リトル・レクイエム

生まれたての愛を知る


メリアさんは不思議な人だ。
初めて会ったのは、牢に入れられているときに団長が連れてきた時。第一印象は、噂に違わずなんだか人を寄せ付けない印象だった。俺と話すのをとても嫌がっていたようだったし、少し怖いとも思った。どこか、兵長と似た雰囲気を持っているなとふと感じた。
でもそれは全く見当違いだった。本当はすごく優しくて、俺のことを、ミカサやアルミンとは違う視点から、ちゃんとわかってくれてるのだと思えた。
だって、こんなにも、俺を撫でる手が優しい。


「怖くなんてないよ。だって、エレンはエレンでしょう?わかってるよ。もう次からは大丈夫」


なんだか泣きそうだった。本当は怖かったんだ。メリアさんにも怖がらせてしまった、怖がられてしまったと、いろんな意味で少し傷ついていた。でも、メリアさんがこうして撫でてくれるから、不思議と安心して気が緩んでしまった。メリアさんは苦笑してから手を止めた。


「私こそごめんね、恥ずかしいところ見せちゃって」
「……メリアさん」
「私なら大丈夫。だから気にしないで。ほら笑って、エレン」


ぽんぽんと優しく叩かれる。少しだが、自然と笑えて頷けた。
メリアさんはそれを見て、満足げに微笑んだ。俺はじわりと胸に何かが染み込むような感じがした。





次の日の朝食はいつも通りのパンだったが、鮮やかな赤い瓶がテーブルに乗っていた。


「何ですかこれ?」


瓶の蓋を開けると、途端に甘い匂いが広がった。ジャムだとすぐに分かった。ペトラさんがにっこりと答えた。


「昨日、メリアがとってきてくれた果実でジャムを作ってみたの。果実だけでも十分甘くて美味しかったから、砂糖はあんまり使ってなくてもおいしく出来たわ。パンに塗って食べてみて、いつもよりちょっと贅沢よ」


メリアさんはぱちくりとした。ペトラさんとジャムを交互に見る。


「…昨日の、落としたあの果実を拾って?」
「そうよ。すごくおいしいから、食べてみて!」


言われたメリアさんはゆっくりと頷いて、パンに塗って口に運ぶ。俺もさっそく塗って食べてみる。ほどよい甘さがとてもおいしい。メリアさんを見ると、ゆっくり、味わって咀嚼して飲み込んでから、嬉しそうに柔らかく微笑んだ。


「……ありがと、ペトラ。すごくおいしい」


どっくん、と心臓が音を立てた。ばっと顔を背ける。か、かわいかった。つか、なんでこんな心臓がうるさいんだ。なんだあれ、なんだこれ。


「エレン、今朝もまず掃除から始めるぞ。早く食え」


声をかけられてハッとして顔をあげると、いつの間にか皆朝食を食べ終えていた。兵長が俺に声をかけ、俺の顔を見るなり顔をしかめた。あたふたしながら、はい、と声を上げた。声が裏返ってしまった。





今日の俺の担当は、ペトラさんと古城の庭の草むしりだった。しばらく座って無言で作業をしていて、ふと立ち上がる。伸びをすると、ぼきぼきと骨が音を鳴らした。はあ、疲れる。


「エレン、ペトラ」
「あ、メリア」
「うわっ!!」


ひょこりと顔をのぞかせたのはメリアさんだった。メリアさんは玄関の方を兵長と担当しているはずなのに、なんでここに。全く予想だにしていなかった登場に驚いて仰け反る。瞬間的にさっきの微笑みと昨日の撫でられたことを思い出して、心臓がまた忙しく鳴り出す。


「うわって何よ。失礼ね」
「す、すみません…えっと、驚いただけです」
「メリアはどうしたの?」
「箒どこにある?リヴァイにとって来るように言われたんだけど、どこにあるかわからなくて」
「あ、箒なら…」


ペトラさんがメリアさんを連れて行く。話し声が遠ざかり、ふうと息を吐く。なんでこんなに疲れてるんだろう。あー、熱い。
すると、突然近くから声が聞こえた。


「エレン」
「はいっ!……なんだ、ペトラさんか」
「なんだって…誰を予想してたの?」
「メリアさんかと…」


振り向くと、ペトラさんがにやにやしながら腕を組んでいた。ふうん、と楽しそうに笑う。なんですかと眉をひそめる。


「エレン、メリアのこと好きなの?」
「っ、は!?」
「図星ね、わかりやすすぎ」


ぼっと熱くなる。好き?俺がメリアさんを?まさかと思う反面、そうか好きなのかとしっくりきてしまった。


「メリアは、自分にそういう話は縁がないと思ってるから苦戦するかもね。応援するわ」


にっこりと笑うペトラさん。いや応援されても、と言い返す。顔は熱いままだ。


「そっか、エレンはメリアが好きか。……強敵がいるかもね」


笑ったまま目を伏せたペトラさんは、どこか哀しげだった。俺はそんなことには気づかずに、強敵という言葉に首を傾げ、メリアさんのことで頭がいっぱいなのだった。

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