まさかの対戦

 
訓練場で対峙するのは私とリヴァイさん。ギャラリーがざわめきながら見守る中、ミカサの隣のエレンが一番前で手を振った。


「セシリアさん、兵長!頑張ってください!!」

「チビは報いを受けるべき。魔女、応援してる」


それらを聞いたリヴァイさんが眉間にしわを寄せる。チビって…勇気あるなあミカサ。
というか、


「どうしてこうなった!!」




時は遡り、ほんのさっきのことだ。
会議だとかでリヴァイさんがおらず、監視がない状態だった私。無闇に動くなと言われていたが、久しぶりにフリーになったので言いつけを無視してここぞとばかりに空の散歩を楽しんでいた。
すると、訓練場でエレンが見えた。その近くにはエレンの友達の、ミカサ、だったっけ。その女もいた。


「おーい、エレン!と、ミカサ!」

「セシリアさん!」

「…魔女…」


地面に降り立つと、エレンが笑顔で駆け寄って来る。それにミカサもついて来た。二人は訓練中だったらしく、手にはブレード、装置を腰につけ、戦闘体制だった。


「ごめん、邪魔した?」

「いえ!それよりセシリアさんはこんなところに来ていいんですか?リヴァイさんは…」

「今会議中なんだって」

「単独行動は…」

「いいのいいの!」


すっかりリヴァイさんとセットで考えられている。リヴァイさんがいるところに私もいるのだから、そりゃそうなのだが。
ふと、エレンはハッと何かを思いついた。


「そうだ!セシリアさん、俺の訓練に付き合ってください!」

「訓練?いいけど、何をしたらいいの?」

「俺と戦うんです!実戦!」


じ、実戦!?そのブレードと!?するとミカサがエレンを止めに入る。


「駄目、エレン。相手は魔女。何かされたらどうするの、危険」

「大丈夫だ!」


いやいやエレン、何を根拠に大丈夫なの。危ないよ、主に私が。ミカサの言うことにうんうんと頷く。


「エレンは私と実戦すればいい」

「俺はセシリアさんとしたいんだ!セシリアさんは強いんだぞ。一度やってみたかったんだ」

「…エレン…そんなに、この魔女がいいの」

「ああ!セシリアさんがいい!ミカサとはいつもやってるし、手加減するから嫌だ」


なんでそんなに頑ななんだエレンよ。言い切ったエレンにミカサはショックを受けている。そこそんなに衝撃受けるところじゃないよミカサ。固まったミカサを放って、エレンは私の肩を掴む。


「セシリアさん、よろしくお願いします!」

「え…えええ」


どうしよう。やってもいいけど、ブレード怖いし、魔法がもし暴走したり変に失敗してしまったらエレンに被害が及んでしまう。かといって魔法を使わないと私戦えないし。助けを求めるようにミカサを見るが、まだ固まって空を見つめている。いい加減立ち直れよ!
エレンにずいっと迫られ、たらりと汗を垂らしたそのとき、エレンの肩を誰かが掴んだ。


「面白そうなことやってんじゃねェか。詳しく聞かせろ」


少し不機嫌そうなその声は、只今絶賛会議中であるはずのリヴァイさんの声。エレンが私の肩から手を外し、おそるおそる振り向くと、そこにはやはりリヴァイさんがいた。


「リヴァイさんは会議のはずじゃ…」

「ちょうど今終わった」

「そ、そう…」

「で、エレンよ。お前、セシリアと実戦したいだと?」

「はっ、はい!セシリアさんと訓練してみたいです!」


びくつきながらもハッキリ言ったエレン。リヴァイさんの眉間のしわが深くなったのは気のせいじゃないはず。怒っているのかな。私の問題なのになんでリヴァイさんが怒るのかはわからないが。


「俺がやる」

「は?」

「俺がやるっつってんだよ」


まさかの発言にきょとんとするエレン。私とミカサも目をぱちくりさせる。どういう風の吹きまわしだ。エレンが慌てて首をぶんぶん振る。


「いっ、いやいや、俺なんかが兵長となんて」

「あ?いつエレンの相手になると言った」

「え?違うんですか?」

「セシリアと、俺が戦うと言ったんだ」


堂々と言い切ったリヴァイさん。いやいやちょっと待て。なんでエレンの訓練なのに私がリヴァイさんと戦うの!?目的見失ってるよね!?しかしエレンは瞳を輝かせて頑張ってください、と私に言った。
…マジですか!?




