ドカン!
台所から起こるはずのない音が発生した。目の前の鍋からはもくもくと煙があがり、ものすごい異臭が放たれている。咄嗟に鍋に蓋をして、見なかったことにした。
ドタドタと足音が聞こえる。きっと銀ちゃんだ。
「おまっ、何してんのォォォ!」
ほらやっぱり。慌てて鍋の前に立ち、隠そうとする。
「え、な、なにが?なんにもないよ。久しぶりの料理に挑戦してみたら鍋が爆発してカレーが暗黒な感じになったとか、そんなの全然ないから!」
「お前隠そうとしてねーだろ。全部この異臭とその鍋とお前の口が物語ってるからね」
銀ちゃんは、はあと大きくため息をついた。それがなんだか悲しくてしゅんとうなだれる。
「お前なあ…大事な食糧を…。なんで挑戦してみたの、壊滅的に料理出来ねーだろお前」
言いながら、鍋の蓋を開ける銀ちゃん。うっとうめいて光の速さでまた蓋をした。
「だって…」
ぼそりとつぶやく。そりゃ、自分が料理出来ないのくらい分かってる。でも、それでもやってみた理由。
「これじゃ、お嫁さんになれないもん。花嫁修行しなきゃ、あたしなんか、誰ももらってくれないかとしれないから…」
目が潤む。声がしぼむ。
すると、銀ちゃんはなんだよ、そんなの。と頭をかいた。
「
心配しなくてもちゃんと俺が貰ってやるから安心しなさい!」
目をぱちくりさせる。ぷっと吹き出した。
「ふふ、じゃあ安心だね」
「そーだよ、ったく。だから変なことすんなよ」
頭をぐしゃぐしゃと撫でられる。髪がボサボサになったけど、まあいいや。嬉しくて、鍋のことなんかどうでもよくなった。
「じゃあ、私帰るね!ばいばい銀ちゃんっ」
「おう。また来いよー…ってまておいまてまてまて!鍋!鍋どうにかしていけ!鍋っ!」
「お邪魔しましたー!」
「おいいいい!!」
いつかは、おいしい料理を銀ちゃんに作れる日が来るといいな。
…まあ、この分じゃ無理だけど。
前 | 戻る | 次