優しい甘さ
一晩ぐっすり眠ったら、体のダルさや熱もすっかり良くなって、セシリア復活!ということで、看病してくれていたリヴァイさんにお礼を言う。
「ありがとうリヴァイさん!おかげさまでもうこのとーりっ」
「またうるさくなる…もう少し寝込んでおいても良かったんだがな」
「そんなこと言って、心配してくれてたの知ってるんだからね!」
茶化すように言うと、ぎろりと睨まれた。しかしあんまり怖くない。
執務室のソファにダイビングする。動けなかった分、元気が有り余って仕方ない。早く修行して、魔法を使いたい。反省点がいくつもあるし、強化したいところがたくさんだ。うずうずしてくる。足をバタバタさせていると、リヴァイさんが私を呼んだ。
「セシリアよ」
「なにー?…って…」
美味しそうなワッフルの乗ったお皿をずい、と差し出される。リヴァイさんとワッフルを交互に見て、首を傾げる。
「…食べろって?」
「他に何がある」
「いいの?」
「食わねえなら俺が食う」
「食べますぜひ喜んで!」
ばっとお皿を受け取り、ワッフルを手に取る。美味しそうな匂いだ。復活祝い、ということだろうか。リヴァイさんからのプレゼントなんて、貴重だ。味わって食べよう。見た目と匂いを十分に楽しんでから一口食べ、ぱあっと顔を輝かせる。
「おいしー!」
甘すぎない甘みが口の中いっぱいに広がる。病み上がりには嬉しい糖分だ。味わいながらゆっくりと食べ切り、ごちそうさまでした、と手を合わせた。
「お前は期待通り本当にうまそうに食うな」
リヴァイさんがふっと笑う。それを見て思う。やっぱりリヴァイさんの笑顔好きだ。なかなか見せないけれど、いつもの眉間にしわよりずっといい。なんだか嬉しくて、へにゃりと笑う。
「だって美味しいもの!ありがとうリヴァイさん」
「ん」
お皿をテーブルに置き、水を一口。美味しかったなあ。また食べたい。ワッフルのおいしさに浸っていると、ガチャリと扉が開いた。
「やあ、セシリア。気分はどうだい、もう熱はないのかな?」
入って来たのはエルヴィンさんだった。もう大丈夫、ありがとうと答えながら立ち上がる。そうかと安心したような笑顔を浮かべていたから、エルヴィンさんも心配してくれていたのだなと少し嬉しかった。
リヴァイさんが椅子をくるりと回してエルヴィンさんを見る。
「何か用か?」
「ああ、セシリアにね」
「私?」
「そうだ。…前に、帰る方法を探しておくと言っていただろう」
ああ、はじめてここに来て事情聴取したときか。そういえばそうだった、重要なことを忘れてた。エルヴィンさんは浮かない顔をして私に言う。
「すまないが、何も手がかりが掴めていない。あらゆる文献を探してはいるんだが、何しろ、魔女についての表記さえ少ないからな」
だいたい想像通りの答えに私は苦笑する。想定の範囲内だ。もともとあまりアテにしていなかった。
「そっか、わざわざありがとうエルヴィンさん。魔法のことはやっぱりこっちで調べるべきだったね」
「…何かアテでもあるのかね」
「…まあ、そう言われるとないんだけど。オロバスにでも頼んでおく」
「あの執事か」
リヴァイさんが舌打ちする。どんだけ嫌ってるんだ。エルヴィンさんはオロバスを知らないので首を傾げる。私の執事がいるの、と説明しておいた。
オロバスならすぐに何らかの情報を掴んで来るだろう。たとえそれが、今回みたいな魔法の失敗についてのことでも。
「じゃあ、その帰る方法が分かればセシリアは帰るのか」
ふとリヴァイさんが聞く。そこまでは考えていなかったけれど…。最終的には、もちろん帰ることになるが、まだ今は。
「まだ心残りがありすぎるからね、そんな急には帰らないよ。まだまだこれからでしょ?」
「…そうだな」
頷いたリヴァイさん。なんだかホッとしているようにも見える。ちょっとだけからかってみようかな。
「もしかして、リヴァイさんってば私がいなくなるのがさみしいの?」
「んなわけねェだろクソ魔女が」
椅子をくるりと回して器用に私を蹴る。超絶痛かったけど、照れ隠しと受け取っておこう。…違うか。エルヴィンさんはその様子を見て顎を撫でて、何かに納得している。
「ハンジから聞いていたが…なるほど、そうらしいな」
「何がだ」
「何が?」
「…ハモるな、蹴るぞ」
「理不尽!」
結局もう一発蹴られて、エルヴィンさんを盾にして隠れるとやっと攻撃が止んだ。エルヴィンさんはにこにこ笑っていて、頭を撫でてくれた。
「たいしたものだよ、我らが魔女様は」
「何のこと?」
なんのことだかさっぱりだけど、褒められて悪い気はしない。子どもに対するような撫で方をされて、そんな年じゃないと思いながらもしばらく撫でられておいた。
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