そして現在の状況に至る。


「あの、リヴァイさん…本当にやるの?」

「やるに決まってんだろうが。本気でやれよ、殺す気で来い」

「なんで!?」

「じゃねェとおもしろくねえだろ」


おもしろさを求めないで!私は全く乗り気じゃないんですが。やりたくない。
なぜか知らない奴が審判になっており、開始の合図を出した。仕方なく、杖を握る。いくら人類最強と言っても、こっちは魔法が使える。炎やら水やら風やら、ニンゲンには絶対防ぎ様のないものなのだ。手加減しないと、リヴァイさんが大変なことになってしまう。


「火の粉」


ポッ、と火の粉が飛び散り、リヴァイさんを狙う。しかしリヴァイさんは狙ったはずの場所にはいなかった。どこに行った、いつのまに___するとリヴァイさんは上にいた。


「う、わっ」

「ふざけてんのかセシリア。殺す気で来いと言ったはずだ」


ガスを吹かせて私めがけて落ちて来て、倒れた私にまたがり、顔の横にブレードを突き立てる。ギャラリーがどよめく。叫ぶように言った。


「だ、だって…!私が本気で魔法使ったらリヴァイさん死んじゃうから!」


言って、リヴァイさんの表情を見てハッとし、言わなきゃよかったと後悔した。ぴきりと青筋をたてていたから。睨まないで!怖い!


「…ほう」

「あ、えっと…今のナシ」

「舐めてんのか、お前如きの魔法で俺が死ぬか。不安なら審判でもなんでもつけりゃいいだろうが」

「それ、私が引き受けるわ」


突然地面に魔方陣が浮かび上がり、頭からしゅるしゅるととシトリーが現れた。つま先まで魔方陣から出てしまうと魔方陣は消えて、サイドテールを揺らしてスタンとその場に降り立った。


「おもしろいことやってんのね、セシリア。私が審判しようか」

「シトリー!どうやって来たの、私呼んでないのに」


リヴァイさんの手をどかし、立ち上がりながら聞く。普通、悪魔を召喚するときは、主である私が魔方陣を描かないと出現できないはずなのだ。なのにシトリーは自分から出て来た。


「たまーに出来るのよねー。ごく稀にだけど。ま、そんなことより!このニンゲンがオロバスの言ってた"下等種族"か、なかなかイケメンじゃない」


シトリーはリヴァイさんの顔を覗き込む。リヴァイさんは警戒しながら嫌そうに追い払う仕草をした。


「セシリア、誰だこいつは」

「シトリーっていう、私の仲間」

「よろしく。私が審判するわ。これを身につけて」


そう言ってリヴァイさんと私が手渡されたのは、水晶のペンダント。ま、まさかこれは、あっちの世界で有名な、身につけていると一度だけ身を守ってくれる超強力なお守り…!これ高くてレアなのに!ばっとシトリーを見ると、良い笑顔でガッツポーズをとった。いやどんだけこの戦い見たいの!?そこまでしなくても!


「じゃあ始めるわよ、ギャラリーがお待ちかねよ。勝負は一度きり、一発勝負。ペンダントが割れた方の負け、オーケー?」

「ああ」


やるしかないのか。シトリーが私に返事を求める。仕方ないな。ペンダントあるし、と決断して頷いた。


「…それじゃ、始め!」


  




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