事情聴取

 
「で?聞かせてもらおうか」


どっかりと足を組んでソファに座った目つきが怖い刈り上げの男。その隣には目をきらきらさせたメガネの人と、真剣な顔の一番えらそうな男。
あれですな、尋問?こわっ。


「どこから話せばいいのやら…」

「全部だ。どこからどうやって来たのか、何者なのか、目的は何なのか。全て話せ」


だから怖いってば。なんでこんな目にあわないといけないんだ…くそう帰りたい。そう思いながら、口を開いた。


「私は見習い魔女のセシリアといいます。こことは違う世界から来ました。魔法の練習中に、瞬間移動に失敗して気がついたらあそこに落ちていました。自分でも何がなんだかよく分かっていないんです。だから目的とかそんなのは…あ、元の世界に帰りたいです」


長々と喋ってやっと口を閉じると、三人ともぽかんとして目を見開いている。そりゃ信じられないだろうなあ。当事者の私でも信じられないんだから。全く、どんな失敗の仕方したんだか。


「なるほど…大体理解した。じゃあ次はこちらが紹介する番だ」

「私はハンジ。この目つきが怖いのはリヴァイで、えらそうなのがエルヴィン」


名前を教えてもらい、そこからはこの世界についていろいろと説明してもらった。

どうやら、私が知っているニンゲンの世界とは少し、いやかなり違うようだ。ニンゲンが滅びかけているだなんて、耳を疑う話だ。でもあの壁というものがあるんだし、本当なのだろう。
あのバケモノは巨人というらしい。人類の敵で、その巨人と日々戦っているのだという。ニンゲンを食うらしい。やっぱ食うのか。倒せて良かった。

たった一度の瞬間移動の失敗で、こんな世界に飛んできてしまったなんて。私、帰れるのだろうか。


「そこで、君に提案がある」


話が一通り終わって、エルヴィンさんが私にそう切り出した。


「行くあてもないのだろう?じゃあここで暮らすといい。そのかわり、力を貸して欲しい。魔法というのは利用価値がありそうだからね。どうかな、悪い話じゃないと思うが」


ぱちくり、と瞬きを繰り返す。
たしかに、暮らさせてもらえるのは助かる。これからどうしようと思っていたところだし。
でも、私に協力しろというの?


「………利用価値って言っても、私、まだ見習い魔女なの。修行中の身だから、大した魔法使えないわ」


そう言うと、リヴァイさんがチッと舌打ちして不満そうに睨んで来た。いや、睨んではいないのかもしれないけど、目つきが悪くて睨んでいるように見える。


「じゃあ、これならどうだ。帰る方法をできる範囲でなら探しておいてやる。帰り方が分かるまでの間でいいだろうが」


そう来たか。さらにリヴァイさんは続けた。


「それに、この前の爆発はお前の魔法なんだろ?あんな感じでやりゃいい」

「そんな簡単に言われても困るよ!この前の爆発は、あれは、そう…たまたま!」

「なら出来るようにすりゃいいだけの話だ。修行というのは、ここでは出来ないような事なのか?」

「いや…まあ、できるけど」

「じゃあ問題ねェな」

「魔法の修行には興味があるなあ!手伝うよ!私、実験とか得意だからさ!」


ハンジさんが嬉しそうに言う。なんだか言いくるめられている気がする。頷きそうな私も私だが。
まあ、帰り方も探してくれるらしいし、行くあてがないのは事実だ。ここのニンゲン達はずいぶんかわいそうなことになってるようだし…。あんまり力になれるとは思わないけど、やってみようかな、と思った。
しばらく思考を巡らせた後、視線を上げてエルヴィンさんを見た。


「何度も言うけど、私、まだ見習いなの。役にたたないかもしれない」

「わかった。最初はあまり頼らないように善処するよ」


あんまり大丈夫じゃない気がするんだけど。それと、私が一番危惧していることがある。


「…私が食われたらそれ、どう責任とってくれるのよ」

「それなら、リヴァイが守ればいいよ!リヴァイ班として行動すればいい。リヴァイはこう見えて人類最強と呼ばれているんだよ」

「おいクソメガ」

「いい案だ」

「…」


リヴァイさんはどうやらエルヴィンさんに逆らえないらしい。舌打ちを一つして黙ってしまった。
人類最強…ニンゲンで一番強いってことよね。この人が?あんまり大きくないし、そうは見えないけど。

ふうと息をついて、目を閉じて考える。
責任重大だけど…良い修行にもなるかもしれないし。帰った時に、教授に認められるくらい強くなっていたら、立派な魔女になれるのもそう遠くないかもしれないし。それに、人間界にもちょっと興味がある。ここで暮らせるのはなかなか魅力的だ。そう考えると、悪いことばかりではないのかも。
目を開けて、エルヴィンさんを見た。


「…わかりました。私の魔法がどれくらい役に立つかわからないけど」

「…!ありがとう。よろしく頼むよ」

「こちらこそ。これからよろしくお願いします」


ぺこ、と頭を下げる。エルヴィンさんが立ち上がった。


「じゃあ、上に報告書を出しておこう。リヴァイ、空いている部屋があっただろう、そこに案内しなさい。それと」

「それと?」

「敬語に慣れていないならそのしゃべり方でいい。ここでの生活は最初は慣れないだろうけれど、気楽にやりなさい」


言われて気がついた。いつのまにやら普通にしゃべっていたのか。あれ、最初は敬語で話せていた気がしたんだけど…どこから敬語抜けちゃったっけ。敬語慣れてないからなあ…。ごめんなさい、そうするわと言った。

帰り方は本などで調べておく、とエルヴィンさんが言ったが、果たして調べてわかるものなのだろうか。いや、たぶんわからないだろう。
帰りのことを心配するよりも、これからの生活を心配した方がよさそうだ。
杖をぎゅっと握って、案内してくれるリヴァイさんに着いて行くべく立ち上がった。

そういうわけで、この世界での暮らしが始まったのだった。


  




×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -