リトル・レクイエム

君が君であるように


森を抜けると旧本部の古城が見えた。森の中にある城という風貌からもなんだか雰囲気の良いものだった。なかなか風情があってかっこいいじゃないか、と思いながら馬を止めて眺めていると、リヴァイはそのまま進んでいく。慌てて後を追った。
古城に着くと、馬を小屋へ入れてから、リヴァイが扉を開けて中へ入った。


「今戻った」
「あ、兵長!おかえりなさい!」


中から兵士たちの声が聞こえる。私は深呼吸してからそろりと顔をのぞかせた。


「…お邪魔します」


兵士たちと一斉に目があう。ペトラとエレンがいてなんだかホッとしたが、知らない兵士もいる。視線が痛い。緊張した面持ちで立っていると、ペトラが嬉しそうに声を上げた。


「メリア!!」
「ペトラ…久しぶり!エレンも」
「会いたかった!全然遊びに来てくれないんだもん!」
「そうですよ!約束したのに!」


ペトラと、それからエレンも駆け寄ってくる。二週間ほど会っていなかっただけだが、なんだか久しぶりに会った気がする。
壁外調査を終えてしばらくたてば仕事も特に多いわけではないから、遊びに行こうかなと思うときもあったのだが、ペトラとエレンとリヴァイの他の兵士もいると思うと、なかなか行く決心がつかずにいたのだった。全く、自分の勇気の無さは情けない。


「ごめん。まあ今日、こうして来たんだし、ね」
「そうね!にしてもなんで急に来る気になったの?ていうか何なのその大荷物…」


私の手に重そうに下げられているのは、ぱんぱんになったボストンバッグ。仕事関係の書類やら資料やらと、着替えなどを一通り入れて来た。遊びに来たレベルの荷物ではないことは一目瞭然だ。


「えっと、これは…」
「諸事情で、今日から壁外調査までの残り期間、メリアもここに滞在することになった」


リヴァイが私の言葉を遮って言った。ええ、そうなのと嬉しそうにペトラが小さく跳ねる。諸事情という言葉には誰も突っ込まない。リヴァイが諸事情と言えば諸事情なのだ。
驚きと戸惑いを隠せない他の兵士に視線をやる。


「……メリア・カストルよ。いきなりで悪いけど、これからよろしくね」
「!お、オルオ・ボザドです!こちらこそよろしくお願いします!」
「え…エルド・ジンです!」
「グンタ・シュルツです!」


慌てて敬礼して名乗ってくれる三人。彼らともうまくやっていけるのだろうか、少し不安だ。ちらりとペトラを見ると、にっこりと微笑んで返された。その微笑みは、心配しなくても皆良い人だから大丈夫、と励ましてくれているようで、うん、と返事をするように私も微笑み返した。





「ね、メリアは、皆が言うような人じゃないでしょう?想像と全然違ったでしょ?」


メリアがエレンと話しているのと距離をあけて、ペトラがオルオたちにそう聞いているのを見つけた。オルオたちは素直に頷く。


「もっと、怖くて冷たい人かと思ってたけどよ…そんな感じじゃねぇよな」
「ああ。ちょっと驚いたよ、噂とは全然違うんだな」
「そうよ!メリア、本当は優しいし明るいしかわいいんだから。皆が勝手に勘違いして避けてるだけなのよ」
「ペトラの言う通りだ」
「へ、兵長!」


いきなり会話に入る。今までずっと言いたかったことがあったのだ。兵士たちがメリアを避けているのはとっくに気づいていたが、俺にどうにか出来ることでもなかったし当のメリアがどうにかする気もなかったので黙っていただけだ。


「お前らがメリアのどんな噂を聞いてどんな偏見を持ってんのか知らねえが…接してみたら、ただの女だろうが。メリアはお前らが避けるような奴じゃねえよ」
「…そうみたいですね。俺たちが間違ってました」


エルドが頷く。俺は少ししかめっ面をして続けた。


「メリアは良いやつだ。兵士どもがメリアのどこを嫌ってるのかわかんねえな。仕事柄の偏見なんぞであいつを避けるのがおかしいんだよクズが…」
「……そ、そうですね…」


最後らへん、少し愚痴っぽくなってしまったことに気づいて、分かったならいいと言ってそそくさと離れた。少し熱が入ってしまったか。
俺の背中を見つめる憂いを帯びたペトラの視線には気づかないまま、エレンと談笑するメリアのもとへ向かった。

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