着いた島は夏島だった。生い茂る緑は人の手が加わっておらず、日照りが照りつける。島の中心は確かに噂通り賑やかそうだ。久しぶりのショッピングが何より楽しみで、鼻歌交じりに鏡の前で今日の服を選んでいると、見るからに楽しそうななまえが女部屋へ入ってきた。そんなに楽しみなのだろうか。


「なまえいいところに。ねえ、これとこれ、どっちがいいと思う?」
「ん?んーと、どっちでも似合うよ、ナミには!」
「そんなわかりきったこと言わないで!まあいいわ、こっちにする。あ、なまえ、私たちと一緒にショッピング行くでしょう?」


片方の服をクローゼットに戻しながら当たり前のように言うと、予想とは違う返事が返ってきた。


「ごめん、行けない!」
「ええ、何でよ?」


嬉しそうに行く行くと即答すると思っていたのに。振り向くと、にっこりとしてなまえは言った。


「ゾロと先約があるの。ごめんね」


溢れんばかりの笑顔でそう言って、手早く着替えをしだすなまえを見つめてぱちくりと瞬きを繰り返した。ゾロと先約。あのゾロとなまえが。ふ、ふうん、そうなの、と気の抜けた返事をする。なまえはすぐに着替え終わった。普段はあまりしないような、クローゼットに眠っていたシフォンワンピースを引っ張り出し、ウエッジソールサンダルへチェンジ。それだけでも見違えてオシャレだ。


「じゃあ、いってきますっ」
「いってらっしゃい…」


見送ってから、扉が閉まったのを合図にしたようにばっと部屋を出て見下ろすと、ゾロとなまえが並んで歩いて行っていた。


「あの二人…うまくいったみたいね」
「やっぱり、やっとくっついたの!?」


ロビンが隣に来た。二人を見下ろし、そのちぐはぐであるが仲良さげな様子を見て微笑む。やっぱりそういうことだったのね、となまえの嬉しそうな顔を思い出した。


「面白いことになってきたわねー!あの堅物ゾロがねェ…。あいつ、帰って来たらいじり倒してやろう!」
「でも、ちゃんとしたお付き合いじゃなさそうよ。告白はしてないもの」
「ええ!?ダメじゃない!っていうか、ロビンは見てたの?」
「うふふ。…秘密よ。能力でね」


しー、と口に指を当てる。ああ、そういえば、目や耳を咲かせることも出来るんだっけ。ロビンはそれで一番オイシイところをじっくり見ていたわけか。何とも悪趣味、そして何ともうらやましい。


「二人でデートなんて、青春ね。まあ付き合ってないけれど、それも時間の問題でしょうね」
「ホンットじれったい奴ら!」


私たちも早く行きましょ、とロビンに声をかける。ショッピングのついでに、あわよくば、二人のデートの様子を見たいものだ。やっと進展を見せた鈍感コンビが鈍感カップルとなるのはきっと遠くない未来だ。





「わあ!」


思わずそう声を漏らすほど、賑やかな中心街だった。たくさんの店が立ち並び、良い匂いがする町並み。興奮してゾロの服をぐいぐいとひっぱる。


「すごいねゾロっ!」
「わかったからひっぱんな。…で、まず、どこ行くんだよ」
「まずはジュースだよね!」


看板の、フルーツのたくさん入った涼しげなジュースの写真が私を呼んでいる。大人気フルーツミックスジュースと書いてあった。二人で店に入ると、にこやかに店員さんが出迎えた。


「いらっしゃいませ。何にいたしましょう」
「えーっと、私は看板のやつ!ああでも、こっちのマンゴーも捨てがたい…!」
「めんどくせェな。どっちも買いやいいだろうが。ナミから金は貰ったんだし」
「二つはさすがに飲めないよ!」


やっぱり看板のジュースにしようかなあ、とつぶやくと、笑顔の店員さんがマンゴーはこの夏島の特産品なんですよ、と情報をくれた。おかげで私はまた悩むことになり、ゾロがため息をついた。


「おい。看板のやつと、マンゴーのやつ。二つくれ」


悩む私の隣でゾロがそう言ってチャリと金を出した。驚いてゾロを見る。


「お前は看板の方飲め。マンゴーも飲みてェなら俺が分けてやるよ、それでいいだろ」


呆れたようなゾロが受け取ったジュースを手渡してくる。ぱああ、と顔を輝かせ、うんと頷いた。マリモのくせに優しいじゃないか。すると店員さんがくすりと笑い、私に話しかけてきた。


