パンとコロッケ
その朝食の事件で、私の存在は兵団内にあっというまに知れ渡った。
魔女と自称する痛いヤツだとか、キチガイ女とか、レーズンパンくれた大魔女様だとか、まあそれは言いたい放題噂が流れていた。そしてほとんどが魔女だと信じていない。ですよねー。
これはちゃんと自己紹介したほうがいいだろう、ということで、リヴァイさんに言われて夕食の食堂であいさつをすることにした。
「訳あって調査兵団にお世話になることになった見習い魔女の、セシリアっていうの。リヴァイさんに面倒見てもらってるわ。よろしく!」
ざわざわしだす兵団の人達。だんだんうるさくなって来たとき、リヴァイさんが前に出た。
「魔女だからといってガタガタ騒ぐな、ただ新兵が入っただけだと思え。いいな」
「「は…ハッ!」」
途端に静かになるのだからすごい。もしかしなくても偉い人か。
話が終わると夕食の配膳が始まる。夕食はパンとコロッケだ。まあ、夕食は食べられないでもないかな。
リヴァイさんは仕事があるから、とさっさと食べて私を置いて行った。一人にしないでよ裏切り者ー!
「大魔女様っ!」
ぼっちになってさみしく食べていたら、朝のあの女の子とその友達と思われる人が何人か寄って来た。
「朝はありがとうございました!とってもおいしかったですレーズンパン!」
にっこりと良い笑顔でそう言われる。あの後ちゃんと食べたのか。
「それはよかった。なあに、また欲しいの?」
「私じゃなくて、エレンが欲しいそうです!」
「ちょっ、サシャが欲しいっつったろ!あとコニー!」
「見たいって言ったのはエレンじゃないですかー!」
「そうだぞ!エレン!」
「エレン、相手は魔女だぞ、土下座しねェとやってくれねェぞ」
「てんめっ、ジャン!」
元気な子たちだなあ、なんて、微笑ましい。目の前で始まった言い合いにクスリと笑い、立ち上がった。
「いいよ、やろうか?エレン」
「…!ありがとうございます!」
「おいサシャ、コニー、よだれ」
「はっ!」
パンを前に、レーズンパンを思い浮かべる。何か視線が痛いと思えば、他の人も興味津々で覗き込んでいた。急に緊張してくる。
「れ、レーズンパンになれ!」
ボワン。しかし、出て来たのは、おいしそうなそれではなかった。
「おお、……お?なんだこれ、芋?」
「い、芋っ!?あああ失敗しちゃった…!」
そう、出て来たのは芋。おいしそうなふかし芋だ。パンがまさか芋になるなんて。失敗だ。
ドッと笑いが起きる。特にジャンと呼ばれた人とコニーと呼ばれた人は笑い転げている。
「い、いも…!エレンにはお似合いだぜ!」
「うまそうだなエレン!」
「ご、ごめん!失敗した!」
「あ、いや…大丈夫ですから!芋、好きなんで!…ジャンは許さねえけどな!」
「なんだ、やんのか!?」
なぜか喧嘩に発展していくそれにぷっと吹き出す。ニンゲンって面白いなあ。まあまあ、落ち着いて、と仲裁しながら杖を一振りすると、ジャンの頭に芋が一つ落ちて来た。
「うわっ!?芋!?」
ほっかほかの芋だから、熱いだろう。驚いて芋を払い落としたジャンを見て今度はコニーが笑う。
「あっはっは!ジャンに芋が!」
「…!セシリアさん…!何やってんですか!」
「おもしろいねー!君たち!」
「からかわないでくださいよ…!」
少し顔を赤くして怒るジャン。ふふ、と笑いながらコロッケを口に運んだ。あ、けっこうイケるかも。
あのう、芋、いらないなら食べていいですか?と横からサシャが言った。
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