唐突だが、この頃考えていることがある。なまえの手料理が食いたい。

例のなまえの件が一件落着し、なまえは今までよりずっと元気に笑顔で過ごしている。病から解き放たれて、やっと素が出てきた感じがするのだ。良いことである。それはいいとして。
俺の秘書として書類整理はもちろん、掃除から洗濯、その他雑用まで忙しなく働くなまえだが、料理だけはしているところが見たことがない。なまえの手料理を未だに食ったことがないのだ。
ウチにはとりあえずコックもいるし、料理の必要性がないことも理由の一つなのは確かだ。他に主な理由があるとしたら、もしかしたら料理が出来ないからなのかもしれないと思い出した。なまえはもともと一人暮らしを島でしていたし、出来ないことはないとは思うのだが。まあ、料理が出来なくても何ら問題はない。料理が出来る女が好きというわけでもないのだから。しかし、惚れた女の手料理を食べてみたいというのは、男の性だと思うのだ。


「…ど、どうしたんですか、ローさん。何か私の顔についてます?」


などと考え事をしていたら、知らず知らずのうちになまえを凝視していた。ちなみに今は朝食中である。


「いや、悪りィ。何もねェ」
「ええ、そこまでガン見しといて何もないって…」
「どうしたのキャプテン?」


なまえの隣のベポも不思議そうに首を傾げる。お前の手料理が食べたくなったなどと言える訳はない。もしなまえが料理が出来なかったらどうするのだ。傷を抉るだけかもしれない。まして、俺のために何か作ってくれと頼むなんてことは出来そうにもない。頼む勇気もない。……なんか、恥ずかしいじゃねェか。


「別に何もねェよ。ごっそさん」
「え、ローさん、もう終わりですか?ちゃんと食べました?」
「食った」


いつも通りの食事量、いや、考え事をしてたから食欲があまり出なかったこともあり、いつもより少なめに朝食をとって席を立つ。ちゃんと食べないとだめです、というなまえの声を聞きながら、返事もせずに歩いていった。

そんな次の日の早朝のことだ。俺の眠りを邪魔してきたシャチらの声。むくりと上半身を起こすと、何かはわからないが食欲をそそるような匂いがした。一気に目が覚めて声のする方へ向かう。キッチンの方向だ。
すると、なまえがキッチンに立っているのが見えた。青のチェックのエプロンをして、鍋の取っ手を握っている。まさか、なまえが手料理を。


「なまえの手作り料理をかけて、ここはジャンケンだろ」
「いいぜ。勝った奴な!」
「後出しナシだからね!」
「ローさんの分の余りでもそこまでして食べたいんですか…」


ペンギンとシャチとベポが握りこぶしを握っており、その様子を苦笑してなまえが見ていた。ローさんの分の余り、と言ったか。俺のために朝食を作ろうとしたとか、だいたいそういうことだろうと理解した。なまえのやりそうなことだ。ふっと笑う。可愛いことをしてくれる。
一瞬のうちに能力で移動し、ぱっと手のひらを開いてみせた。グーが3つ、パーが1つ。勝敗は明らかだった。


「おら、勝ったぞ。俺のだな」
「せっ、船長!?」
「いつのまにィ!」


ニヤリと不敵に笑うと、俺を見てペンギン達が驚いた。例え運任せのじゃんけんでも賭けたものがモノだ。負ける気はしていなかった。
なまえも目を見開いて俺を見る。


「まだ寝てたんじゃ…」
「お前らがあんまりうるせェから起きた」


シャチとベポが不自然にサッと目を逸らす。ペンギンがため息をついた。
その三人を見ながら言った。


「なまえの手料理もらおうなんざ百年早ェよ。もともと俺のためなんだろ?俺が全部もらう」


えええ、とベポとシャチが残念そうに肩を落とす。ベポがうるうるとつぶらな瞳で見てくるが、構うものか。待ち望んでいたなまえの手料理をお前らに取られてたまるか、俺が食う。すると、ペンギンが少し唇を尖らせて言う。


「でも、それ梅入ってますよ。それを、二人分食べるんスか?」
「梅?」


嫌いなワードに眉間にしわを寄せてなまえを見ると、なまえはあははと引きつった笑みを浮かべて視線を泳がせた。ハアとため息をつき、なまえの額をぺちりと叩いた。あいてっ、と小さく声があがった。


「ったく。……まずかったら許さねェぞ。余った分はとっとけ、明日食う。他の奴には食わせんな」
「…はい!」


頬を染めて嬉しそうににっこりと笑うなまえがとても愛しくて、頭をくしゃりと撫でた。

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