マヨ丼とあずき丼


「聞いてバイトちゃーん、パチンコ負けた…げ!!」

「うっせェな、誰…げ!!」


お客様にオーダーをとっている最中、お馴染みの声が聞こえて振り向くと、ちょうど今ご来店した銀さんが親子丼を食べていたマヨラーお兄さんと顔を合わせていた。なんだろう、お知り合いかな?にしては、会った瞬間げ!!ってひどくない?


「いらっしゃいませ、銀さん。お知り合いでしたか?」

「ちっ…げーよ、誰がこんなマヨラーとお知り合いかってんだ。親子丼がカワイソーなことになってますが頭大丈夫ですかー?」

「あァ?頭おかしいのはてめェだろうが。こっちこそてめえみたいな脳みそまでクルクルパーな奴と知り合いなんて願い下げだ」


やはり知り合いらしい。わかりやすいな、それじゃ肯定と同じことだ。ばちばちと火花が散りそうなほど睨み合って、銀さんがお兄さんと一つ席をあけてカウンターに座った。


「バイトちゃん、アレよろしく」

「あー…ハイ、アレですね」


アレかあ、と内心うんざりしながらオーダーを取る。アレを作る厨房の人がかわいそうだ。吐き気を催すはずだ。オーダーを伝えて、とりあえずお冷やを出す。


「ったく、パチンコ負けてイライラしてんのにこんなときになんでコイツと会っちゃうかなー。バイトちゃんに慰めてもらおうと思ったのによー」


銀さんはため息をつきながらぐいっと水を飲む。横から聞いていたお兄さんがぴくりと眉を動かす。


「俺だって、仕事溜まっててイライラしてんだよ。気分転換に来たのに、もっと胸糞悪ィ」

「じゃあ土方くん早く帰れば」

「いやてめェが帰れよ!」


なんだかコントのようだが、余程仲が悪いようだ。どんな仲なんだ、と言い合いを聞きながら思う。すると厨房からお呼びがかかった。アレが出来たのだ。


「銀さん、お待ちどうさまです」


どん、と置いたのは、白いホカホカ白米に小豆がこれでもかというほどかかったどんぶり。見ただけで小豆ノイローゼにでもなりそうだ。いや、少し言いすぎた、お兄さんのマヨ丼もなかなかのものだったし。
ちなみに銀さん特注品だ。そりゃそうだ、こんなもの頼むのは銀さんしかいない。最初頼まれたときは、先輩のバイトさんが頑なに許可を出さなかったのだが、そのバイトさんが辞めてしまって、詰め寄られた私は断れずに許可してしまった。糖尿病寸前らしいのだが、大丈夫なのだろうか。


「どーもね。うまそー」


嬉しそうに箸を取った銀さんだが、それを見たお兄さんが嫌そうに言った。


「なんだその小豆フィーバーな見るからに甘い糖分のかたまりは」

「宇治銀時丼ですぅー」

「見たくねェ、おいバイト、すぐそれを下げろ。俺の視界に入る」


急に話を振られて驚く。ここで振られると思わなかった。戸惑って、あ、とかえ、とか言っていると、銀さんがそれを制した。


「バイトちゃん、聞かなくていいからな。てめーのマヨ丼より百倍マシだ、それを毎回運ぶバイトちゃんがかわいそうだわ。バイトちゃんのためにもここに来んな」

「俺のほうが千倍いいわ!そろそろ斬るぞてめえ!」

「あー怖え。バイトちゃん、こいつに何もやられてない?真選組副長はこれだからやだやだ」


ん?今、何かすごい言葉が聞こえたぞ。真選組、副長?どういうこと?
やれやれと肩をすくめて丼を掻き込む銀さんにおそるおそる聞く。


「真選組副長…って…」

「んぐ、あれ、知らねーの?このマヨラーだよ。チンピラ警察24時のとこの副長の、土方くん」

「えええええ!?」

「俺、言ってなかったか?」

「初耳ですよ…!」


嘘だー!!だって、こんなマヨネーズ中毒の変人お兄さ…げふん、こんなマヨネーズ大好きお兄さんがあの真選組副長!?
まじまじと見つめると、親子丼を食べ終わったお兄さんがそういや、と私を見た。


「ウチの一番隊隊長とパシリも邪魔したそうだな。美味かったと言ってた、世話になったな」

「うわージミーはパシリ扱いかよ」

「い、一番隊隊長とパシリ…?」

「沖田と山崎だ」


言われて、暴言吐きまくるサラサラヘアーお兄さんとあんぱんのお兄さんが思い浮かんだ。
ああああ!!
驚きすぎてしばらく口がぽかんと空いたままだった。


「チンピラ警察だからな、なんかされたら銀さんに言えよ?バイトちゃんならタダで依頼受けてやっから」

「はあ…」

「なんもしねェよ!むしろ、こいつになんかされたらすぐ言え。しょっぴいてやる」


お兄さん___土方さんは紙と筆ねェかと言ってきた。ハッとして慌てて差し出すと、何か数字をさらさらと書き出した。


「これ、俺の携帯番号。こいつに限らずなんかあったら言え、これでも警察だからな」

「あ…ありがとうございます…」

「何してんの土方くん!抜け駆け禁止!おらよ、これ、万事屋の名刺。この番号にかけりゃ俺んとこにつながるから」


名刺を押し付けられ、ありがとうございますと受け取る。何かあったら、って、何もないですよ。とは思いつつも、好意は受け取っておこうと思い、大事にしまっておいた。





マヨ丼とあずき丼

(ごちそうさん。また来る)
(帰れ帰れー)
(なんか…疲れた…)

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