掌から零れ落ちてゆく

 
暖かい光が兵士を覆う。千切れかけて血が溢れる腕に、光を当てる。
完全に腕が千切れて失っていたならば、見習いでしかない私にはもう修復は無理だった。でも、なんとか繋がっている。ならば治してみせる。
繋がった腕をイメージするのを絶やさない。意識は全て治療に注いだ。
あの墓に名前を刻ませない。悲しむ人がいるのだから。


「あと少し…」


小さい傷は塞がった。腕も繋がりかけている。いっそう力を杖に込めた。
ドシンと足音が聞こえてハッとして振り向くと、大きな手が私に近づいて来ていた。


「っ!!」


巨人だ。気づかなかった。ぐっと下唇を噛む。来るなと願っても、巨人の手はすぐそばまで来ている。魔法を使うには治療をいったん止めなければならない。
あと少しなのに!ここで治療をやめるわけには…!!くそ…!

ザシュッ!!

そのとき、目の前まで迫っていた手が、巨人が崩れ落ちた。


「セシリア!」


リヴァイさんが着地して私の元まで走って来る。間一髪、削いでくれたのだ。ホッとして、また兵士の方を向き、杖に力を込める。


「何やってやがる!なんで逃げなかった、死にてえのか!」

「待って、あと少しなの!」

「何が___」

「っ終わった…!」


やっと兵士の腕が繋がった。兵士の意識はまだ戻っていないけど、他の傷も癒したし、心臓も正常に動いている。これでもう大丈夫だ。はあ、とため息をついてへたり込む。疲れた、すごく。


「治した…のか?」

「うん。もう大丈夫」


にこ、と笑うと、リヴァイさんはチッと舌打ちをして、私の頭をべしっと叩いた。それのせいで舌を噛んだ。容赦ないな!


「治すなとは言わねえが、もっと周りを見ろ!」


集中してたんだからしょうがないでしょと言い返そうとして言葉をのみこむ。助けられたのだから、言う言葉が違う。


「ありがとうリヴァイさん」

「…ったく」


ぐいっと私を立ち上がらせる。すると兵士達が降りて来て、治した兵士に驚いた。


「瀕死だったから、治したけど意識は戻ってないよ」

「…魔女が…?」

「うん」


にこりと言うと、ありがとうございますと深くお辞儀をされた。


「…だいぶ遅れてる。急ぐぞ、動けるな」

「「はっ!!」」


兵士は、治した兵士を担ぎながら、涙を見せた。





これから、壁内へ帰る。エルヴィンさんからそう聞いた。
横たわるたくさんの負傷した兵士達。うめき声が聞こえ、血の匂いが鼻をつく。兵士達が応急処置を施している。


「………そこにいる人達は」

「死んでる」


冷ややかな声でリヴァイさんが答えた。視線の先には、布をかぶったもう動かない兵士達が並べられている。目を背けて、杖を握りしめた。応急処置を手伝っているエルドの方へ駆け寄る。


「代わって」

「セシリア…!お前、」

「治せるから」

「で…出来るのか?それもこんなにたくさんいるんだぞ」

「出来るかどうかじゃない。やるの」


死なせない。あんなにたくさん死んでるのに、これ以上増えたらだめだ。
深く抉れた足を治してやると、兵士は立ち上がって敬礼し、走って行った。一人一人必死で治療しながら、滲む汗を拭った。


「無理するなよ、すごい汗だぞ」

「大丈夫、…終わった!次っ」

「…少し休んだらどうだ、セシリア」

「ううん、休んでる暇ない。まだまだたくさんいるから!」


エルドが心配してくれるけど、構ってられない。その後もどんどん治療して行く。20人ほども治したかと思ったとき、突然肩を掴まれた。


「セシリア!いったん休め、これは命令だ。従え」


振り向くと、リヴァイさんが私の顔を覗き込んでいた。すごく怒っている。エルドが報告したんだろう。その後ろで心配そうに見ている。余計なお世話なのに。大丈夫だから、と言おうとして口が上手く動かず、視界が霞んだ。そのまま体を支えきれず、リヴァイさんの方へ倒れこむ。


「おい…!しっかりしろ!」


意識を保てず、目を閉じた。
ああ、まだ、たくさん負傷者がいたのに。助けられなければ、死んで行く。私には、ニンゲンの命さえも救えないのか。
また、リヴァイさんは悲しむのか。
悔しくて、涙が一粒溢れた。


  




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