パンとスープ
私の部屋になる空き部屋へ案内してもらった後、これからお世話になるリヴァイ班の人達にあいさつをしたり、いろんな場所を案内してもらったり、その他もろもろで疲れる一日だった、その翌朝のことだ。
私は衝撃を受けている。
「り、リヴァイさん」
「なんだ、セシリア」
「これは…ナンデスカ」
「てめェがなんだよ。パンと豆のスープだが、見てわからねェか?」
いやそんなことは分かっている。配膳係の人から受け取ろうとして、止まった私の足を席につくぞと容赦なく蹴るリヴァイさん。それでこけたらスープはリヴァイさんの顔面にかけてやる。
なんて思いつつ、まだ衝撃を受けていた。
「これが…この世界の朝食…?あり得ない、なんでこんなに粗末なの…っ」
「食糧難なんだよ。我慢しろ。文句があるなら食うな」
「食べるわよ!だけど…」
これはおかしいと思う。食堂を見渡すと、こんな粗末な食事でもきちんと食べる人々。文句を言う人はいない。マジでか。これを食べているのか、ここの人々は。
今までの私の食生活は、魔女だからといっておかしな物を食べているわけではない。普通にニンゲンと同じような、少し贅沢と言える程度の食事を食べていたので、ここでもそのような食事が出されると思っていたら、まさかこんな、ニンゲンではない、家畜にやるような粗末なものだったのだ。
おぼつかない足取りでテーブルまで行き、その食事を置いた。
「リヴァイさん、私こんなの食べられない」
「あァ?贅沢言うな」
「ちょっと、魔法使ってみる」
こんなものを食べるなんて、魔女としてのプライドが許さない。家畜じゃないんだよ魔女だぞ魔女。
理解出来ない、と眉間にしわを寄せるリヴァイさんをよそに、腰のベルトに差していた杖を引き抜き、構える。
立派な魔女ならば、元がこんな粗末なものでも豪華なモーニングセットに変えられるのだろうが、あいにくそんなことは出来ない。レーズンパンとコンソメスープが限界かな、ということで、それを思いかべる。
「レーズンパンとコンソメスープ。に、なれ!」
ボワン、と煙が発生する。その煙が晴れたときには、そこにはただのパンと豆のスープはなく、おいしそうなレーズンパンとコンソメスープが皿に乗っていた。
「よし、じゃあいただきま」
「おいセシリアよ」
席に座ろうとして、リヴァイさんに肩を掴まれる。痛いですリヴァイさん。
「俺のメシもやれ」
「…」
じとりとした視線で見るも、ずいっと皿を出される。仕方なく同じようにやると、なぜかレーズンパンが一つ多く出てきた。え、なんで。リヴァイさんにだけサービス?ずるい!せこい!
「一つ多く出て来たから、これは私のということで」
ぎろりと睨まれたが、ぱくっと口にいれる。食べたが勝ちだ。んん、おいしい。リヴァイさんも、悪くない、と言いながら食べていた。素直じゃないなあ。
「あのっ!!!」
突然声をかけられて、びっくりして振り向くと、よだれを今にもたらしそうな女の子がいた。ふと周りを見ると、みんながこちらに視線を注いでいる。
「おいしそうなパンですね!!見てました!あなた何者ですか!?」
「あ、うん。えーっと、魔女」
「「魔女!?」」
「大魔女様!!パンをお恵みください!!」
「…」
みんなが声を揃えて驚く中、大魔女様なんて呼んでパンを欲しがる女の子。なんか…すごい。その威勢に気圧され、もう一つの私の分を普通に渡してしまった。
「…どうぞ」
「パァン!ありがとうございます大魔女様ー!!このご恩は忘れません!」
ぴしっと胸に手を当て敬礼してから、嬉しそうに戻っていった。
「…ばれたな、今のでほとんどに」
リヴァイさんがそうつぶやいた。ばれたらダメだって話はなかったのに、と思い、言い返す。
「駄目だった?」
「…いや。隠すつもりはなかったし、いずれ知られることだった」
そう言ってコンソメスープを吸うリヴァイさんに、にっこりと笑う。
「おいしいでしょう?魔法の素晴らしさが分かったでしょ」
「…悪くない」
よほどお気に召したのか、いつもより少しだけ機嫌が良さそうだった。
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