今宵だけは無礼講

まずは、とエルヴィンさんの執務室に向かう。今日一日くらい、エルヴィンさんにだって悪戯が許されるはずだ。


「トリックオアトリート!」


扉を開け放ってそう言うと、書類を持ったハンジさんとそれに対応するエルヴィンさんがきょとんと私を見た。


「お菓子をくれなきゃ悪戯するぞ!」


すると、二人はカレンダーを見て納得した。


「今日はハロウィンだったか。生憎、今菓子は手元にないんだが」

「私も___あ、あった」


ハンジさんはポケットを探り、はい、と私に小さな金平糖がいくつか入った小袋をくれた。本当は自分で食べようと思ってたんだけどね、と少し残念そうに笑った。


「ありがとう、ハンジさん!じゃあ、お礼に私もあげるわ」

「あれ、魔女からももらえるのかい?嬉しいな」

「貰うだけっていうのは気が引けるからね」


バスケットに手を突っ込み、ごそごそと探ると、大きな何かに触れた。不思議に思ってそれを出す。


「わ、なにこれ!」

「それは…!」


出した自分でもびっくりする。それは大きな大きな金平糖だった。手のひら一杯の大きな金平糖は、キラキラと輝くオレンジ色。甘い匂いが広がった。つくづく思うが、このバスケット、どうなってるんだ。
驚きながらもにっこりと笑って特大金平糖をハンジさんに差し出した。


「はい、どうぞ」

「あはは!こりゃ食べるのに一苦労しそうだね!ありがとうセシリア!」


笑いながら受け取って、ビニール袋に入れる。どうやって食べるのかはわからないが、美味しそうな金平糖をまじまじと見つめている。嬉しそうで良かった。
さて、次はエルヴィンさんだ。お菓子をくれないならば、悪戯なんだからね。


「エルヴィンさんには悪戯よ!」


杖が淡く光り、振ると光の粒子が発生した。


「……?」


しかし、何も起こらない。失敗したかな、と不安になったそのとき。


ずるり。

「…!!?」

「ブフぉっ!!」


エルヴィンさんの髪の毛がズレた。まるでそれが被り物かのように。ハンジさんは見た瞬間盛大に吹き出した。私はなんとか笑いを堪えている。エルヴィンさんが頭に手をやると、ずれた頭髪はついにぱさりと落ちた。再び吹き出したハンジさんが倒れ、腹を抱えて転げ回る。


「…っ…えっと…っ、じゃあ私はこれで」

「待ちなさいセシリア」


口を抑えてそろそろと後ずさりすると、エルヴィンさんが立ち上がった。怖いのに笑ってしまう!!


「これはどういうことかな…?」

「たっ、ただの悪戯だから!多分明日には元通りだから!」


必死でそう言って、笑いすぎてもはや苦しそうなハンジさんを放って、早々に扉を開けた。


「よいハロウィンを!」


明日からエルヴィンさんと話せなくなりそうだ。早くも後悔に襲われるが、思い出してくすくすと笑った。

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