リトル・レクイエム

君だって、僕だって


調査兵は訓練を怠らない。壁外で死なないためではない、壁外で人類のために死ぬために訓練をする。そう私は考えている。


「…よくやるね」


訓練場の近くまで通りがかったので、様子を見てみようと思って覗く。調査兵は練習だからと言って気を抜くことなく、その表情は真剣。
どれだけやったって、結局はいつか喰われて死ぬのに。そう思ってしまう私はやはり成長していない。


「あ、」


必死な顔をして飛ぶ、茶髪の男の兵士を見つけ、思わず声を上げる。見覚えがある。


「…あの時の…」


以前トロスト区奪還作戦で、死体を燃やしていたときに出会った六人の訓練兵。その中にいた、一人だ。
調査兵になったのか。
そうしていると、いつの間にか訓練が終わってしまった。ハッとして慌てて立ち去ろうとすると、呼び止められた。


「メリア班長!」


びく、として振り向くと、そこにいたのはさっきまで見ていたあの時の兵士と、他の五人のうちの四人だった。驚いて彼らを見ると、バッと敬礼をする。


「104期調査兵団、ジャン・キルシュタインです!」
「同じく、ライナー・ブラウンです!」
「ベルトルト・フーバーです…」
「サシャ・ブラウスです!」
「コニー・スプリンガーです!」


突然自己紹介が始まった。金髪の少女を除く全員が調査兵になったのか、と内心驚く。
他の兵士に聞いたのだろう、私のことは知ったようだ。ならば、私が遺体処理班班長であると知っていてなぜわざわざ声をかけてきたのだろうか。


「…私に何か用でも?」


短く問いかけると、先頭に立つジャンが答えた。


「覚えてますか、俺たちのこと」
「…もちろん」
「俺たち、調査兵になりました。アニは違うけど…」
「メリア班長の一言が、忘れられなくて」


アニ、というのは金髪の少女の名前だろう。いや、それよりも。

そんなにたいしたことは言ってないのだが、それでも私の一言が彼らを調査兵にするきっかけになってしまったのかと思うと、ひゅっと血が引いていくようだった。
謝らなければならないと思った。調査兵になるということは、それだけで死のリスクは跳ね上がるのだ。もう調査兵になってしまった今では、後戻りできない。
彼らがもしこの先の壁外調査で命を落とすようなことがあれば、私のせいだ。私は何てことを。彼らには、壁外のことなど気にせずに壁外で安全に暮らす未来があったかもしれないというのに。

安易に発言をしてしまったことを後悔し、謝罪しようと思って口を開きかけたが、ジャンが遮るように続けた。


「俺たちは自分で決めたんです。自分の命の使い方を。自分の意思で。だから見届けてください」


強い眼差し。私は言いかけた言葉を飲み込んだ。射抜くようなその瞳は、誰かに似ていると思った。そうだ、エレンだ。


「………わかった。遺体処理班班長として、了解したわ。あなた達の遺体を見ないで済むように願ってるよ」


そう言って、立ち去った。彼らは敬礼をして私を見送った後、駆け足で戻った。
エレンも、104期だったはず。ならば彼らはエレンの同期か。彼らは、私には眩しいほどに、こんなにも強い。私は下唇を噛んだ。

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