衝撃のカツ丼


カランと扉が開いて、笑顔で出迎える。


「いらっしゃいませ!」


入って来たのは瞳孔開きかけた二枚目お兄さんだった。煙草を咥えてカウンターに座った。申し訳ないけれど、店内は禁煙だ。その旨を伝えると、悪い、といって消してくれた。


「ご注文は…」

「カツ丼を頼む」

「はいっ」


カツ丼一つ、と厨房に伝えに行くと、店長が入ってきたお客様を見ながらひきつった笑みを浮かべていた。不自然すぎる表情を見つめる。


「店長?」

「あ、な、なんだ?」

「どうかしましたか?」

「いや…」


曖昧に濁して、カツ丼を手渡された。それからなぜか、マヨネーズも。
きょとんとして店長とマヨネーズを見比べると、店長はいいから行ってこいと私を厨房から追い出した。言われるままに届けに行く。


「お待たせしました、カツ丼です」

「あァ」


カツ丼を置いて、マヨネーズをおこうとして少し迷う。
マヨネーズ…どうすればいいんだ。置くの?この人使うの?カツ丼に?いやいや…カツ丼にマヨネーズって、ないでしょ。
すると、お客様が手を出した。


「気がきくじゃねェか」

「あ…」


やっぱりマヨネーズ使うのか。手渡すと、フタを開けて逆さまに構えた。
すると、次の瞬間。
ぶちゅちゅ。でろでろでろ。そんな効果音が聞こえそうなくらい、無表情で、いやほんの少し嬉しそうにものすごい量をぶっかけた。


「…………」

「よし」


何がよしなの。
黄色い物体が渦巻く丼をカツカツと掻き込み、食べ進めるお客様。私は全機能を停止してぽかんと見ていた。
それを違う席から遠巻きに見ていた他のお客様が箸を落とした音がした。あ、お客様もご覧になられましたか。目の前の光景はあるまじきもので、そりゃあ見てしまえば、食べる手は止まるだろう。


「お客様…」

「あ?」

「お、美味しいですか?」


放心状態でそう聞くと、満足そうに頷かれた。


「最高だな。なんだ、うらやましいか?」

「いえ全く」


つい即答すると、お客様の眉がぴくりと動いた。ハッとして慌ててぺこっと頭を下げた。


「ごゆっくり!」


厨房に駆け戻って遠目からじっと見てみる。衝撃だ。あんなの、食べる人がいるのか。…ええええ。
汗をたらりと流しながら見ていると、肩に手が置かれて振り向いた。


「お疲れ」


店長が苦笑いで親指を立てた。





衝撃のカツ丼

(おか…お会計です)
(うまかった、また来る)
(は、はい…)

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