輝き出すきもち
杖をシトリーに投げて渡した。こうなれば杖は邪魔なだけだ。杖は魔力増幅の道具で、ないと魔法が使えないわけではない。あった方が断然いいが。相手はブレード、ならば私もブレードでやろうじゃないか。
「風よ!」
両手に荒ぶる風をまとう。私の武器は風だ。リヴァイさんがブレードを抜いた。深呼吸し、覚悟を決めてブンッと手を振り抜く。すると、風がかまいたちとなって飛んで行く。リヴァイさんはきっと避けるはず。そこに突っ込もう!
リヴァイさんは予想通り瞬時に飛び上がった。グオッと勢い良く私めがけて飛んで来る。風をいっそうまとって手を構える。一発勝負…!
しかし。歯を食いしばって振り抜いた手はスカッと空を斬った。目の前にいたはずのリヴァイさんが消えたのだ。どこに…!?
気づいたときには遅かった。足をとられて視界が反転する。
「っ!」
倒れる寸前、手をついて地面を蹴り上げ、宙返りして回避する。目の前をブレードがかすった。ひやりとする。
「穴っ!」
指を鳴らすと、リヴァイさんの足元の地面に大きな穴があいた。落とし穴だが、リヴァイさんは落ちない。動きが速くて捉えられないのだ。ボコボコと穴があくが、空を飛ばれちゃおしまいだ。
そして、ついに。
バキィン!
ペンダントから出た私を覆うガラスのドームのような結界が、リヴァイさんの一撃を喰らって砕けた。同時にペンダントの水晶が砕け散る。
「け…決着!」
シトリーが手を上げ、戦いの終わりを告げる。ギャラリーがざわめく。歓声やら感嘆の声やらが響く中、私はぺたんと地面に座り込んだ。リヴァイさんはブレードをしまった。
負けた。仮にも魔女が、ニンゲンに。でも、不思議と悲しくなかった。どころか、なんだか嬉しい。
「やっぱり…リヴァイさん、強いね!」
笑いながら、リヴァイさんに言う。フンと笑ったリヴァイさんは満足そうだ。シトリーが近づいて杖を渡した。
「お疲れ様、負けちゃったわねセシリア。ま、見習いにしては良くやったんじゃない?」
「ありがとシトリー」
「良いもの見させてもらったわ。たっかいペンダント買ったかいがあったもんだわ。じゃあねセシリア、"リヴァイ"さん」
シトリーはウインクしてしゅるんと消えた。てかやっぱ高かったのかアレ。
杖を振って穴を全て元に戻す。さすがに穴だらけじゃ怒られてしまう。
「セシリアさん!!兵長!」
ギャラリーが散って行く中で、エレンが走って来る。その後ろには当然のようにミカサもいる。立ち止まるなり私の手をがしっと握り、きらきらした瞳で私を見つめる。
「すごかったです!あの兵長にあそこまで食らいつくなんてっ、それに魔法かっこよかったし、なんか女まで召喚したし!尊敬します!」
テンションの高さについていけず、若干引き気味にありがとうと返す。後ろでミカサが睨んでるんだけど。エレンはミカサが私にガン飛ばしていることなど露知らず、ずいっと身を乗り出した。
「ほんっとすげえ…!セシリアさん!」
心なしか頬を赤く染めている。…何この展開。とりあえず離れようかエレン、ミカサに殺されそうだから。するとリヴァイさんがエレンをばりっと引き剥がした。助かった、と思ってリヴァイさんを見ると無表情だった。怖いんですけど。
「アッカーマン、エレンを連れて行け」
「ハッ。行くよエレン、ここにいては駄目」
「ちょ、なにすんだよミカサ!やめろって!兵長ー!?」
叫びも虚しくずるずると引きずられて行き、途中で抱えられて行った。 リヴァイさんはなにもなかったかのように平然としている。そしてペンダントを外した。そういえばリヴァイさんのペンダントは健在なのだった。
それを私に差し出した。
「やる」
「え」
透き通るその水晶は光を反射して七色に輝く。リヴァイさんを見ると、持っとけ、と押し付けられた。
「いいの?これすっごいペンダントなんだよ?」
「ああ。俺には必要ねェ。それに…」
持ったままの私の手からペンダントを取り、私の首にかける。
「セシリアに似合う」
かあ、と頬が熱くなる。なぜか急に恥ずかしくなって、早口でありがとうと言う。割らないように大切にしなきゃ、と思ったが、割らないためには自分を危険に晒さないようにすることが一番だという事に気がついた。
「お前は言う事聞かねえで無茶ばっかりするから丁度いい。割るなよ、それ」
リヴァイさんはそれを狙っていたようだった。これで下手な無茶は出来ない、ということだ。リヴァイさん、壁外調査の一件から私に過保護になって来たのではないだろうか、なんて思いながら、輝くペンダントを太陽に透かして見つめ、動悸が収まらない心臓を落ち着かせることに集中した。
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