お菓子をくれなきゃいたずらするぞ!

10月31日。
日が沈んでからはがしていないのに気づき、日めくりカレンダーを剥ぎ取ったエレンは、嬉しそうに声をあげた。


「あ、今日はハロウィンでしたね!」


資料を整理していたリヴァイさんは手を止め、花瓶に花を生けていたペトラもエレンに視線を向けた。


「ハロウィンか…忘れてたな」

「もうそんな時期?今年何にもしてないなあ」

「でもハロウィンは夜がメインですから。まだまだこれからですよ!」


私はというと、聞き慣れない単語に首を傾げるばかりだ。話についていけない。


「ハロウィンって何?」


エレンがきょとんと私を見て、すぐに説明してくれた。


「セシリアさんは知らないんですね。今日はハロウィンっていって、魔女や吸血鬼とかの仮装をして友達や知り合いを訪ねて、お菓子をせがむ。んで、お菓子をくれない人には悪戯できる日なんですよ」


俺もあとでミカサやアルミン達のところに行こう、と楽しげなエレン。なるほど、ニンゲンは面白いことをする。


「つまり、お菓子か悪戯か__trick or treatってことね」

「そういうことよ」


私は魔女や吸血鬼の仮装をする必要はない。異世界からトリップして来た、本物の魔女だからだ。
ということは、今日というハロウィンとは、私のためにあるようなものじゃないか。
こうなったら、参加するしかない。瞳を輝かせて、リヴァイさんの机を叩く。


「ねえリヴァイさん!それ魔女の私がしないで誰がするの!?」

「…嫌な予感がしてた。エレンが言ったからだ」

「お、俺ですか!?」

「単独行動許可を頂戴!」


嫌そうに眉を寄せるリヴァイさんにお願いすると、仕方ねえなとしぶしぶではあるが許可が降りた。厄介ごとだけは起こすなよと言われて返事もそこそこに、杖で魔方陣を書き出す。


「オロバス召喚!」


魔方陣が光りだし、現れたのは一人の若い青年。オロバスという名の私専属の執事である。れっきとした悪魔だ。


「お呼びでございますか、セシリア嬢」

「オロバス、大量のお菓子を用意して欲しいの。今すぐ!」

「お菓子ですか?何故…」


不思議そうに私を見るオロバスに、自慢気に話す。オロバスも知らなかったようだ。


「今日はハロウィンっていうイベントがあって、お菓子が必要なの。出来るだけたくさん、持ち運び出来るようなバスケットに入れて!」

「かしこまりました」


お辞儀をしたオロバスがパチンと指を鳴らすと、パッと現れたバスケット。一見何の変哲もなさそうに見えるが、その中身はブラックホールのように真っ黒だ。


「これ、もしかして、アレ?」

「アレでございます」


いつだったか、私が興味本位で買ってきた"びっくりお菓子バスケット"。中にはいろんなお菓子が100個くらいそれこそブラックホールのように入っていて、何が出てくるかわからないというパーティーグッズだ。ふつうに美味しいただのクッキーから、食べてびっくり魔法のキャンディまで、様々なお菓子が入っているという。


「さすがオロバス、ナイスなチョイスね!ありがとう!」

「お褒めにあずかり光栄ですが、そのギャグはいただけないかと」

「ギャグじゃないからね!?」


ナイスなチョイスなんて言わなきゃよかった、と後悔すると、オロバスは一礼して消えた。
なにはともあれ、これで準備完了だ。右手に杖を、左手にバスケットを装備し、エレンに見せた。


「ばっちりでしょ?」

「はい!でも、魔女はお菓子をもらう側なのでお菓子いらないと思うんですけど」

「…………」


細かいことは気にしない!私もあげればいいだけのこと!うん!


「さ、さあ、魔女からお菓子をあげよう!」

「無理矢理ですね」


手始めにまずエレン達にしよう。バスケットに手をつっこみ、お菓子を掴んでエレンに出した。


「はい、どうぞ」

「…これ、は?」


受け取ったエレンのお菓子を私も覗き込む。美味しそうなかぼちゃ色をしたそれは、アタリのようだ。


「かぼちゃのパイね。甘くて美味しいよ」

「パイなんて高級なのいいんですか!ありがとうございます!」

「いえいえー!じゃ次はペトラね!」


次に出したのはかぼちゃのクッキー。かぼちゃ推しだなあ、このバスケット。なんでだ。
ありがとうセシリア、と嬉しそうに受け取ってくれる。やはり、この世界ではお菓子はなかなか手に入らないものなのかな。


「で、リヴァイさんね!はい!」


にっこと笑って差し出すと、リヴァイさんが受けとる。すると、


パンパンッ!

「っ!?」


お菓子から破裂音がした。私はびっくりしすぎて声も出ない。リヴァイさんが目を見開き、お菓子を落としてしまう。よくよく見ると、それは、かぼちゃのタルトだった。
いやいやいやなんでタルトが破裂音ならすの!?意味がわからないんだけど!!


「セシリア…てめえ…何の仕業だ…?」


ただのタルトということがわかり、拾いながら私を睨むリヴァイさん。慌てて首を振る。


「私のせいじゃないよ…!何が出て来るのかわかんないし!でもほら、音が鳴っただけで、普通に美味しそうなタルトだよ?」

「…あの執事の悪意を感じる」

「へ?」

「いや」


リヴァイさんが嫌そうな顔をしながらタルトを机におく。あとで食べてくれるだろう。
とりあえず、三人には渡したし、他の人たちのところにも行こう!


「じゃ、いってきます!よいハロウィンを!」


たくさんもらってたくさんあげて、たくさん悪戯してこよう、と意気込んで執務室から出たのだった。

長い長いハロウィンの夜が始まる。

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