リトル・レクイエム

世界の形を教えておくれ


古城での暮らしはまだ慣れない。楽しいかそうでないかと聞かれると、そりゃあ、どちらかといえば楽しいが。
ペトラもエレンもリヴァイも良くしてくれるし、景色は最高だし、日々の鬼畜な掃除さえなければ別荘に来たようである。ただ、ひとつだけ気にかかることがある。他の三人の兵士のことだ。
エルド、オルオ、グンタといったか。あの三人とはあまり接しないのでなんだか気まずい。私が古城に来たことで不快に思っているのかもしれない。私は嫌われ者だから仕方ない。むしろなんだか申し訳なくて、私から避けている。ペトラやエレンと話しているところを見ればやはり良い人たちなのだろうけど。

そんな古城でのある一日のこと。リヴァイとエレンは報告だか何だかで朝から本部に戻っていた。
散歩から戻ってきた私はぱちくりとした。


「…何してるの?」
「何って、お茶会よ!おかえりなさい、メリア!」


ポットを持ったペトラが笑顔で振り向いた。
テーブルに並べられた皿には出来たてのスコーンが載っている。オルオとエルドとグンタが椅子に座っていて、私がドアを後ろ手に閉めたのを見て手招きした。


「待ってました、どうぞ座ってください!」


私はなかなか状況が読めずに首を傾げる。


「急に…何でお茶会を?」
「メリアさんは紅茶が好きだと聞いたので。たまにはいいでしょう?」
「兵長とエレンには内緒です」
「ほら、どうぞ。安物だけど、美味しいアールグレイだよ」


ペトラが私の目の前に置いたのは、透き通ったストレートのアールグレイ。私はぴたりと固まった。ペトラを見ると、ペトラはにっこりと笑っていた。


「知ってるよ、メリアがアールグレイを飲まないことを。でも、飲んでほしいの」
「………」


この匂いを嗅ぐと、脳内にあの鳴き声を思い出す。私はかたく目をつぶった。すると、隣から声をかけられた。


「あの、め、メリアさん!」
「……?」


顔を向けると、オルオが緊張した面持ちで私を見ていた。そういえば、面と向かってきちんと話すのは初めてかもしれない。


「俺、間違ってました。前までは噂に流されて、メリアさんを避けてたけど……、メリアさんは噂なんかとは違うって分かったから。この茶会をきっかけに、仲良くなりたいんです」


視線を外さずにはっきりと言うオルオ。目を見開いてそれを聞いていた。すると、オルオに次いでエルドとグンタも並んだ。


「今まで、失礼ばかりしたことを許してください。でも…」
「これからは俺たちも、メリアさんともっと仲良くなりたいんです」


どういう風の吹き回しなんだ。ついて行けずに、救いを求めるようにペトラに視線をやると、にっこりと微笑んで私の肩を叩いた。


「まだ気づいてないの?もうメリアは独りじゃないってことよ。私だけじゃなくてこうして皆がいるの。だから、怖がらないで。逃げないで、まずは一歩踏み出してみて」


ペトラの言葉は私の心にストレートに届いた。怖がらないで、逃げないで。それは、私にとって一番、難しいことだ。
でも、皆は、私に対して逃げずに一歩踏み出した。だから、こうして茶会が開かれているわけで。私もそれに応えたい。少しずつでもいいから、私も。
私は何も言わずに、椅子に座り、紅茶が入ったカップを手に取った。ゆらりと揺らめくアールグレイに映る自分を見て、一口、こくりと飲んだ。
久しぶりに飲んだアールグレイは、とても美味しかった。


「やっぱり美味しいね。アールグレイ」
「メリア……!」
「何してるの、皆?冷めちゃうでしょ。早くお茶会を始めましょう」


皆を見回してにっこりと微笑んでみせると、皆もホッとしたように表情を緩ませ、頷いた。
ゆっくりとでも、一歩ずつでも進んでいきたい。そう思えた。皆がいるから、大丈夫だ。

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