カタストロフィ

 
壁外へ列が進み出す。これが最後の壁外調査となるのだろう。リヴァイさんの隣、馬に乗って進みながら前を見据え、ごくりとつばを飲み込み、口を開いた。


「リヴァイさん」「セシリア」


なんと声が重なった。驚いてリヴァイさんを見つめると、リヴァイさんも驚いた様子で目を見開いていた。


「…なんだ。セシリアから言え」

「うん。………この壁外調査から帰って来たら、話したいことがあるの」

「奇遇だな、俺も聞きてえことがある」


数秒、じっと見つめ合う。リヴァイさんの聞きたいことはなんとなく分かる。このごろ避けていた理由だろう。壁外調査から帰って来たら全て話す。でも私の気持ちだけは、伝えない。伝えたら、きっと私は帰りたくなくなってしまうだろうから。
リヴァイさんが視線を前に向けた。


「なら尚更気合い入れるぞ。準備はいいな」

「うん!」


にっと笑ってそう答えた。






「長距離索敵陣形!展開!!」


エルヴィンさんの合図に合わせて陣形を作り、馬から離れて立体起動に移る。私は杖にまたがり、リヴァイさんについて行く。最初の頃に比べたら、わりと余裕がでてきたと感じる。一回目の時なんて、ついて行くので精一杯だったからなあ。そう考えているといきなり巨人が現れた。奇行種だ。


「来たぞ!避けられねえ、奇行種だ!!」

「オオッ!」


オルオが叫び、エルドが飛び立つ。私はそれを見て杖を振り上げた。すると、巨人の足を氷が貫き、動けなくなったところをきれいに削いだ。


「サンキュー、セシリア!」

「どういたしましてっ」


こうして多少なりとも対応ができるようになったのも成長の証かな。少しスピードを緩めていたリヴァイさんが行くぞと言ってガスを吹き、加速した。

その後も巨人に遭遇しながらも乗り切り、しばらくのち中継地点に到達した。
兵士らがささやかな休息をとる中、傷を負った兵士を治す。


「よし、終わったよ」

「恩にきる、魔女」


足が折れていたがなんとか元に戻り、汗を拭う。周りを見渡せば、後は軽い負傷者がいるのみだった。これなら私は必要なさそうだ。私も一休み、とそこらへんの岩に腰掛けたとき、何か違和感を感じた。すっくと立ち上がる。この違和感、巨人の気配だ。それも、一体や二体ではない。視線を巡らせる。一見いないように見えるが………。
嫌な予感がする。リヴァイさんは未だエルヴィンさんのところだ。まあ少しくらい単独でも大丈夫かと私は杖にまたがり、上空へ舞い上がった。


「………あれは……?」


あてもなく進んでいると、巨人が五体ほど一箇所に集まっているのを見つけた。何が起きている…?もしかしたら、私一人じゃ手に負えない事態かもしれない。一度戻ってリヴァイさんを…と身を翻した瞬間、私の目が巨人たちに囲まれている兵士を捉えた。


「ッ!!」


ぐるんと方向を変えて急降下する。助けなきゃ…!なんであんな巨人の群れの中に一人でいるの!?猛スピードで近づくにつれ、だんだんとハッキリしてくる。勇敢にも刃を手にガスをふかし、巨人に向かっていく兵士。そこに巨人の手が迫っていく!


「危ない!!!」
「!!?」


ドン、と力任せに兵士に体当たりする。兵士は地面に叩きつけられたが、巨人の手からは逃げられた。ほっと息を吐く。ごめん、と叫ぼうとしたとき、目の前に大きな手のひらが迫った。


「っ、………!?」


しかし私めがけて迫ってきた手のひらは、私に届く寸前に何かに阻まれて私を掴むことはなかった。バリアのような壁のような、ドームのようなものに当たったのだ。そのすきに慌てて離れ、距離をとる。するとその瞬間に、バリンと大きな音を出してそれが砕け散った。ガラスのように砕けたそれの破片が飛び散る。同じように、胸元のペンダントの水晶がパキンと割れ、散った。


「ペンダントが…っ」


リヴァイさんからもらったペンダントが割れてしまって泣きそうになる。しかし、ペンダントが私を守ってくれた。危なかった、あのドームがなければ私はもう捕まって食われていたかもしれない。
そのとき兵士がうめき声をあげた。


「い…いてえ…、!?ま、魔女!!なんでここにッ!?」

答えている暇はない。ここにいる巨人は、小さいの2体とデカいの3体の合計五体。兵士を連れて二人分の重さでうまく飛べるかわからない。その間に捕まえられて食われてしまうかもしれない。ならば、逃げられない。戦うという選択肢しかない。私一人でいけるか…?やらないと私も兵士も食われる。たとえオロバスの言うように魔力が減っていようがいまいが関係ない!
巨人がズシンと歩き出した。気持ち悪い顔でニタニタ笑いながら、私を見ている。覚悟を決めて手を掲げ、口を開きかけて気がついた。でかい巨人らの手に掴まれている四つのそれに。


「ま、待て魔女ォ…っ!何するつもりだ、俺の仲間がいるんだ!!!俺以外全員!まだ助けられる、俺が助ける…!!」


兵士の叫び声が聞こえる。私はからからに渇いた唇をかすかに動かした。


「………無駄だよ」


巨人の手に捕らえられたぐったりした兵士たちは、腰から下が無かった。


「爆ぜろ!!!」


ドゴォオオオン!!

私の周りのみを残し、巨人もろとも____もちろん捕まえられていた兵士たちも、粉々に吹っ飛んだ。


  




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