「優しい彼氏さんですね」


……彼氏さん?私はぱちくりして、ぼっと頬に熱が集まるのを感じた。慌ててそんなんじゃないです、と否定するも、店員さんはにこにこと楽しそうに笑うばかりだ。誤解だが恥ずかしくて店から半ば逃げるように出ようとすると、後からついて来るゾロがニヤリとして言った。


「わがままな彼女で困ったもんだぜ」
「…っ!彼女じゃないし!行くよゾロ!」


ありがとうございました、という店員さんの声も聞き終わらないうちに店から出た。自然と早歩きになってしまっていたが、ゾロの歩幅では何の問題もないらしく、動じずにこれうめェなとストローでちゅうちゅうとジュースを飲んでいる。


「もう、バカ。マリモのくせに生意気」
「はァ?バカはお前だろバカなまえ。ジュースやらねェぞ」
「いる!」


慌ててひったくるようにコップを奪い取り、ストローを口に入れてひとくち飲む。濃厚すぎないあっさりしたマンゴーの味が口に広がる。


「おいしいねこれ!マンゴー!」
「………やっぱお前バカだな」
「何が?バカマリモに言われたくないんだけど!」


口を手で覆い、そっぽを向いたゾロ。首を傾げるが、マリモの行動は理解出来ないので気にしないことにした。




十分に楽しんだ後、さあ船に帰ろうと船を目指して歩き始めてかれこれ一時間。私は大いに後悔した。なぜ、歩幅の関係で先を行くゾロについて来てしまったのだろう。ちゃんと私が先導を行くのだった。


「これどこ行ってんのよバカマリモ!」
「だから今船に向かってんだろうが!文句あんのか!」
「文句しかないわこの迷子剣士!船を止めてる沿岸の真反対じゃん!!」


忘れていたのだ、ゾロがもはや天才的な方向音痴だということを。中心部以外は木々が生い茂る夏島の森。確かに方向は分かりにくいが、まさか真反対に向かっているとはさすがゾロとしか言えない。


「もう、ゾロを信じた私がバカだった!油断してた!」
「何だと!もう少しで海だろ、船があるはずだ!」
「だから真反対だってば!」


ぎゃあぎゃあ言いながらそれでも歩む足を止めないでいると、急に閉ざされた森のようだった視界が開けた。そこに広がっていたのは、美しい砂浜。海がいっぱいに広がっていて、傾き始めた太陽の日差しでキラキラと水と砂が光る。


「……すごい」
「こんなとこあったんだな」


あまりの美しい海に、ぽかんとしていたが、ザザンというの波の音でハッとした。サンダルを脱いでだっと駆け出した。


「海だー!!ゾロ、うみうみ!」
「海なら毎日見てんだろ。なんでそんなテンション高ェんだよ」
「だって!こんなきれいな砂浜珍しいよ!こっちに船停めるべきだったね。ルフィ達にも教えてあげよう!」


バシャバシャとひざ下まで海に入り、濡れないようスカートを少しまくる。ゾロを振り向き、手を振った。


「ゾロもおいでよー!」
「行くかよ、子供じゃねェんだし」


脱ぎ捨てたサンダルを拾い上げるゾロに唇を尖らせる。ノリが悪いなあゾロは。まあいいや、一人で楽しむもん。ひざまで海につかったまま、ゆっくりと歩く。夕陽の眩しさに目を細める。早く帰って皆にこの砂浜を教えてあげようと思い、振り向くと、すぐ後ろの砂浜にゾロがいた。ゾロ、と声をかけようとしてその言葉をのみこんだ。ほんの少しだけ口角を上げて笑んで夕陽を受けるゾロがいつもより格好良く見えて、胸がどくんと高鳴ったから。


「なまえ、この場所はあいつらに教えんな」
「…え、なんで?」
「……俺とお前だけの、秘密の場所にしとこうぜ」


だから、言うなよ。そう念を押して、帰るぞと手を差し伸べた。私はゆっくりと頷いて、その手を取る。繋いだ手を引っ張られ、砂浜を歩く。どきどきして、なんだか落ち着かない気持ちを静めるように、潮の匂いを吸い込んだ。

prev - next
back
×
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -