二度目の壁外

 
早くも二度目の壁外調査。今度はそんなに長くかけないらしい。理由は、新しい陣形を組んだから。試しに少しやってみよう、というだけで、すぐに引き上げるとエルヴィンさんが言っていた。
その陣形は、主に私とリヴァイさんを中心とするものだった。私達が巨人を引きつけている間に目的を済ませる、そういう作戦らしい。


「セシリア!」

「分かってる!」


巨人が現れたのを合図に、びゅうん、と飛んで木へと降り立つ。急いで魔方陣を書き出した。呼び出すのは先日契約したばかりのあの二人。初仕事、お手並み拝見といこう。
この作戦がどういくかは、私の魔法にかかっている。またリヴァイさんに鬼特訓受けたし、魔法に自信はついた。やってやる!


「シトリー、キマリス!召喚!」


ぶおん、と魔方陣が光出すとともに、二人の姿が現れた。


「呼んだか、セシリアよ。戦闘であるな」

「やーっとお呼びね。腕がなるわぁ!」


馬に跨る威厳あるキマリス、大鎌を手に自信満々に見渡すシトリー。それを見たリヴァイさんが木に降り立った。


「てめえらがセシリアの悪魔どもか?なんでもいいが早くしろ」


リヴァイさんの、上級悪魔に対する態度とは思えない上から目線な物言いにキマリスが顔をしかめる。


「誰だ貴様は、我に指図出来るのはセシリアだけである。頭が高いぞ人間」

「あー、キマリス。オロバスの言ってた"下等種族"よ」

「………ああ、あの"下等種族"か」

「二人とも、殺されたいの!?」


オロバスがどんな話をしていたのかは知らないけれども、リヴァイさんがブレードを握りしめたのでさすがに止めた。"下等種族"連呼はアウトです。


「私、ニンゲンの名前って覚えるの得意じゃないんだけど…リヴァイ、よね?」

「我とて興味のない者の名前など普通は覚えないのだが、覚えてやってもよかろう」

「チッ…どうでもいいから早くやれ。試しとはいえ巨人相手だ、早くしねェと犠牲者が出る」

「そ、そうよ!二人とも、いい?あのでかいやつらが標的!教えたとおりにやって!」

「うなじ縦1メートル横10センチ、でしょ?」

「了解した」


ニヤリと二人が笑って木から飛び立った。軽い身のこなしはさすがというところだ。私も後を追おうと杖に跨ろうとしたが、その前に巨人が倒れた。


「いっちょあがりぃ!」


シトリーが鎌をふるって高らかに宣言する。…はやっ!!
倒れた巨人は蒸発していく。キマリスが先を越されたからか不満そうにする。


「どんどん行くわよ!ほらキマリスも!」

「言われずとも分かっている。シトリー少し黙っていろ」


シトリーが立体起動よりも早く飛んでいく。紫のサイドテールは、なびくというよりも荒ぶっていると表現したほうがあっている。
ザクッ、と音がして、今度はキマリスが斬った。細身ながら力強い剣で、目にも止まらぬ速さで抉る。私がぽかんとしてふわふわと漂っている間に、リヴァイさんも一体削いだので、合計五体の周辺にいた巨人をあっという間に駆逐してしまった。


「なあんだ、結構簡単じゃない。でかいだけね」

「ふむ、しかし無力なニンゲンには恐ろしい生き物であろうよ」


シトリーとキマリスは余裕綽々で微塵も恐れていない。さすがだ。まああちらの世界にはもっとグロテスクで恐ろしい魔物がたくさんいるのでどうともないのだろう。それにしても心強すぎる。こんな奴らと契約したのか私。
引きつった笑顔を浮かべていると、背後に気配を感じて振り向く。巨人の手が私を狙っていた。思わずひっと息を呑む。が、その巨人はすぐに倒れて蒸発し出した。


「怪我ねえか、セシリア」


リヴァイさんが削いだらしい。助けてくれたのだと理解して、慌ててありがとうと言う。リヴァイさんは木に降り立ち、ブレードを替える。


「ボーッとしてるからだ。ったく…てめえらがセシリアを守らねえでどうする」


シトリーとキマリスが顔を見合わせ、シトリーが口を開いた。


「私たちより優れたナイトがいるもの。セシリア専属の」


そんなことをニヤニヤして言う。ナイトって、なんか恥ずかしい。舌打ちだけで、否定しないリヴァイさん。これ絶対呆れてるよ、ばかシトリー。キマリスがごほんと咳を一つして話を変える。


「兎に角…我らは敵の殲滅に努めれば良いのだろう?」

「うん、自分の身くらい自分で守るよ」

「じゃないと困るわ。あ、でかいの発見っ!」


シトリーが楽しそうに飛んで行く。それを見送って、はっとした。シトリーが狙っている巨人は、確かエレンが巨人化したやつじゃないっけ?ハンジさんが鼻息荒く説明してくれたやつじゃないっけ…!?


