紅茶が香る

 
「オロバスの女性の好み?」


ペトラが顔を赤くしながらこくりと頷く。
急に何かと思えば、ペトラが聞いて来たのはオロバスはどんな女が好きか、だった。


「オロバスは…そういうのには興味ないと思うけど…」

「そ、そうなの?」

「あの堅物くそまじめ執事でしょ?あんまり想像出来ないわ」


女がどうこう言ってるひまがあるなら、掃除しえ洗濯物たたむような男だよ。オロバスは。そして何より口が悪い。顔は確かに良いけど、中身がね…。中身を知った上で近寄って来る女はなかなかいないんじゃないだろうか。


「でも、なんで?」

「……察してよセシリア、鈍いわよ」


いっそう真っ赤になってどんどん声が小さくなる。ぐるぐる巡る思考の果てに、はっと気がついた。


「………まさか、オロバスのことが?」


ペトラの顔を覗き込むと、真っ赤になって湯気が出そうなくらいだった。
…Really!?


「…えええ!」

「セシリア声が大きい!」

「だって…ええ!あのオロバスが!?顔は良くても中身伴ってないからね!?」

「す、少し、だよ?かっこいいなあって思っただけ!」

「そんなの顔だけだよ!!」


近くに人がいないのを良いことに声を落とさずに言う。
いやまさか、ええ…ニンゲンは、顔を重視するのかな…ペトラはオロバスのあの毒舌を知らないからそういう風に言えるのよ…
もはやドン引きだが、まあ外見に関しては分からないこともない。素直にかっこいいし。…黙っとけば。


「うう…でも…私には兵長が…っ」


そう言いながら悶えるペトラ。私はぴくりと反応する。兵長ってリヴァイさんよね?


「ペトラ、リヴァイさんと恋人なの?」

「え!?ああ、そういう意味じゃないわ。私なんかがそんな、兵長となんて!ただの憧れみたいな感じ!」

「なんだ、びっくりした」


そんな言い方するからそうなのかと思ったじゃん。もう、驚かせないでよ。
そう言われてみれば…リヴァイさんって、恋人、いるのかな。
ふと気になったけど、今はペトラをどうにかしなきゃいけないし、私には関係ないことだ。そんな疑問はすぐに頭から消えた。


「私、そういうのわかんないのよねえ。呼ぼうか?オロバス」

「え!?」

「呼んだほうが早いわ、うん。言いたいこと言えばいいよ」

「ちょ、ちょっと待ってセシリアー!」


杖をかざそうとして、服を掴まれる。なんなのだ、じれったいなあ。


「どうしたいの、ペトラは」

「どうしたいっていうか…かっこいいなーって思っただけだから…」


もじもじして照れるペトラはじれったいけどなんだか可愛い。恋する乙女の力とでもいうのか。


「ちょっと…話してみたいなあ、とか…」


なにこの子ぐうかわ。結婚しよ。


「よっし、私に任せて!なんかやる気湧いて来た!用事がある風を装って、さりげなく会話させてあげるわ!」

「…!ありがとうセシリア!」

「任せて、ペトラ!」


にっと笑って杖を握る。こんなに可愛いペトラだもん、オロバスが何か粗相をしなければ良い雰囲気になるかもしれない。気合十分で魔方陣を書き出したそのとき。


「セシリア嬢、部屋の掃除が終わりました」

「「うわあああ!?」」


思わずペトラと叫ぶ。今呼び出そうとしていたオロバスが手から手袋をはずしながら現れたからだ。なんでいるの!?Why!?


「あ、そういえば、自室の掃除頼んでたっけ…」


たらりと汗をたらす。すっかり忘れてた。オロバスは相変わらずの無表情で頷いた。


「はい。ついでに紅茶も用意いたしましたのでどうぞ」

「あ、う、うん!ありがとう!じゃあ、ペトラも一緒にどう!?」

「い、いいの!?」

「もちろん!オロバス、この子友達になったペトラっていうの。ペトラの分の紅茶も用意してくれない?」

「かしこまりました」


丁寧に敬礼して、ペトラに体を向ける。紹介までさらっといれたし、ナイス私、と自分を褒めながら見守る。


「ペトラ様ですね。私、オロバスと申します。セシリア嬢がお世話になっているようで」

「いえ…!私、ペトラといいます!よろしくお願いしますっ」

「すぐ紅茶を用意いたしますのでお待ちを」


ポーカーフェイスは変わらずだが、私と話すときより物腰が柔らかい。その調子だ、とニヤニヤしそうな頬を手のひらで抑える。
するとそこへ、タイミング悪くも、あの人がやって来てしまった。


「ここにいやがったか、セシリアよ…って……なんでてめえがここにいやがる悪魔野郎」


こっちのセリフだよ!!なんでリヴァイさんがここに来るのかなあ!空気読めよ!!
と全力でオーラを放つが、私には目もくれずにオロバスにつかつかと歩み寄る。ペトラが慌てて敬礼して一歩下がる。くっそ良い雰囲気だったのに!


「セシリア嬢の命により参りましたが何か?良い気になるなよ下等種族が」

「てめえ…態度を改める気ねェな。削ぐぞ」

「貴様に出来るのならばやってみるがいい。その前にその小さき体をへし折って差し上げよう」

「小さき体だと?上等じゃねェか」


あああリヴァイさんの逆鱗に触れた!!禁句ワードが!今にでも勃発しそうな喧嘩を仲裁しようとする。仲裁するのにも勇気がいるものだ。


「ストップ!還されたいの、オロバス。はい紅茶入れに行って!」


二人からぎろりと睨まれる。ひいい怖いって!!
しかしオロバスに命じると、すぐに部屋へ向かってくれた。リヴァイさんは盛大な舌打ちをしたが。ふとペトラを見ると、ぽかんとして引きつった笑みを浮かべていた。あ、これはもう、鬼畜モードオロバスを見て幻滅したな。だから言ったのに。固まったペトラを半目で見ていると、おい、と背中を叩かれた。


「俺はセシリアに用があって来たんだよ」

「え?」

「魔法の修行を行う許可が降りたんだとよ。明日から修行をやっていいそうだ。ハンジが言っていた」


不機嫌そうな声で言われる。ハンジさん、許可をとりに行っていてくれたのか。今度お礼を言わないと。じゃあ明日から修行か。了解、とリヴァイさんに返事をして、ペトラを引っ張って紅茶を飲みに行った。


  




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