壁の外へ

 
どんよりとした雲が空を覆っている。
私はリヴァイ班として壁外調査に来た。
壁外調査とは、とにかく巨人を倒せばいいのだとばかり思っていたが、そうではなくて。目的は他にあるので、出来るだけ接触はしないよう避けて行き、戦闘が必要になったときのみ戦う。奇行種は避けられないので戦う。そんな感じらしい。目的が何なのかとか、難しいことはあまり詳しく聞いていない。別に私は知らなくていいことだ。私は、みんなの役にたてればそれでいいのだから。
とにかくリヴァイさんから離れないことと、無茶はしないこと、そして出来る限り力を発揮することを約束としてエルヴィンさんに言われた。

馬での移動中、杖だけは落とさないようにしっかりと握る。


「緊張してるの?セシリア。あんまり固くならないでね。魔法が失敗したらどうするの」


ペトラが声をかけてくれる。それに次いでオルオも言った。


「魔女だからって調子に乗ってるとすぐ食われるぞ。死なねえ工夫をしろよ」

「こんなときまで兵長のまねしないで、オルオ」

「なんだペトラ、やきもちぶばっ」


ペトラの冷ややかな視線を受けて言い返している途中、盛大に噛んだ。馬の上でぺらぺらとしゃべるからだ。それを見ながらくすりと笑う。緊張していた体から少し力が抜けた。


「ありがとう、頑張るね!」


気合を入れると、エルドが手を伸ばして頭を撫でてくれた。


「オイ、早速お出ましだぞ」


リヴァイさんの声で前を見ると、遠くに木の間からこの前見た巨人より一回り小さい巨人がいるのが見えた。私達の方へ走って来ている。こうなれば避けられない。戦う、のか。
行くぞ、というリヴァイさんの掛け声に、威勢良く返事をして、みんな馬から離れた。みんながガスを吹かしてワイヤーを使って飛んで行く後ろから、杖にまたがって飛ぶ。みんな速い。頑張って追いつきながら、修行してて良かったと思った。
先についたグンタがあっという間に削ぐのを見ていた。びっくり、というか、ぽかん、だった。すごい。私の必要性を感じないんだけど。
すぐに前進するみんなに後ろからついて行くので精一杯な私。不甲斐ない、としゅんとしていると、ふと前方右から近づく気配を感じる。


「…っ!」


巨人だ…!みんなは気づいていない。魔女の視力でなんとか捉えられるほどの距離にいるからだ。でも、速い。すぐに近づくだろう。普通の巨人と動きが違う。これがキコウシュってやつ…!?私が止めないと!!
ぎゅん、と速度を上げて、リヴァイさんの前まで一気に来る。


「セシリア?___!」

「氷欠泉!!」


迫って来ていた巨人の足を氷が貫く。巨人は叫びを上げながら、動けなくなった。それを見たリヴァイさんが飛んで行き、うなじを削いだ。
一旦、木に降り立つ。ふうと大きく深呼吸する。


「セシリアさん、今の…!!」


エレンが驚愕に満ちた顔で、でも瞳を輝かせて私を見る。通用する。少し自信を取り戻して、力強く頷いた。リヴァイさんがブレードを替えながら言う。


「てめえらは先に行け。ここからは別れて行く」

「え…兵長とセシリアは」


グンタが戸惑ってそう言うと、リヴァイさんはブレードを確認してからグンタを見た。


「俺はこいつと別行動だ。グンタ達は先に行け、てめえらだけでも出来るだろ」

「ハッ!了解しました!」


五人が木から降り立つ。
…なんでリヴァイさんは別行動なんか。そんなの、少し考えればわかることだった。


「ごめん、リヴァイさん。私が、足でまといだから」


私は遅いし、みんなといたらみんなの足が引っ張られるから、みんなを先に行かせたんだ、きっと。


「勘違いするなよ、セシリア。俺は別にそういうつもりで別行動をとったんじゃねえ」

「…?」

「てめえの魔法は、団体行動には向いてねえと思ったからだ。お前には俺がいれば十分だ」


顔を上げると、リヴァイさんは眉間にしわを寄せて、分かったか、と聞いた。そっか、そう言われればそうかもしれない。近くに仲間が多いとなんだか魔法を使いづらいというか。リヴァイさんはお見通しだったということだ。


「そのかわり、お前を守るやつも減ったんだからな。俺のそばから離れんなよ」

「…」

「…?どうした」

「な、なんにも」


かなり恥ずかしいセリフに赤面する。む、無意識…だよね。びっくりした。
リヴァイさんは問題発言に今気づいたのか、ハッとして眉間のしわを寄せて舌打ちをする。そしてアンカーを発射した。


「置いて行くぞバカが」

「私なにも言ってないんですけど!」


慌てて杖にまたがった。


  




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