革命前夜

 
リヴァイさんの鬼畜修行の日々に疲れ果て、へとへとになった体を引きずって食堂に夕食を食べに来た私。


「あー…死にそう…」

「このくらいでグダグダ言うな」

「あー…私、ニンゲンに殺されるんだ…」

「聞いてんのかてめえ」


聞こえてませんね。今の私には、シチューしか見えてないからね。配膳されたシチューを手にリヴァイさんについて行くものの、誰かにぶつかりよろりとよろめいてしまった。傾くシチューの器。ああ、私の命の糧が…


「おっと、危ない」


よろけた私と器を受け止めたのは、ハンジさんだった。シチューが無事なことに感動を覚える。


「ハンジさん!ありがとう!」

「いいよいいよー。セシリアは怪我ないかい?」

「うん、ハンジさんが支えてくれたから」

「気をつけなよー」


もう一度ありがとうと礼を言って、しっかりとお盆を抱え直した。リヴァイさんを見ると、両手を不自然に出していた。引っ込みのつかない手、という感じだ。私の視線に気がつくと、ぱっと下ろした。なんだったのだろう。
自然と同じテーブルに座るハンジさんと私達。いただきます、と手を合わせてから、シチューに手を付けた。


「んーおいしい…体に染み渡るぅ」


ゆっくりしみじみと咀嚼して、飲み込む。じんわりと体に染み渡って行く気がする。それを見てハンジさんがくすっと笑った。


「ずいぶん幸せそうに食べるねえ。 へとへとのようだけど、大丈夫かい?」

「大丈夫じゃないよー、リヴァイさんの特訓が大変すぎて」


今日だって、飛ぶ練習にはじまり、魔法の練習と、筋トレ。あと乗馬の練習も。どれも必要な事かもしれないけれど、大変すぎる。でもそのぶん、力がついて来ている実感がある。巨人に食べられたら元も子もないから頑張るしかない。


「まあまあ、リヴァイがそこまで特訓に付き合ってくれるってこと、そうそうないよ。それだけ期待してんのさ。頑張りなよ」

「……そうなの?」


リヴァイさんを見ると、余計なことを、と舌打ちをしてじろりとハンジさんを見てから、シチューを食べながら言う。


「…別に。巨人相手にビビって、勝手に死なれたら困るからな。それだけだ」

「またまたあ、素直じゃないんだからー」

「メガネ割るぞ」


けたけたと笑うハンジさんが私の背中をぽんぽんと叩く。うん、なんかちょっと、元気出た。
シチューを食べ終わったころに、ハンジさんがそういえばと話題を変えた。


「忘れてた忘れてた。エルヴィンがセシリアを呼んでたよ」


だいぶ前かなあ、なんてへらへら笑いながら言う。


「早く言ってよ!」


ガタッと席を立ち、大急ぎでエルヴィンさんの部屋へ向かう。が、すぐに呼び止められた。


「そっちじゃないよー!エルヴィンの執務室はあっち!」


バリバリ道間違えてた。恥ずかしい。だって初めて行くんだもん!!結局、リヴァイさんが案内してくれた。


「エルヴィンさん、呼んだ?」

「ああ」


席を立ったエルヴィンさんが私の前まで歩いて来る。なんだかほんの少し不安になる。でも、私の後ろにはリヴァイさんもいる。それが心強かった。


「十日後に、壁外調査に行く。君も一緒だ。行けるね?」


覚悟はとっくに出来ている。私はこくりと頷いた。





ついに壁外調査が明日に迫った日のこと。
ざわ、と木が揺れる。風が髪を揺らして、呆然とする私の意識をこの場に呼び寄せた。


「これ…は、」

「墓だ」


ずらっと並ぶお墓。それこそ数えきれないくらいの量の墓が、私の前にあった。
たくさんの名前が綴られている墓標もあった。


「壁外調査で死んでいった奴らの墓だ。だがここに眠っている奴らはごく一部でしかない」

「そんなに…いるの」

「一回の壁外調査でも大量に死ぬ。多くの兵士が巨人に食われる」


分かっていたことだった。何度もリヴァイさんに危険だとは聞いていたし、たくさん死人が出るとも聞いていた。でも、私は分かっていなかったんだ。残酷な現実を見せつけられて、私はただ呆然と見つめた。


「俺は、こいつらのためにも巨人を殲滅させる。必ずだ」


静かだけど闘志が滲むリヴァイさんの声、顔を見るため横を向く。


「っ」


そして思わず息を呑んだ。
リヴァイさんが、いつも強くてぶっきらぼうで何をしてもされても動じないリヴァイさんが。辛そうに痛そうに、顔を歪めて墓を見つめていたから。
私は無意識的にリヴァイさんの腕をガッと掴んだ。リヴァイさんは驚いて視線を私に向ける。


「なんだ」

「あ、いや、」


泣いているかと思った。
でも、リヴァイさんの顔には涙なんかなくて。ほんの少し安心して、ごめんと腕を離した。
私は、この世界に来たばかりで、何も知らないし何も分かってない。それでも。
残酷なこの世界の何かを、変える事が出来たらいい。そんな資格がないことだって分かっているけど。魔女は偉大なのだ。魔女はニンゲンの世界をも覆すことが出来るのだから。


「リヴァイさん」

「なんだ」

「私、頑張る。ニンゲンはこれ以上死なせないから。もうお墓は増やさせないから」


そうしたら、リヴァイさんは悲しまなくて済む。もうあんな顔しなくて済む。


「…死ぬようなことだけはすんなよ」

「魔女は簡単に死なないよ」

「どうだかな」

「それに、リヴァイさんが守ってくれるんでしょう?」

「…まあな」


怖くないと言えば嘘になる。魔女だって食われて噛み砕かれて胃液で溶かされたらおしまいだ。不死身な能力は持ち合わせていない。
でも、何よりも。リヴァイさんのさっきみたいな悲痛な顔なんて、見たくないから。だから頑張ろうと、心に決めた。


  




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