穢れなき者

 
意識が浮上する。体に違和感を感じて目が覚めた。身をよじるが、固定されているのか動かない。あまり働かない頭で考えていると、すぐ近くから声が聞こえた。


「動くな、じっとしてろ」


ばちっと覚醒する。私、リヴァイさんにおぶられてる。


「ご、ごめんなさい。重いでしょ、降りる」

「動くなと言った」


有無を言わさぬ声で、黙るしかない。怒っているようだ。ふと顔をあげると、兵士達が並んでいて、エルヴィンさんが前で話をしていた。


「____それで、今回の壁外調査でも多くの死者が出てしまったが、前回とは死者数も負傷者数も大幅に少なくて済んだ。それは、今回参加してもらった魔女セシリアのおかげだ」


視線が集まる。いきなりのことで戸惑ってエルヴィンさんを見ると、一瞬だけ表情を和らげ、すぐに真剣な顔に戻った。


「彼女は初陣にも関わらず、魔法で多くの負傷者の怪我の治療、そして戦闘においても活躍してくれた。我々という人間のために努めてくれた偉大なる魔女に敬意を」


バッ、と皆が私に向かって一斉に胸に手を当てて敬礼する。
そんな、敬意なんて。たくさん救えなかった兵士がいる。戦闘だって、上手くできたか分からない。リヴァイさんにたくさん迷惑をかけたし。
それでも、エルヴィンさんの言葉はありがたく受け取ろうと思い、リヴァイさんにおぶられながらも右手を左胸に当てた。

解散した後、リヴァイさんは私を降ろさず、そのままどこかへ連れて行く。このまま行くと、執務室か私の部屋か。なんだかきまずくて、しばらく無言だったが、リヴァイさんが口を開いた。


「無茶ばっかりしやがって」

「きゅ、急に何__」

「ちったあ頭冷やせ。今日は戻ったらすぐクソして寝ろ」


心配、してくれてるのだろうか。
ごめん、とつぶやいて、大人しく運ばれていた。リヴァイさんはそれから何も言わなかった。

自室のベッドに降ろされる。雑ではあったが布団までかけてくれた。その脇にどっかりと腰を下ろしたリヴァイさん。いつのまにか杖が壁に立てかけてあり、少し驚いた。誰かが持って来てくれたのだろう。
疲労感はまだ取れておらず、眠気がすぐ来そうだ。


「…セシリアよ」

「なに?」

「お前…」


リヴァイさんにしては歯切れが悪い。じっと次の言葉を待っていると、リヴァイさんは目を逸らして言った。


「死んだ人間を生き返らせることは出来ねえのか」


リヴァイさんの質問は、重く心にのしかかった。
負傷した人間を治せるなら、死んだ人間を生き返らせることは出来ないのか。もっともな考えだ。
生き返らせる。蘇らせる。蘇生。人類のため、と勇敢に戦い、食われていった兵士達の命を。
私は少しの後、ゆっくりと答えた。


「たくさん、死者がでたけど…みんな、戦って死んだんだ。最後の最後まで屈せずに、抗って、精一杯生きて、死んだ。死んだことは悲しいことだけど、それは、美しいことだと思う」


人間の最期は。特に、この世界の人間の散り際は。魔女や悪魔のそれより、とても美しくて、高潔なものに思えるのだ。
身も心も存在ごと、真っ黒で穢れ切った悪魔達の、___私達のそれとは全く違うのだ。


「そうして死んでいったのに、無理矢理引き戻すのは、気高く死んでいった人間に失礼だと思う。だから、たとえ蘇生が魔法で可能でも、私はやりたくない」


静かに、でも強く言う。これは私の揺るがない意思だから。
どちらにしろ、私には蘇生なんて高度な魔法が使えるとは思えない。そもそも魔女にはそんなこと出来ないのかもしれない。もしいずれ使えるようになったとしても、絶対に使わないだろう。
死の高潔さを、魔女として分かっているから。


「………変な質問だった。今のは忘れろ」


リヴァイさんはさっさと寝ろよと言い残して、部屋から出て行った。
脱力して、ベッドに体を沈ませる。頭の中が余計な思考でぐるぐる回っているが、今は寝よう。すぐ襲って来た睡魔に従った。


  




×
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -