今日は晋助に連れられて、江戸の花火大会に来ている。
「んまーい!あ、次は焼きイカっ!」
「お前まだ食べる気か…、とりあえずりんご飴食べ終わってからにしろ」
「そう言われるほどまだ食べてないわよ!わたあめと焼きトウモロコシ、かき氷とりんご飴だけ」
「十分食いすぎだバカ」
りんご飴を右手に、そして左手には結局買った焼きイカを持って交互に食べ、唇の端をちろりと舐める。その隣で呆れたように晋助が焼き鳥を食べている。
祭り好きの晋助にとっては、この花火大会という江戸の夏祭りはすごく興味のそそられるものだった。指名手配の身であることも忘れ、支度をするとさっさと私を連れてここに降り立った。
もちろん私も夏祭りは好きだし行きたいと思っていたが、真選組が警備と見廻りをしているだろうし危ないからと我慢していたのだ。しかしそんな私の心配は杞憂に終わったようだ。現に、今すごく楽しい。
「あ!アレやろーよ!射的!」
射的の方へ駆け寄ると、魅力的な商品が私をつぶらな瞳で見つめていた。くまのぬいぐるみだ。
「よっし、やろー!くまのぬいぐるみ狙いで!」
りんご飴をぱくぱく食べて、同じく食べ終わった焼きイカの串を咥えて銃を構えた。ぱかん、と撃つと、見事くまに当たったもののほんの少し揺れただけだった。
当たったのに、と悔しがっていると、次の瞬間にくまが落ちた。隣の晋助が撃ったのだ。いつのまにやら参戦しており、揺れたくまを連続で早撃ちしたらしかった。
「晋助!」
「こんぐれェ簡単だ」
得意顔で銃を肩に担ぐ晋助が、ほらよ、とくまを渡した。
「くれるの?」
「俺のモンだと思ったのかよ。んなもん、いらねェよ。やる」
「確かに晋助には似合わない」
「一言多いんだよてめェはァ」
遠慮なくぎゅっと抱きしめる。もふっ、とふかふかな手触り。すると、そろそろか、と晋助が急に私の手を取った。突然すぎてぎょっとする。こんなスキンシップは普段あまりしないのに。
「な、なに!どこ行くのっ」
「黙ってついて来い」
人がごった返す中、人と人の合間を縫ってすいすいと進む晋助の腕をしっかりと掴む。くまのぬいぐるみもしっかりと離さないようにしてどんどん歩く。どこへ向かうのだろうか。
そしてたどり着いたのは、ひと気のない花火大会の端、高台の上。お祭りの様子が一望できる。素晴らしい眺め。こんな場所があったなんて、と暗い中に賑やかに灯る祭りの様子を見下ろす。
「すごい、なんでこんなところ知ってるの?」
「さあなァ、どうでもいい。それより、そろそろだぞ」
「え?」
顔を上げたそのとき、ドオン、と天を叩くような音が聞こえた。振り向くと、キラキラと輝く大輪の花火が夜空に打ち上がっていた。
「わあ…!!」
何度も何度も夜空に咲く大輪。はじめてこんなに近くで、きれいな花火を見た。ふと晋助を見ると、こちらを見ていたのだろう、目があった。どきりとした。
「花火より、なまえの方がきれいだ」
「………え」
「…なんてなァ。本気で言うと思ったか?」
クックッ、と喉を鳴らして笑う。意地の悪いことを。おかげでこっちの心臓は花火に負けないくらいうるさいのに。ぷいっと顔を背けて花火を見る。
ヒュルル、と煙の線が上に上がり、色とりどりに打ち上がった。
「花火、きれいだね」
「…あァ」
それだけ言って、花火が終わるまで二人でずっと眺めていた。花火が終わっても、晋助の肩に頭を預け、夏祭りの名残を楽しんだ。