ハイリスクハイリターン

 
翌朝、体が動かなかった。


「完っ全な熱、ですね」


ベッドに横たわる私の額に手を当てて、エレンが言った。
体が怠い。動かないというより、動けないのだ。これは前に経験したことがある。あれだ、副作用みたいなもの。まだ見習いなのに魔法を使いすぎて、疲労がたまって体が耐えきれずダウンしてしまったのだ。こうなればもう今日は一日動けない。でもずっと寝ていれば明日には良くなるはずだ。


「大丈夫ですか?かなり高熱ですよ、セシリアさんキツそうです」


心配そうに言うエレンにひらひらと手を振る。


「だいじょーぶ、寝てればすぐ良くなるから」

「今日はおとなしく寝ててくださいね!俺、氷持って来ますから。食欲あるならお粥も用意しますけど」

「あー、やめとく、食欲、ない」

「だめです、なんか食べないと!とにかく持って来ますからね!」


びしっと指を差して、部屋から出て行った。エレンは私の母親か。

しんと静まった部屋で一人、ふう、と息を吐く。
そういや昨日はぶっ倒れるまで魔法使いっぱなしだったし、こうなることは予想できたか。
前にこうなった時は、確か、魔法の特訓のしすぎで倒れたのだった。オロバスに面倒を見てもらったのだが、あの時の罵倒はひどかった。特訓していて倒れるなら元も子もないだとか、自分の体調管理くらいしろだとか、それでも魔女かだとか。阿呆だの馬鹿だの吐き捨てながら甲斐甲斐しく世話をしてくれた。今回も頼みたいところだが、生憎今の私には呼び出す力もない。
そう思っていると、ガチャリと扉が開き、深皿と氷袋を持ったリヴァイさんが入って来た。


「…リヴァイさんだ。おはよう」

「…エレンから聞いた。熱か」

「うん、昨日の反動かなー」

「ったく…おら、粥と氷」

「あんまり食欲ないんだけど」

「食え」


命令ですかそうですか。なんとか起き上がり、ひとくちふたくち食べたところでギブアップ。リヴァイさんは不満そうだが、もう無理ですとベッドにまた倒れこんだ。
額にタオルを乗せ、その上に氷がたくさん入った袋を置かれる。冷たくて気持ち良い。リヴァイさんがどっかりとベッドの脇に座った。


「昨日あんなに無理するからだ」

「だって…」

「だってもクソもねえ」


言い返せずに黙り込むと、はあ、と短くため息をついたリヴァイさんはぽんぽんと毛布の上から私のお腹を優しく叩いた。


「他にして欲しいことは」

「…ない、けど」

「なら寝ろ。はやく治せ」

「リヴァイさんはそこにいるの?」

「じゃねえと汗拭く奴とか氷変える奴いねえだろうが」

「…看病してくれるの?」

「……ごちゃごちゃ言わねえで早く寝ろ」


それは肯定ととって良いんだよね?エレンとかペトラとかいただろうに、なんでリヴァイさんが私の看病を。暇人か、そうなのか。リヴァイさんの珍しい優しさがなんだかこそばゆい。


「リヴァイさんが優しすぎて気持ち悪い」

「ああ?」

「だってこんな、看病なんて」

「………俺がお前に無理させたからな、看病くらいやってやる」


そう言ってリヴァイさんは氷袋を乗せ直した。
リヴァイさんはそう言うけれど、全くリヴァイさんのせいじゃない。昨日自分で無茶して自分で勝手に倒れただけなのだから。気にすることないのに、と思っていると、目が合った。


「これでも感謝してる」


リヴァイさんのその言葉が心にすとんと落ち着いた。体は相変わらず怠いままだったが、心は少し浮上して。なんだかぽかぽかした気持ちで、うん、と言葉を返し、目を閉じた。


  




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