月光の元で異端者達がわらう

※ジャン視点

夕飯の時間だ。今日の夕飯はパンとミネストローネだったか。私用で少し遅れてしまったが、俺の分はまだあるだろうな。サシャに食われてないといいが。
そして訪れた食堂。しかし、いつもと様子が違うのに気がついた。

今夜の食堂の一角には、異様な光景が見られた。
いつも俺たち同期が座るテーブルに兵士達の視線が集まっている。兵士達はくすくすと笑っている。何事かと近づき顔を出すと、そこには本当に異様としか言えない光景があった。

まずエレンとミカサとアルミンがおらず、とてもよく似た女二人と男が三人で座っている。そしてその近くには異常に重そうな服を着たライナーがげっそりした顔。その隣でベルトルトがおろおろとライナーを気遣っていて、アニはそれを眺めてため息をついている。
問題はその向かい側でいちゃついている二人だ。女神クリスタとユミル。その二人の頭には可愛らしい猫耳が生えていて、ゆらりと尻尾が揺れている。
…何があった。


「どうしたんだよお前ら!エレンとミカサとアルミンはどうした?つかお前ら誰だよ」


知らないやつらの向かい側にガタンと席につきながら話しかけると、エレンに似た女が噛み付くように答えた。


「俺がエレンだよ、ジャン!!」

「……………んなアホな」

「僕が説明するよ…」


エレンと自称する頭がおかしい女の隣の女が顔をあげながら言う。アルミンに似ている。


「ジャン、今日はハロウィンだろ?」

「あ…ああ、そうだったか」


全く気にしていなかったが、そういやハロウィンだったか。それが一体どうしたんだよ。


「セシリアさん、魔女だから。ハロウィンにいろいろ悪戯して回ってるみたいなんだ」

「…まさか」

「そのまさかだよ。僕たちお菓子持ってなくて、悪戯されてこの有様さ。信じられないかもしれないけど、僕はアルミンでこっちはミカサ。性別入れ替わっちゃったみたいなんだ」


信じられないが、妙に納得出来る。セシリアさんならやりかねない。 
つか何やってんだよセシリアさん!!暇人かよ!!つか、こいつがミカサ?元の黒髪美人なミカサを返せよ!かっこいいけどよ!


「本当にミカサなのか!?」

「そう」

「マジかよ…じゃあそっちはエレン?」

「ああ。明日には戻るらしいんだけどな」


はあ、とため息をつくエレン。お似合いだぜ、とでもからかってやりたいところだが、今はやめておこう。
今度はライナーに話しかけた。


「ライナーはどうしたんだよ。なんかセシリアさんにやられたのか?」


ライナーは俺を見て、憂鬱そうに小声で言った。


「クリスタがかわいすぎて辛い」

「そっちかよ!」

「ライナー、私のクリスタになんかしたらただじゃおかねえからな」

「ユミル、ライナー気分が悪そうだからやめとこ?」

「女神!」


クリスタとユミルが喋るたびにぴくぴくと耳が主張する。この二人もセシリアさんの仕業か。
ライナーはクリスタのことでげっそりしてたのかよ、と内心呆れると察したかのようにライナーがごほんと咳をした。


「まあ、それだけじゃないんだが」

「ライナーは魔女に体重を奪われたんだとさ」

「体重ゥ?」


アニが呆れたように言う。体重、とはどういうことだ。説明を求めると、今度はベルトルトが口を開いた。


「今のライナーの体重はたった1キロなんだ。軽すぎて動きにくいらしくて、おもりを身につけているんだよ」

「かと言っても身につけられるおもりにも限界があるからたいした重さにはならねえしな」

「1キロって…」

「ここに来るまでも大変だったんだよ。ふらふらしてさ、軽くなったんなら逆に動きやすいんじゃないの」


「アニも体験すれば分かる。軽すぎて動けないんだよ」

「絶対嫌だね」


もともとライナーは体重重かっただろうからな。1キロなんて、そりゃそうだろう。
もはやこのテーブルはセシリアさんの被害者の会となっている。
そこにバタバタとサシャが走って来た。よだれがだらだらと流れている。きたねえな!


「皆さんっ、だ、だ、大魔女様が!!大魔女様がー!」

「落ち着けよ、どうした?セシリアさんがまたなんかしたのか?」

「とにかく来てくださいよ!」


ぐいぐいと引っ張られ、配膳の方へ行く。後ろからエレン達もついて来ている。


サシャに引っ張られて行くと、セシリアさんがドヤ顔で立っていた。またなんかしたのかよこの人。今度はなんだよ、と思っていると、いつもと違う美味しそうな匂いが鼻腔をくすぐった。


「トリックオアトリート!お菓子がないから悪戯したわ!さあ召し上がれ!」


わあっと歓声が上がる。今日の夕飯はただのパンとミネストローネだったはずが、血のようにケチャップのかかったオムライスと、とろりと濃厚なパンプキンスープに大変身していたからだ。オムライスは多少グロテスクだが、おいしそうなとろとろ卵だし、オムライスもパンプキンスープもこじんまりしているが滅多にない豪華さだ。


「いやー、頑張ったわ。小さくなっちゃったけど、なんとか全員分あるし」

「全員分!?」

「もともとパンとミネストローネが全員分あったから」

「大魔女様あああ、ありがとうございますううう!夢のようですううう」


サシャが信者のようにすがりつく。セシリアさんはサシャの頭を撫でて、さあみんな、持って行って食べて、と微笑んだ。


「今宵はハロウィン!心ゆくまで楽しんでね!」


ディナーを食べた後はセシリアさんがデザートをくれた。まあ、そのデザートにもまた悪戯してあったものがあり、ところどころから悲鳴があがったこともあったのだが。
その日の食堂はいつになく賑やかだった。

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