久しぶりの陸地は夏島だった。とにかく蒸し暑い。
だらだらと汗を流しながら、できるだけ日陰を通って街を散策していると、夏島ならではの良い店を見つけた。夏なら、これやるしかないでしょう。勝手にそういうことにして、奮発してごっそりと買い漁って船に戻った。
「ということで、花火大会しよう!!」
ビニール袋にいっぱい詰め込まれたたくさんの手持ち花火を持ち上げて、皆に聞こえるように叫んだ。今夜は月が綺麗な夜で、わりと涼しい甲板には夜と思えないほどわいわいと賑わっていた皆は驚いて私を見る。そして、すぐにぱあっと顔を輝かせた。
「花火か!いいな!」
「やろうぜ!夏と言やあ、やっぱ花火だよなァ!」
「たまには良いこと言うじゃねェか、なまえ!」
「たまには、は余計ー!」
皆が一斉に押し寄せてくる。並んで並んでー、と言って花火を配ると、そこに船長がやってきた。
「何の騒ぎだ」
「あ、キャプテーン!なまえが花火買ってきたんだ!」
「花火…」
怒られるかと思ったが、貸せ、と言われて手を出されたので、花火を多めに手渡すと、ニヤリと笑った。
「たまにはいいんじゃねェか。そのかわり、火事起こしたらバラすぞ」
「りりり了解です…」
花火の一つを能力でライターに変えて渡された。目がマジだ。火事だけは起こさないようにしないと。するとベポが水をバケツに入れて持ってきてくれた。さすがの気配りだ。
花火を手にした皆が火をつけ始めると、暗い夜の甲板は明るく光を放った。ボオオ、という音が甲板に鳴り響き、ぎゃははという笑い声と混ざり合って夜の海を揺らした。
それをしばらく眺めていたが、私もしよう、と花火を取ろうとビニール袋に手を入れると、なんとあとは線香花火のみとなっていた。あんぐりと口を開けたが、仕方ない。線香花火で我慢しよう。
ベポを誘おうとすると、シャチとペンギンときゃいきゃいと騒いでいたので、やめた。そこに、手持ち花火を口に咥えて様子を眺める船長がいたので慌てて近づく。
「船長、何してんですか!それ危ないからやめてください!」
「あァ?……チッ」
花火も消えたのでしぶしぶと口から離した。
「それより、線香花火やりませんか!?線香花火!」
「やらねェ。なんで一番ショボい奴を俺がやらなきゃなんねェんだ」
「ショボいって!風情があるじゃないですか。…まあ、これしかもう残ってないからなんですけど」
「勝手に一人でやってろ」
「うう…」
相変わらず辛口だ。もういいもん、一人でやるもん。じゃあここでやります、と船長の隣に腰を下ろし、線香花火に火をつけた。
仄かな火をともし、パチパチと弾ける線香花火は、手持ち花火ほどの派手さはないけれどすごく綺麗だ。じっと見つめていたが、ふと顔を上げて船長を見ると、船長もじっと線香花火を見つめていた。
「きれいですね!」
にっこり微笑んで言うと、船長はふいと目を逸らした。
「…落ちたぞ」
「え?あああ!!」
線香花火に視線を戻すとそこにはもう残っていなかった。もう一度、と再挑戦。今度はさっきより玉が大きい。今度こそ落とさないぞと意気込んで揺らさないように手に力を込める。
「あー!なまえ線香花火やってる!おれもやりたい!」
「線香花火かァ!ペンギン、どっちが長く保てるか勝負しようぜ!」
「いいぞ、まあ俺が勝つけどな」
違う方で遊んでいたベポもシャチとペンギンがやって来た。その拍子にシャチが私にぶつかってしまい、線香花火はぽとりと落ちてしまった。
「あああ!」
「あ、わりいなまえ」
「シャチてめェ…」
「えっ!?す、すいません!」
なぜか船長も怒り、シャチはたじたじだ。そこへベポがにこにことしてしゃがんだ。
「なまえ、おれも線香花火ちょうだい!一緒にやろう!」
「いいよ!」
「ダメだ。ベポはペンギンとやってこい。なまえは俺とやってる」
「え!?」
「そっかー、じゃあいいや」
ベポはあっさりと諦めてペンギンの方へ行ったが私は驚いて船長を見る。私一人でやってたんだけど?
「一つ寄越せ。やるんだろ」
「あ、はい…」
今日の船長はいろいろと変だ。理解に苦しむ。でもいつもより少しだけ優しい。はじける線香花火を見つめて、二人並んでしゃがんでいた。