決意と覚悟を胸に抱いて

 
あれからというもの、なぜかリヴァイさんの顔を見れない。避けてしまっている。
避けてしまうのは二度目だが、この前とは違う。リヴァイさんの顔を見る度、胸がずきんと痛むのだ。もう去らなければならないのだと思うと、一緒にいれないのだと思うと、胸が痛くて。こんなことなら、好きにならなければ良かった、なんて、思ってしまう私が嫌だった。でも想いは膨れるばかり。二人きりになるたびに想いが溢れそうになる。それをなんとかとどめていた。告げたならば、きっともっと別れが辛くなるから。苦しかった。


「やっほーセシリアー!」


夜、私の部屋にハンジさんが入って来た。突然の来訪に戸惑いながらもなんとか笑みを作る。


「ハンジさん。どうしたの?」

「あのさ、セシリア。またなんかあったのかい?リヴァイを避けてるらしいじゃないか」


ハンジさんはソファに座りながら心配そうに聞く。目を逸らして答える。


「あ…えっと………そんなことないよ」

「それにしては元気ないじゃないか。らしくないね。ハンジさんに話してみないかい?」

「…」


話したい、話したらいくらか楽だろうか。だけど、ハンジさんがリヴァイさんに告げてしまうかもしれないと思うと怖くて言えない。まだ心の準備が出来ていないのだ、もし準備が出来たら、自分から言いたい。だから今は、そっとしておいて欲しい。


「いいの、ありがとう」

「………ならいいけどさ。疲れが出て来てるんじゃないかい?無理はしないでよ。壁外調査がもう少ししたらまたあるらしいからね」

「…わかった」

「やっぱセシリアに頼りきりになったらいけないからね、いつも通りの陣形でやるみたいだよ」


前に一度お試しでやった陣形はボツになっていた。やはりエルヴィンさんはすごい、賢明な判断だ。分かった、と頷くと、ハンジさんは立ち上がって窓に近づき、遠くを眺めた。その視線の先には、高くそびえる壁がある。


「また厳しい戦いになるよ。だいぶセセシリアも慣れてきていつも大活躍だけど……ちゃんと調子を整えておいてよね」


視線を私に向けると、にっと笑ってがんばろうねと頭を撫でてくれた。
今度こそ迷惑をかけないように、と思うのと同時に、お墓を目の前にしたリヴァイさんが脳裏をよぎった。私がいなくなっても、リヴァイさんはあの時のように顔を歪めるのだろうか。ずくりと胸が痛む。ハンジさんに悟られないように、ありがとうともう一度言った。
ハンジさんが出て行って、閉まった扉を見つめながらぼそりとつぶやく。


「次の壁外調査から帰って来たら…言う。リヴァイさんに告げて、帰る」


宣言のように呟いてから、ぐ、と下唇を噛む。良いタイミングだと思うけど、たった何回かの壁外で私は何か役にたてたのだろか。それを考えるともうキリがない。もう決めたんだ、帰らなければ。だったら、次こそたくさん活躍出来るようにがんばろう。リヴァイさんとも普通に接して。
小さな決意と覚悟を胸に、夜は更けて行くのだった。





「どうだった」

「どうだったも何もないよ」


俺の執務室に帰って来たハンジ。実は、ハンジにセシリアが近頃俺を避ける理由を聞くように頼んでいた。リヴァイからの頼みごとなんて珍しいね、面白そうだしいいよと軽く了承したハンジをさっさと行って来いと追い出してからそんなに時間は経っていない。
セシリアに避けられるとイライラするのだ。理由を聞こうにもちらりと見えた顔は泣きそうだったからなぜか聞きにくくて引きとめられない。しかし気になる。結局、ハンジに頼むしかなかった。
そのハンジはというと、なんとも言えないような顔をして首を振った。


「だめだったよ、教えてくれない。なんだか思いつめたような感じだったんだけど…」

「ハンジでも駄目か」

「何かしたわけ?リヴァイ」

「何もしてねえよ」

「気づかないうちにセシリアが傷つくことしたんじゃない?」

「……………」


心当たりがない。女の気持ちは俺には分からない。俺が気づいていないだけなのか?まったく頭が痛い。なんで俺がこんなことで悩まなきゃなんねぇんだ。小さく舌打ちをする。
ハンジが聞こえるか聞こえないかくらいの音量でつぶやいた。


「……君たち、本当焦れったいよね……面白いけどさ…こっちの身にもなってくれよ……」

「………あ?何だ?」

「いや…こっちの話」


このままで壁外は大丈夫なのだろうか。大丈夫なわけがない。どうにかするしかないが、とため息をついた。


  




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