買い出しで出会った
今日は食材の買い出しに来た。
大江戸スーパーの店内は、いつもは人が多いのだけど、今日はそんなにいない。少ない方だ。まあいいや。とにかく、買うもの買って帰ろう。
「えっと、まず…」
買い物カゴを手に、どんどんと食材をいれていく。全く、こんなのかよわい乙女に頼むことじゃないよね。まあ、カートあるから大丈夫なんだけど。
がらがらとカートを押しながら、最後の食材を求めて歩く。
「あった、牛乳…っと、」
安売りの牛乳を手に取ると、ちょうど誰かと手が重なった。
「あ…すいませんっ」
「あ、いえ、こちらこそ…」
ぱっと手を離し、顔を見ると、少しやつれたような青い顔の黒髪の男の人がいた。気づかなかった、気配がなかったよ。びっくりした。というか、この人のオーラ…どんよりしてるんだけど。なんか疲れてるのかな。どうしたんだろうか。
牛乳を手に取りながら、ちらりとその人のカゴを見ると、それはあんぱんと牛乳で溢れていた。
「あ、あんぱん…?」
思わず口に出すと、その人はへらりと力無く笑った。
「はは、まあ…仕事中はあんぱんと牛乳って決めてるんで」
「お仕事…それは大変ですね」
すごく集中力がいる仕事なんだろう。だから、あんぱんと牛乳だけなんて生活を…。この様子じゃ、きっと何日も続いているんだろうし。大変だろうなあと思い、少しでも元気を取り戻して欲しくて、ポケットを探り、かさりとそれを出す。
「あの、これ。どうぞ」
「…割引券…?」
うちの店の割引券。出来心、ほんの気持ちだ。
「私のバイトしてるお店です。お仕事、終わったらおいでください」
にこっとして言うと、その人はみるみる顔を輝かせて何度も頭を下げた。
「ありがとうございます、ぜひ行かせてもらいますんで…!」
「お待ちしてますね」
少し顔色が良くなったようにも見える。気のせいかな。
レジに向かう後ろ姿を見送った。
買い出しで出会った
(女神だ…!)
(にしても、なんであんぱん?)
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