希望を捧ぐ

 
「おいてめェ」


突然呼び止められ、振り向くと、男が二人、私を睨んでいた。腕を強く引かれてひと気のない場所へ連れていかれる。


「…ったいなあ、何か私に用?」

「お前、魔女って本当か?」


いきなりなんなのだ。さっきリヴァイさんが紹介したのに、それでも信じていないのか。私は強く掴まれていたのでちりりと痛む腕を抑えながらなんとか笑む。


「本当。何か不満?」

「ああ不満だな。いるわけねえだろ魔女なんてよ。得体のしれねえ女がいきなり現れて、魔女ですーなんて信じるわけねえだろ」

「リヴァイ兵長に面倒見てもらってるだと?何をするかわからねェ女に兵長の隣にいる資格はねェ。兵長に近づくな」


じりじりと近づかれて、後ずさる。
信じてもらってないどころか威嚇されてる。そりゃそうか、正論でもある。そりゃ、得体の知れない魔女と自称する女がいきなり人類最強のリヴァイさんに面倒見てもらうだなんて、理解に苦しむ。気に食わないだろうし、警戒するだろう。


「なにをすれば信じてくれる?」

「そうだな、」


後ずさると足が壁に当たった、行き止まりか。逃げ場なし。右にも左にもいる。男は私の顔の横を殴るように手をついた。


「今すぐ、出ていけ」


肩がほんの少し震えた。男の剣幕に恐怖心が生まれる。
杖に手を伸ばす。こいつらを早くどうにかしないと。でも、ここで私が攻撃したらもっと大変なことになる。協力するどころか、敵と認識されてしまう。
出て行く、なんて選択肢はない。ここにいると決めた。リヴァイさんたちに協力すると決めたのだから。第一、帰り方が分からないのだし。
どうしよう。


「おい、なんとか言え…っ!!」


ぶん、と拳が近づく。殴られる!
その瞬間、目の前の男が吹っ飛んだ。


「おい…なにやってやがる」

「リヴァイさん!」


そしてもう一人もリヴァイさんの蹴りをくらって吹っ飛ぶ。不愉快を露わにしているリヴァイさんの眼光が鋭い。助けに来てくれた、リヴァイさんが来てくれたらもう大丈夫だ。ホッとして、いつのまにか恐怖心は消えていた。リヴァイさんはふと私を見た。


「ケガねえか、セシリア」


こくりと頷く。ならいい、と視線を床に転がった二人に移した。二人はふらりとよろめきながら立ち上がった。


「り、リヴァイ兵長…っ」

「セシリアの面倒は俺が見てる。何か文句があるなら俺が受け付けるが?」

「…っ」


悔しそうに歯ぎしりする二人。待って、違うのリヴァイさん。二人が言うことは間違ってない。私は慌てて杖を掴み、すばやく振った。


「あ、の…これ」


手のひらにポンと現れたガーベラを、二人に差し出した。


「これは…」

「ごめんね、私、出ていけない。いつか認めてくれるように頑張るから」


二人がおずおずと受け取る。
ガーベラには希望、という花言葉がある。伝わるだろうか、この花に託した私の思いが。
リヴァイさんが言った。


「今回は見逃してやる、次やったら…分かってんだろうな」


二人は頷き、そそくさと去って行った。残された私とリヴァイさん。圧迫感というか、緊張感から開放されてホッと息を吐き出す。するとリヴァイさんに思い切りデコピンされた。


「いったあ!」

「このクソ魔女が、なんであんなことになってたんだ。なんのための魔法だ、反撃でもなんでもすれば良かっただろうが」


リヴァイさんのデコピン威力ハンパない。額を抑えてうずくまりながらリヴァイさんに言い返す。


「それはかえって逆効果だと思って…!」

「叫ぶとか逃げるとかあるだろうが」

「だって…あの二人は悪くない。私が悪いから」


こんな私のことなんて、いくらリヴァイさんが紹介しても、信じる人は少ないだろう。へたりと座り込んで俯くと、リヴァイさんは舌打ちをして、私の頭をぐしゃぐしゃと混ぜた。


「セシリアよ、信頼はすぐには得られねえ。それも、どこから来たのかさえわからねェような得体のしれないやつならなおさらだ」


そんなの、痛感した。分かったよ、痛いほど。リヴァイさんは何が言いたいの。顔をあげてじっと見上げると、リヴァイさんは私の頭を触るのをやめた。


「信頼は得る物じゃねえ、勝ち取るモンだ」

「!」


心のもやが晴れたような、そんな気持ちになった。
そうだ、勝ち取ればいいんだ。私が味方だと、みんなの力になれるのだと分からせればいい。私の魔法で、巨人を倒せば、認めてもらえる。
俄然やる気が出て闘志が湧いて来た。大きく頷いてみせると、リヴァイさんは腕を掴んでぐいっと引っ張り、私を立ち上がらせる。よろけながら立ち上がった。


「今後は単独行動は許さねえ、俺がお前の監視だから今後俺から離れるな。分かったな」


むう、と唸る。あーあ、単独行動ダメになっちゃった。ま、仕方ないか。しぶしぶ頷く。すると、行くぞと歩き出したリヴァイさん。置いて行かれないよう、慌てて追いかける。
あ、そうだ。言うことがあった。少し早歩きして追いついて、服の端を控えめに掴み、引っ張った。リヴァイさんが振り向く。


「…なんだ」

「助けてくれて、ありがとう」


はにかんで言うと、リヴァイさんは面食らったようになんどか瞬きして、ふいと他所を向いた。


「ああ」


  




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