかったんですか!?」
「ペトラに聞いた」
「……!!」


みるみる赤く染まっていく。図星か。思わずチッ、と舌打ちをする。そして言った。


「残念だが俺も好いてる、てめえみてェなクソガキに渡す気はねえ」
「は……」
「あまりメリアに近づきすぎるな」


出来るだけ感情を抑えて言ったつもりだ。これでエレンはどう出るか。わかりましたと頷けば、それまで。そうでなければ、応戦しなくてはならないが。
エレンはしばらくぽかんとした後、キッと目つきを変えた。


「何ですかそれ。脅しのつもりですか。そんなのに俺が怯むとでも?」
「……ほう」
「申し訳ありませんが、兵長だからってメリアさんは譲りません。俺だって男なんだ、子供じゃない。戦う権限はあるはずです。兵長にやすやすと渡したくない」


そう言い切って睨み返してくる。____悪くない。ふ、と口角が上がる。ペトラが見たら凶悪な顔をしているとでも言うのだろう。


「そっちがその気なら相手になってやる。フェアにやろう」
「……負けませんからね」
「やれるもんならやってみろ、クソガキ」


言い捨てて、不敵に笑って扉を開けるとペトラとぶつかった。もしや全て聞いていたかと思ったが、慌ててすみませんと謝った後、きょとんとしていたので多分違うだろう。





兵長が去ったあと、残された私は扉に寄りかかった。


「やっぱり、リヴァイ兵長は…メリアのことが」


好きなんだ。誰にも聞こえないほどの大きさで、そう小さくつぶやいて自嘲じみた笑いをこぼした。

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