「ッシトリー!待って…!」


一気にスピードを限界まで上げる。シトリーの速さに追いつけるか分からない。なんとか滑り込んででも、エレンが斬られるのは阻止しなくちゃ…!一撃くらいならなんとか回復出来るはずだからくらっても大丈夫、とにかく止めなきゃ!


「待って!!」


シトリーが鎌を振りかぶる、そのうなじとの間に滑り込んで痛さに備えて目をぎゅっとつぶる。しかし、ガキンッと爆ぜるような金属音が至近距離で聞こえ、体が予想とは違う優しい衝撃に襲われる。何かと思い、目を開ける。


「止まらぬか、シトリー」

「キマリス!?ってかなんでセシリアが飛び込んでくんのよ!危ないじゃない!!」


シトリーの鎌とキマリスの剣が交わった音だったのだ。顔をあげると、キマリスに抱きかかえられていることに気がついた。衝撃は、キマリスがとっさに私を抱きかかえたものだったのだ。私は驚きで声が出ない。


「セシリア、自分の身は自分で守ると言ったのはどの口であったか」


とっさに助けに入ってくれたのだ。ほ、と息を吐き、ありがとうと言いつつ、腕から離れる。
視線を感じて振り向くと、リヴァイさんが巨人を削ぎながら私を見ていた。かつてないほど険悪な顔をしていた。





「ってことがあったの」


一通り話し終わってオロバスが淹れた紅茶をこくりと飲む。なかなか美味しい、さすがオロバス。疲れた体にはやはり美味しい紅茶。オロバスは相変わらずの無表情だが、ハンジさんは耐えられないとばかりに吹き出して、オロバスが作ったお茶菓子のクッキーを食べながらけらけらと笑った。


「私がいないところでそんなことがあったの!?だからリヴァイの機嫌最悪だったんだね!」

「最悪だったの?」

「うん!それだと今頃エレンが八つ当たりされてるんじゃないかな?」


へらへら笑ってそう言うハンジさん。なんでエレンに八つ当たり?
それより、リヴァイさんが怒ってしまった理由がなんでわかったのだろう。それにこの話のどこにそんな笑うツボがあったのか分からない。私の脳内には疑問符が飛び交っている。


「なーんだ、セシリアはリヴァイがなんでご機嫌ナナメになったか分かってないの?こりゃリヴァイ苦労するわー」

「どういうこと?ハンジさんだけいろいろ分かっててずるい。教えてよ」

「うーん…それは本人に聞いた方が良いね!あ、紅茶おかわりー!」

「…かしこまりました」


そう軽く言われても、怒っているようだから聞きにくいのだけれど…じゃあ、後で聞きに行こう。


「ま、何にせよ…お疲れ様、セシリア!大活躍だったね。死者がゼロだって言うじゃないか」

「セシリア嬢にしては良くやったかと」


ハンジさんがぽんぽんと私の背中を叩き、一言多いオロバスが紅茶のおかわりを注いだ。負傷者はいたけれど、私が治したし、死者ゼロというのは喜ばしいことだ。でも。


「ほんの少しで帰って来たからよ。今の私はそれどころじゃないの、リヴァイさんに嫌われたかもしれない。また迷惑かけたし」

「それはないと思うけどー?」

「だって…!」


あれからのリヴァイさんを思い返してみる。
話しかけてもいつもよりそっけなく乱雑な態度、眉間に刻み込まれた深いしわ、エトセトラ。これは私のせいに違いない。なんかしたっけ、と考えて見ても、いつも通り迷惑かけたくらいしか。それか。


「謝って来る…!」


ガタ、と立ち上がる。ハンジさんは笑って、いってらっしゃーいと送り出した。


  




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